Code4Lib JAPANが主催するCode4Lib JAPANカンファレンス2015に行ってきた。2日間参加したけれども、大変楽しい時間だった。運営のみなさん、発表者のみなさん、参加者のみなさんお疲れ様でした。
お願い
ネット上ではnext49で活動しているので、以下の感想から私が誰だかわかっても書かないでくださいね。
会場
リクルート本社 アカデミーホール (グラントウキョウサウスタワー 41F) はとても良い立地&会場だった。ここで開催しているのに参加費無料とは。協賛団体の方々に感謝。無線LANが使えればよりよかったけど、高望みだね。
基調講演:小林 龍生氏(有限会社スコレックス)「未来の書物への夢想またはもうひとつのハイパーテキスト論」
なんか見たことある名前だなと思ったらユニコード戦記 ─文字符号の国際標準化バトルの人だ!
以下メモ
- 中野幹隆さんの話
- 神保町 ランチョン(ビアホール)を知らないのは編集者としてもぐりだと教えられた
- 小林さんが「ABC英語辞典」を作った時のエピソード
- 懇意にしている五島 正一郎先生にパソコンの話していたら、五島先生がパソコンを購入し、頼まれたので住所録を英語メモ帳に変更してあげる
- 五島先生が自分の英語収集メモをそのデータベースへ入力し、小林さんに渡す
- 小林さんがABC順に並べ替えてみたところ、中学校で習うべき単語から4つ足りないだけだった
- 4つの単語を追加して、「ABC英語辞典」を出版。よく売れたとのこと
- 上記の辞書出版を通して、データを集めて並べ替えることで価値があることを認識した
- 共観福音書のハイパーテキスト化を行った
- その経緯が「新潮」2007年5月号「中野幹隆の死―またはグーテンベルク銀河系の黄昏/小林龍生」に説明がある(配布資料として配られた)
- 時代の終焉:中野幹隆の死、中野幹隆時代の終焉(承前):上の記事の内容がほぼある。
- 【季刊哲学12号】 電子聖書:上の成果物
- その後、Webが広まりHTMLを用いたハイパーテキストがでてきたので、共観福音書をHTMLを用いてハイパーテキストてハイパーテキスト化した。
- せっかくなので上記の成果を情報処理学会の研究会に出すためその際に共観福音書だけでなく、芥川龍之介の「藪の中」もハイパーテキスト化した。
- ハイパーテキスト化することにより、テキストを立体的に読むことができる。
- 話変わって、EPUBとはなにか?
- 作成者の村田真さんいわく「HTMLとCSSをZIPで固めたもの」
- 実は、spine情報というものが入っている
- これが本とWebページの境目じゃないかというのが小林さんの考え → 小林 龍生: Web文書と電子書籍 製本機能としてのspine情報 , 情報管理, Vol. 55, No. 11 P 802-809 (2012) .
- 今は、「共観年代記」という形式について研究しているとのこと→小林 龍生ほか: 共観年代記に向けて, 研究報告ドキュメントコミュニケーション, Vol. 2015-DC-98, No. 6, pp. 1-6, (2015).
- 「共観年代記」の形式で電子記事がまとめられる世界において、本とは、ある読者が複数の記事を読んだ軌跡ではないかとのこと。
- 現在においては「書く」ことの特権性はなくなり、「読む」と同じになっているんではないか
- なので、「読む」軌跡が「本を編む」ということになるのではないか?
講演の最後に「本を編む」という言葉がでてきて「本を書くじゃないの?」と思ったのだけど、小林さんは編集者出身なので、小林さんは「本を書く」と認識する人ではなく「本を編む」と認識する人なんだと思う。一方、私は雑誌をあんまり読まず、単行本も小説、漫画、技術書、専門書などしか読まないので、本というのは一塊の情報の集まりという認識(学術雑誌や国際会議論文集などの複数の情報の塊の集合もあるのだけど、私が研究を始めたのが2000年以降なので基本的に論文ごとにアクセスし、学術雑誌や論文集全体にアクセスすることが私は少ない)。なので、「本を書く」と認識する人。「本を編む」という認識から、本とはある読者が複数の記事を読んだ軌跡であるという考えがでてくるのだろうと思った。本に対する認識が違うので、本のあり方も違うという、面白い。
「共観年代記」的な資料をまとめるツール(next49理解:ある基準に基づき、記事集合を半順序関係で整理する、記事間にハイパーリンクをする。そして、その記事の一覧をハッセ図として見せる)があると、私を含め、いろいろな研究者にとってありがたいのではないかなと思った。壁いっぱいに収集資料を「共観年代記」化した一覧が表示されるツールと場所があったら、すっごい気持ち良いと思う。
あと、昼食を一緒にとった参加者の方とこの講演にインスパイアされて話したことをメモ
- Kindle は冊子体から巻物に先祖がえりしているのではないか?
