飛び級の利点

卒論をやってみてから博士進学を考えた方が良いのコメント欄で質問をいただき、飛び級の利点についてやり取りしたものをこちらにエントリーとして記述。

hogehogeさんからのコメント

hogehoge 『飛び級で学位を取っても、後からポスト得るまで数年つっかえて結局飛び級してもしなくても変わらないっていうことになるように思えるのですがどうでしょうか?

学費が飛び級した分安くなるぐらいしかうまみがないようにおもうのですが。一般企業に就職する際に年齢面で有利、ということはあるとは思います。しかし記事にあるようなキャリアをねらう人が、一般企業就職希望で入ってくるのかというのもあまりなさそうに思えます。

飛び級もできるよ、という点ではいいのでしょうが、何らかの現状打破の可能性を秘めた展開とはつながらない、別の話なんだろうなという感じです。』 (2007/10/27 16:22)

私の回答。

こんにちは。

アカデミックポストは、年功序列で割り振られるわけではないので、
> 飛び級で学位を取っても、後からポスト得るまで数年つっかえて
> 結局飛び級してもしなくても変わらない
ということはないです。

飛び級した場合の利点は、基本的には年齢のほかの条件で他の研究者と
互角であるとき必ず有利に立てる点にあります。

1.飛び級で学位をとったという事実自体が優秀さの証となる

2.研究助成金に申請した際に、内容の評価がほぼ同じならば、年齢が若いということはひとつの有利な点になる(短い時間でライバルと同程度の業績を上げたという証明)

3.年齢制限がある各種の研究助成金、ポストに対して他の人よりも多くの回数チャレンジできる。たとえば、科学研究費補助金の若手の規定は37歳以下。

4.最近の助教の採用条件は「学位もち」であるので、人よりも早くアカデミックポストに応募が可能となる。アカデミックポストは定期的に空くものではないので、準備が早くできた人ほど、有利になる

5.日本の新卒採用の年齢制限は1浪1留、すなわち標準修業年限+2年のことが多い。なので、修士課程の新卒採用は26歳まで。2年飛び級をして、学位を26歳で取得できれば新卒採用にも応募が可能となり、進路の選択肢を増やすことができる。

6.26歳で博士をとり、企業に就職し、3年間働いたとしても29歳。29歳時にアカデミックポストの復帰を狙っても、同年代のライバルはポスドクを1年間勤めた程度。十分に戦える可能性がある。

> 飛び級もできるよ、という点ではいいのでしょうが、何らかの現状打破の可能性を秘めた展開とはつながらない、別の話なんだろうなという感じです。

ポスドク問題の多くの点は日本の採用慣習に関連していますので、26歳の博士が多く輩出されるようになり、彼らが企業へ入社することが多くなれば、企業側でも博士に対する先入観がとれ、博士の採用に積極的になることが期待できます。』 (2007/10/27 22:30)

hogehogeさんのコメント

丁寧な回答ありがとうございます。
おっしゃるとおり、飛び級は能力を示す一つのシグナルなわけですが、私が想定していたのは、能力があるなら標準年限でも他の人より論文の本数なり質なりが高くなって、飛び級という指標がなくても結局同じようになるというぐらいのことでした。

確かに、早く市場に出て応募のチャンスが増えるというのは大きいですね。科研については、基盤Cや萌芽ではなくて若手で出すと採用率が高いとかあるんでしょうか?年齢制限があるから高くなりそうですが。

あまり関係ありませんが法学政治学だと、東大は学士助手がまだ残っているか、修士助手がいるかというような特殊な世界があったなとか思いました。私は関係ない分野ですが。』 (2007/10/27 23:25)

hogehogeさんのコメントにはこちらでお答えさせていただきます。

確かに、早く市場に出て応募のチャンスが増えるというのは大きいですね。科研については、基盤Cや萌芽ではなくて若手で出すと採用率が高いとかあるんでしょうか?年齢制限があるから高くなりそうですが。

文部科学省:平成18年度科学研究費補助金 配分状況一覧(新規採択分)によると基盤C、萌芽、若手A・Bの採択率は以下のとおり。なお、それぞれの研究種目の内容はこちらを参照ください。文部科学省:科学研究費補助金 研究種目一覧

  • 基盤研究C:1人又は複数の研究者が共同して行う独創的・先駆的な研究、期間2年〜4年、申請額500万円以下の研究
    • 応募件数:31,079件
    • 採択件数:6,829件
    • 採択率:22%
    • 1課題あたりの配分額(平均):1,730,400円
  • 萌芽研究:1人又は複数の研究者が共同して行う独創的な発想、特に意外性のある着想に基づく芽生え期の研究、期間1〜3年、申請額500万円以下の研究
    • 応募件数:15,993件
    • 採択件数:1,677件
    • 採択率:10.5%
    • 1課題あたりの配分額(平均):1,848,360円
  • 若手研究A:37歳以下の研究者が1人で行う研究、期間2〜3年、申請額500万円以上3,000万円以下の研究
    • 応募件数:1,325件
    • 採択件数:332件
    • 採択率:25.1%
    • 1課題あたりの配分額(平均):9,352,410円
  • 若手研究B:37歳以下の研究者が1人で行う研究、期間2〜3年、申請額500万円以下の研究
    • 応募件数:18,089件
    • 採択件数:5,183件
    • 採択率:28.7%
    • 1課題あたりの配分額(平均):1,702,971円

基盤研究Cに比べて若手研究Bの方が少しとおりやすいです。科研費の採択は業績が大きくものを言うので結局は過去の科研費採択状況、公表論文の数で勝負が決まるようです。すると、若手研究に応募しているときには、上記30%に入るほどの業績が、基盤研究に応募するようになると平均、あるいは平均よりも下になってしまい、不採択のことが多くなると思われます。中学校の優等生が進学校の高校に入学したら、自分が平均か平均以下になってしまい戸惑うのと同じようなものです。

このような意味でも早いうちに学位をとり研究業績を上げる期間を長くするほうが年をとってからも有利に働く思います。

あまり関係ありませんが法学政治学だと、東大は学士助手がまだ残っているか、修士助手がいるかというような特殊な世界があったなとか思いました。私は関係ない分野ですが。

文部科学省中央教育審議会の資料新時代の大学院教育−国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて−附属資料資料9:大学院の課程の目的等の主な変遷(PDF)によれば、昭和49年(1974年)の大学院設置基準後に「博士=学問の大家」から「博士=研究者の卵」へと博士の位置づけが変わったのだと思います。修士終了後、24歳で助手になり、教授に45歳でなり、65歳で退職するとすると、1974年当時助手だった人は57歳。ちょうど教授のころあいです。この方々は博士を持っていなくても不思議ではありません。

また、つい最近まで博士持ちが多かった理工系においても博士課程中に退学し、助手となり、その後数年して論文博士として博士を取得するということが多く行われてきました。当然、文系でもそういうことがあったと思われますので、助手で博士を持っていない人がいてもおかしくはないと思います。

ただし、これからアカデミックポストにつくためには博士を持つことが必須となりました。