「PCR検査抑制派」に懐疑的な方は日医会COVID-19有識者会議「中間報告解説版」を読もう

いわゆる「PCR検査抑制派」に懐疑的な方(7/13 Session 22の特集に納得いかなかった方)は、 日本医師会 COVID-19有識者会議 の「COVID-19 感染対策におけるPCR検査実態調査と利⽤推進タスクフォース 」の中間報告解説版を読むと、自分が指摘したかったことがたくさん書いてあるのではない方思う。

  • 2020年7月21日:「COVID-19感染対策におけるPCR検査実態調査と利用推進タスクフォース」中間報告書解説版「PCR検査の利用の手引き:保険適用の行政検査を中心に」

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1. COVID-19感染対策におけるPCR検査の利用目的と拡充の必要性
(1)COVID-19感染対策におけるPCR検査の利用目的と意義

COVID-19感染対策におけるPCR検査の意義または利用目的は、大きく分けて4つある。1つ目は、患者を適切に診断して治療するための診療上の利用である。また、有症状の疑い患者に加えて、無症状のハイリスク患者をスクリーニングし、適切に隔離して院内感染を防止する感染制御の意義も大きい。


2つ目は、行政検査の本来の役割とする公衆衛生上の利用目的で、一般社会における感染拡大を防ぐために、無症状感染者を含めて予防的にスクリーニングを行う。これは、患者発生状況を地域別に把握し、隔離など対策の指標として適切なサーベイランス情報を提供することで、感染の拡大・蔓延を防止する。


3つ目は、ヘルスケアの利用目的で、企業活動の推進や個人の健康管理に用いる。企業が従業員の安全・健康を確保するための検診、海外渡航(や国内移動)のためのPCR検査陰性証明書、自己検診のためのDTC(消費者直販検査サービス)が含まれる。


最後に、行政検査を超えて、医療機関で実施した検査の情報も合せた患者発生動向のサーベイランスである。国および地域の感染状況を把握することにより、感染制御とともに、社会・経済活動を制限または緩和する上で、その判断と評価のための、政策立案上の基本的な指標とする意義がある(図1)。


PCR検査を利用する際には、これらの意義または目的の違いを考慮する必要がある。当初、専門家会議では、2月24日の第一回目の提言(見解)において、「PCR 等検査は、現状では、新型コロナウイルスを検出できる唯一の検査法であり、必要とされる場合に適切に実施する必要がある」、「急激な感染拡大に備え、限られたPCR 等検査の資源を、重症化のおそれがある方の検査のために集中させる必要がある」と述べた。また、日本感染症学会と日本環境感染学会による「新型コロナウイルス感染症に対する臨床対応の考え方」(4月2日)においては、PCR 検査の原則適応は、「入院治療の必要な肺炎患者で、ウイルス性肺炎を強く疑う症例とする。軽症例には基本的にPCR 検査を推奨しない」としている。これらは、病床の確保など、医療資源の有効利用を踏まえた診療上の目的を前提としている6) 7)。
(p. 4より)

(2)検査性能を踏まえた考え方

臨床検査は、一般に、事前確率(有病率)が高い患者(集団)を対象として実施した場合に、陽性結果によって真に感染患者を診断する確率(陽性的中率または陽性予測値)を高めることができる。事前確率が低い場合は、検査が陽性であっても陽性的中率は低い。すなわち偽陽性の割合が高まる。したがって事前確率の低い患者(集団)を対象として、または有病率の低い地域や時期において、検査を広く行うことにより、偽陽性結果の割合が高くなることに注意が必要である7)。一方、仮にPCR検査の特異度を99.99%に向上させた場合は、有病率が必ずしも高くない(0.5-10%)疫学的調査においても、偽陽性が増えて陽性的中率が大きく低下することはない(表1)。例えば、保健所による積極的疫学調査のように事前確率が比較的高い場合(仮に事前確率10%)、PCR検査の性能は、感度80%、特異度99.99%と仮定した場合、偽陰性結果20%、偽陽性結果0.01%となる。10000人中の感染患者1000人の中で、偽陰性結果200人、非感染者9000人中、偽陽性結果1人、陽性的中率99.9%となる。一方、空港検疫のように事前確率が低い場合(仮に事前確率0.5%:空港検疫6/14現在の陽性率0.43%, 249/58,392 人)、PCR検査の性能は、感度80%、特異度99.99%と仮定した場合、10000人中の感染患者50人の中で、偽陰性結果10人、非感染者9950人中、偽陽性結果1人、陽性的中率97.6%となる。