- Kindleは巻物なのでランダムアクセスし辛い。よって、頭から最後まで読み通す小説や漫画だと良いのだけど、行きつ戻りつする専門書や研究対象の本などを読むにはシンドイ
- Kindle型(電子巻物)で読書が当たり前の人と冊子体で読書が当たり前の人では、言語技術や情報収集のあり方にどういう違いがでるのかは面白そう
- そもそもWebブラウザがすでに巻物である。巻物読み(マウスのホイールでぐりぐり進める)だと読めず冊子読み(Page up, Page downで進める)じゃないダメという方もいる
- 本を通読するのは当たり前でなかったかもという話で書いたとおり、18世紀のイギリスでは「必要なところだけ自由に読む」という読み方の人が結構いたらしい。そう考えると、本のあり方と読者が複数の記事を読んだ軌跡というのはそもそも一致していなかったのではないかと(読者は本というパッケージにとらわれない読み方をする)
協賛団体セッション:Next-L Enju Leaf 1.1.0 リリースに向けて
田辺浩介さんの発表
「図書館システムか。関係ないや」と思って聞き始めていたけど、研究室の蔵書管理や個人の蔵書管理に使えるのではないかと思い、がぜん興味がでた。本のバーコードをスマートフォンとかで読み取り、ISBNを認識して、そのISBNから国会図書館やAmazonの書誌情報を持ってきて、Next-L Enju Leaf に登録できると、すっごく便利だろうと思う。と思ったら、できそう。
ISBNコードが分かっている場合は、タイトルや著者などほかのフィールド情報をTSVファイルに入力しておかなくても、ISBNコードから国立国会図書館のデータを参照して、自動的に空白のフィールドが埋められます。
(4-2-2 ISBNファイルを読み込んで登録するより)
通常発表(1日目)
- 「NDLラボサーチ 〜軽快なディスカバリーサービスと実験的機能の紹介」(池田 光雪)
- 「NDCのLinked Data、あなたならどう使う?」(福山 樹里)
- 今回の会議のホットトピック「日本十進分類法(NDC)」のLinked Data化の話。
- NDC-LD中間報告版:試用期間は、2015年9月5日から13日
- この発表でNDCが何の略なのかを一言も説明しないところで…
- 日本十進分類法というのがオープンデータでないところにびっくり。どこの図書館でも使っているのでてっきりオープンなものかと。
- 「電子ジャーナルリスト徹底活用法 - 楽しい電子ジャーナル管理のために」(田辺 浩介)
- 論文データベースに採録されている雑誌リストは無償で手に入る(ただし、使用ライセンスは不明のものがある)というのは良いこと聞いた。
- 発表資料
- Elasticsearchというツールを知れたのもよかった
- 「学生からの回答を元に誤りパターンを蓄積することで成長する自習用教材の開発」(原田 隆史)
- この分野はさっぱりわからないのだけど発表を聴く限り、日本十進分類法(NDC)に罠がありすぎるような。
- 本の主題を探す手続きの方に興味がある。どうやって本の主題をみつけるのだろう。
ライトニングトーク(1日目)
- 「ライブラリアンによるWikipedia Town、Wikipedia ARTSへの支援」(是住 久美子)
- ウィキペディアタウンにある説明とは少し異なり、どちらかと言うと地域住民による地域発見を行うイベントという印象
- Wikipediaは二次資料に記載された事柄をまとめるのが基本なので、記載対象に関する本が必要となる。この部分で図書館が関係するというお話
- Wikipedia ARTSというのは面白かった。確かに、Wikipedia Townがあるなら地域の芸術に関する話があっても良い
- オンブズマン活動の一環として、自治体行政や議会の行った政策や立法について、Wikipediaでまとめる Wikipedia politicsなどをやっても良いかも。賛成や反対ではなく、政策や条例についてWhatとWhy、そして報道された事実だけをまとめるという活動を通して、振り返るという活動。
- 18歳から選挙権を持てるようになるので、各政党がスポンサーとなって Wikipedia politics をやったらよいのに
- 「デジタル化されていないアナログなマイクロ資料が、あたかもデジタル資料のごとく利用できる「マイクロ資料遠隔閲覧サービス」の紹介」(安東 正玄)
