私は前から不思議なのですが、こうした研究室の先輩の進路状況や、研究室で上に書かれているような理不尽が行われているということが、ほとんど後輩に語りつがれていかないという現実があります。その結果、数年前に起こったアカハラ事件とほとんど同じことが数年後の同じ研究室で再現されているなどという信じられないことがいまだに続いているところもあるようです。
というわけで、教員を糾弾して改善を迫ることも大切だと思いますが、学生側の情報流通をなんとかする策も講じる必要を強く感じているところです。
「学生による研究室選びは、最初から学生側の責任」と言いたいわけですが。
教育の質に差があったとしても、それは研究室を責めてよい理由になると思えません。なぜなら、「大学院の役割」というもの自体が一様に決まることはないと考えていないからです。
大学院によっても、研究室によっても、その方針は極めて多様です。
「やりたいこと」だけで研究室を選ぶ人は多いけれど、このこと(「研究室選びは就活」)を意識して研究室を選ぶ人はあまりいないのではないかなと思います。
学部や学科によって異なりますが、4年生で在籍していた研究室に修士課程もいることが多いことと思います。ということは3年生の末ごろに大学院進学を踏まえて、研究室を決める必要があるわけです。
それで、私なりに何の情報をみれば何がわかるかというチェック項目を提案したいと思います。各分野ごとに違いがあると思いますのであくまでもたたき台としてどうぞ。
自分の属している分野の大学院修士課程進学率、修士修了後の進学率をチェック
そもそも、大学院修士課程(博士前期課程)の位置づけは大学ごと、分野ごとに全く違います。「入院」と呼ばれるように修士課程から研究者の道を歩み始める分野もあれば、修士課程は学部の延長と考えるような分野(最近の工学部など)もあります。
自分が属する分野の修士課程の位置づけをまずは調べましょう。
- 文部科学省の学校基本調査を調べる
- 分野ごとの修士課程進学率、就職率がわかります。私の以前のエントリー修士課程(博士前期課程)進学はもう特別な話ではないもご参考まで。
- 自分の進みたい大学院の教育方針を読む
- 研究者養成か、高度技術者(職業人)養成かが大まかに分かる
- 自分の進みたい専攻宛に来ている求人票を20社ぐらいチェックしてみる
- 有名どころはあるか、求人数はどのくらいか、学科(専攻)推薦はあるかどうか。もし、求人数や推薦があるのであれば、その専攻の修士がある程度社会に求められているということ
- 自分の専攻の修了率はどれくらいか(X+3年3月の修了者数/X年4月の入学者数)
- 修了率が例年1よりも大幅に大きいということは留年している人が毎年多いということ(どちらかといえば研究志向の可能性あり)。修了率が1ならば、すんなりと修了できるということ(どちらかというと学部の延長戦上の位置づけであることが多い)。修了率が毎年1を切っているならば、そこには入るべきではありません(休学者や退学者がコンスタントにいるということだから)
研究室の主宰者のチェック
- 研究分野をチェックする
- 実験系か理論系か。拘束時間や研究のスタイルが大きくことなる
- Web上でその研究分野で研究をしている大学院修士課程の声を集めてみる
経歴をチェックする
- 会社勤めの経験があるかないか。出身大学はどこか(旧帝国大学系ならば、アカデミックポストを得るための人脈が豊富な可能性もある)。助手(助教)経験があるかないか。留学経験があるか無いか。
- 考え方や修士課程の位置づけが経歴によって大きく異なる
- 就職の口利きもあり得る(研究室の学生の就職先もチェック)
業績をチェックする
- 最近5年間くらいの外部資金の獲得状況はどうなっているか?
- 一般的に外部資金をよく獲得している先生の下ならば経済的負担が少なくなる可能性が高い
- 科学研究費補助金データベースと国立情報学研究所 研究者リゾルバー
- 主著者としての最近5年間くらいの論文執筆状況はどうなっているか?
- 現在、積極的に研究をしているかどうか。どういう事柄に興味を持っているのか。どのくらい有名な雑誌、国際会議に積極的にチャレンジしているのかがわかる
- 主著者は多くの場合は第一筆者。ただし、分野によって著者の並べ方が異なるので分野ごとの慣例に従うこと
- 短期間なのにあまりにもいろいろなテーマに関して常に主著者になっている場合には少し注意が必要
- 計算機科学系ならば私の以前のエントリーであげているWebページで論文チェックをすると良い。論文の公開について
- 共同研究者に外部の人がいるかどうか
- 人脈の広さや、自大学あるいは日本における大学の状況を俯瞰的に見れるかどうかがわかる
Webページ自体の構成をチェックする
- 何を主としてページが構成されているか?研究業績?担当科目?研究室運営?その他?