99.99%と仮定した場合、10000人中の感染患者50人の中で、偽陰性結果10人、非感染者9950人中、偽陽性結果1人、陽性的中率97.6%となる。PCR検査の場合、輸血製剤におけるHCV-RNA、HIV-RNAスクリーニングのごとく、特異的なプライマー設計に加えて、汚染による偽陽性を回避するなど、技術的に特異度を十分に高めることができる9)。このため、PCR検査の運用においては、検査目的に合致した検査の設計と性能評価(妥当性確認)、およびそれに基づく内部精度管理、さらには外部精度評価による検査室の能力モニタリングによる継続的な精度の確保と維持が重要となる。


検査性能を踏まえて、事前確率を高めた検査の効果的な利用の考え方は、疑い症状のある個別の患者診療において意義がある。しかしこの考え方は、有病率が必ずしも高くない疫学調査において特異度の高いPCR検査を用いた場合は、必ずしも該当しない。むしろ感染制御の観点からは、広く検査を行うことにより陽性者を拾い挙げることに意義がある。一方、検査の実施件数を絞った場合、感染患者の診断の機会を逸することにより、患者診療上では院内感染防止、公衆衛生上では地域流行防止、ヘルスケアでは社会・経済活動の継続、政策立案上では社会経済回復・維持、それぞれにおいてのリスクとなる(後述)。


上記のPCR検査の利用目的と集団(公共的影響)の関係では、目的別に有病率(事前確率)の異なる集団を対象として、PCR検査を実施するそれぞれの意義がある(図2-1, 2-2)。クラスター対策など積極的疫学調査や個別感染症診療のように事前確率を高めたPCR検査の実施に加えて、水際対策としての空港検疫、弱者保護のための院内感染対策や高齢者・福祉施設の施設内感染対策としてのPCR検査は、有病率(事前確率)は低いまたは不明であるものの、集団リスク(公共的影響)さらには経済的影響の観点から考えると意義が高い。これに対して、我が国特有の議論として、有病率(事前確率)が低く無症状の場合、PCR検査の実施は制限すべきとの意見が強い。しかしながら、ヘルスケアの枠組みで、海外交流、音楽・スポーツイベント、観光、特定のハイリスクな職業など経済活動を安全に推進する上では、有病率(事前確率)が低く、集団リスクが比較的低い場合でも、社会・経済的な影響の大きさを加味すると、企業(あるいは自己)負担にてPCR検査の実施を拡大する意義は大きい。また、ヘルスケアの枠組みでの陽性患者の拾い上げと保健所報告は、患者発生動向のサーベイランスの一貫として国および地域の感染状況を把握する上で、重要な情報である。すなわち、感染拡大のリスク管理の観点から、事前確率によらずともPCR検査を活用すべきである。
(p. 5より)

その上でPCR検査体制の改善については同タスクフォースの中間報告書に予算手当のレベルで提言がある。

  • 2020年5月13日:「COVID-19感染対策におけるPCR検査実態調査と利用推進タスクフォース」中間報告書

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今までPCR検査が進まなかった理由については、検体採取や試薬機器、検査員の確保、行政検査の仕組み等、様々な要因が関与するが、最大の理由はそれらの対策に財源が全く投下されていないためであり、地方自治体を始め個々の医療機関、企業の自主的努力にゆだねられて来たことによると考えられる。


我が国の2020年度一般会計102兆6580億円に加えて、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策関係経費としての補正予算25.7兆円が可決されたが、その内の22兆円は経済財政出動に関する費用であり、感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発と銘打った1.8兆円は補正予算の7%である。


さらに(1)感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発1,8兆円の内訳は下記の通りである。すなわちマスク等:2095億円、医薬品:655億円そして1兆円が地方創生臨時交付金となっており、感染症対策交付金は1490億円に留まる。


その中でPCR検査の増強に関する費用は約94億円で、①PCR検査等の着実な実施のための経費(地方衛生研究所におけるPCR検査の実施や保険適用されたPCR検査の自己負担分の公費負担)=49億円、⑤新型コロナウイルスの迅速な検査方法の確立のための研究開発事業費は46百万円に辿り着くと国産勢のPCR検査薬・機器開発の実現は絶望的である。


日本国の財務状況は累積公債発行額が約1100兆でGDPの2倍と言う現状ではあるものの、その借金の大多数は日銀、年金、銀行等を通じた国民によるところであり海外依存が極めて少ない事、日本銀行調査統計局(2020年3月末)による国民の金融資産は昨年末で1903兆円と言う現実のバランスや日銀の国債発行額上限撤廃を踏まえて考えて考慮しても財政的に破綻する局面ではない。


今回の国難においては、国民の生命と生活を守る為の日本全域を対象としたPCR検査体制基盤の確立に国家財源と資源を投じる事が、長期的な社会・経済基盤の維持成長のために合理的と考える。現在のPCR検査に関する様々な課題を解決し、本来の医療活動、社会・経済活動を回復するためにも、そして今後のパンデミックの備える上でも以下の内容の財政出動が必要と考える。(概算は表1参照)
(pp. 9 - 11より)

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