- 基本的に何を中心業務として考えているかの目安となる
- 更新が頻繁であるならば、比較的マメな性格であり、情報発信に対してオープンな考え方を持っていると考えられる
研究室のWebページをチェックする
- 更新は適切にされているか?
- 更新を誰が行っているかはわからないが、情報発信をマメにするほど精神的余裕があると見るべき
- ある程度、研究室運営がされていると予想される
- 教育方針が明示されているか。そしてその内容はどうか?
- 情報公開に対する姿勢と教育方針が理解できる。明確に書いてあればあるほどはっきりとした性格であると予想される
- そもそも研究室のメンバーは何人か?
- 修士修了生の進路(就職状況)、進学状況はどうなっているか?
- 修士修了生は基本的に進学か?就職か?はたまた、混在しているのかで研究室の教育方針が大まかにわかる。数年間を見ること
- いつ入学していつ修了しているかをチェックし、留年状況を見ること
- 学生が著者の論文発表・口頭発表の状況
- 様々なテーマに対して、学生が主著者である論文が発表されている場合は基本的に自由にテーマを選ばせる傾向があると見てよい
- 様々なテーマに対して、先生が主著者である場合は分野にもよるが要注意
- ある一定のテーマに関する論文しかない場合は、研究テーマは大まかに割り振られるものと考えたほうが良い
- 自由に選べる方が良いのか、与えられた方が良いのかは人と場合によるのでどちらが必ず良いというわけではないことに注意。自由に選べるほうが当然難しいに決まっている。
- 学生が受賞した賞や受けた研究助成の状況
- 研究室メンバーの積極性や、それを容認する気風、何を良いとするかの価値観などがわかる
- 学生が作っているWebページはどういう感じか
- 研究室の雰囲気やどこまでを許しているかの目安となる
研究室訪問やインタビューでチェック
- 研究室の下足いれ、ゴミ箱、本棚の汚さ
- 汚れやすいところが汚れていないということは、研究室運営ができている証拠。複数研究室で共同使用している流しやゴミ箱、実験室の汚れ具合なども参考になる
- 掃除当番表などがあるか?それがちゃんと活用されていそうかもチェック。
- 学生が自由に閲覧できる雑誌や本はどんなものがあるか
- 図書館の整備状況や分野にもよるが、研究に関して学生が負担する費用の目安になる
- 研究分野の傾向が見える
- 管理か放任か
- 研究室への拘束時間はどういう感じなのか。自由な活動を認めているのか
- 研究室の行事はどういうものがあるのか
- ゼミのスタイルはどういう感じか?
- 管理された方がやりやすい人(ガイドラインがある方がやりやすい)とほったらかしの方がやりやすい人のどちらが優れているわけでもない。あくまでも性格や考え方の違い。自分がゆずれない事柄について優先順位を付けた上で調べるべき(例えば、正月と盆は絶対に帰省したい。朝は11:00からしか動けない。朝は早くても良いが夜19:00までには帰りたいなど)
- 先生は酒好きか、たばこ好きか、甘党か・・。研究室全体は・・・。
- 酒、たばこ、喰い物の好みが一緒というのは話をするきっかけになる。一方で、タバコ吸うときや酒飲むときに同席する機会も増える。それが良いのか悪いのか。
- メンバーのやる気はどうか。人柄はよさそうか。
- 多くの時間を過ごすメンバーなので、合うあわないを考えて
- メンバーの多様性はどうか?(出身校、学部は、属していたサークル、人種、出身国、地域など)
- 先生と研究室メンバーの距離感はどうか、近いか遠いか。
- 近いと意見も言いやすいが過小評価してしまう可能性あり。
- 遠いと意見がいいにくい。反論しづらい。
- 平日の夜10時くらいの研究室の様子は?朝9:00くらいの研究室の様子は?休日の研究室の様子は?
- 研究室や先生のコアタイムがわかる。一番良いのは規則正しい研究室が一番よい。
- 実際に誰が論文を書いているのか?
- 分野によるらしい。個人的な意見では以下のエントリーの意見に賛成
- 水たまりの雨音 - 大学院修士学生がしておいたほうが良いこと
「うちの研究室に来て修士に上がれば投稿論文が1本書けるように指導します.そしてそれを通して論理的思考(logical thinking)の一端を学べるので,その後企業に就職するとしても良い武器を授けられます」というのはいいアピールになるのではないかと思います.
番外編:他の研究室の人から目当ての研究室の評判をチェック
目当ての研究室の外ではその研究室はどういうように評価されているかも参考になると思います。特に他大学での評価が良い研究室、あるいは先生は、かなり信頼できるかと。自分にあうかどうかは別の話ですが。
終わりに
この話題は4月半ばに終わっているみたいですが、とても書きたくなったので思わず。