- 「フロアガイドに記されるテキストの分析ー都道府県立図書館編」(阿児 雄之)
- Open Street Mapというものを知れたことが一番の収穫
- オープンストリートマップ
- LinkData.orgというのがあるのも知らなかった。
- 図書館、博物館、美術館などの室内の地図、すなわち、フロアガイドを作ろうという話
- 所属大学のバリアフリー化の一環として、車椅子の方が使えるトイレやエレベーターの位置など学外からでも調べられるようにした方が良いなぁと思っていたので、この話は興味深かった
- 「動画教材を活用して知の収集、蓄積、共有を行うグループ学習支援システムの考察」(田邊 稔)
- ちょっとわからなかった
- 「地域資料収集システムについて」(粟津 美晴)
- 図書館が地域資料というものを収集する機関であるというアイデンティを持っていることはわかった
- 地域資料入門 (図書館員選書 (14))
- 飲みながらシステムについてブレーンストーミングしたら面白そう
- "SLiMS : Integrated Library System with style!" (Arie Nugraha)
- 図書館システムの話なので良くわからず
- 「こんにちは、山中湖のペッパーです。」(丸山 高弘)
- ペッパー 山中湖情報創造館 指定管理者スタッフ
- テレビの映像以外でペッパーみたの初めてで興奮した
- ペッパーが思いのほか流暢にしゃべるのにびっくり
- 丸山さん曰く、本の読みあげは結構できる。でも、ちょっといじると急になまるとのこと
- 思いのほかペッパーを使ってできる図書館業務があるかも
- 「フリーソフトで高精細画像公開+IIIF」(永崎 研宣)
- International Image Interoperability Frameworkの紹介
- 高精細画像をWebページで利用するためのフレームワークとのこと
- 海外ではだいぶ使われるようになっているとのこと
- 「NDC Linked Data化プロジェクトを熱烈に応援しよう」(原田 隆史)
- 熱烈に応援していた
エクスカーション
イトーキ東京イノベーションセンターSYNQAをイトーキの社員の方に説明していただきながら、見学した。エクスカーションがどこなのかさっぱりわからないまま申し込んでいたけど、申し込んでよかった。
いろいろと感心したのだけど、一番関心したのはマネージャーキャンプ(名称は違うかも)という各部の部長の机を集めた島があるところ。各部の部長を一か所に集めて仕事をさせることで、自然に部を超えた連携や他の部のこともそこはかとなくわかる状況をつくっている。確かにこういう風にしたら、余計な伝言ゲームがなくなり、いろいろとやりやすいと思った。
イトーキ東京イノベーションセンターSYNQAは一見の価値がある。今度はコクヨのこういうスペース行きたい。
懇親会
幸いにして知り合いの方が何名かいたのでその方々とおしゃべりしつつ、発表で気になったものについて追加でいろいろうかがうことができた。
通常発表(2日目)
- 図書館の大規模データ処理に「Google BigQuery」を使ってみよう(吉本 龍司)
- この発表聞いて「さすが、code4〜だ!」と思った。
- 新しい技術を試してみる好奇心と技術力に裏打ちされたフットワーク、取り組んでいる事柄に関する課題の本質的な理解、そして、勉強したことをなんとか生かせないかなという発想。これが技術者だねという感想。
- 好奇心はあるけど、その後がさっぱりない私としては見習いたい
- 国会図書館からある時点での出版済み書籍一覧をとり、カーリルのAPIを使うことで図書館所蔵本データが手に入るとのこと。
- 今回は東京の多摩地区の図書館の所蔵本一覧データを取得したという話
- 1日目の粟津さんのLTでいう地域資料は、各図書館の所蔵データの差分からディープラーニング使って地域資料のエッセンスを見つけ出せるんじゃないかな
- 図書館の蔵書は司書さんたち or 教育委員会がある基準で選んだということを考えると、いろんなおもしろ分析ができそう
- NDCのLinked Dataと各図書館の蔵書に割り振っている分類番号、そして、Amazonなどで公開されている本の概要などと合わせると、人間はある概念をどういう風にとらえているのかというデータセットを作ることができそう
- 10年以上前のExcel本や「公認会計士受験本」・・・ 武雄市図書館はTSUTAYAの「在庫処分」なのかの話も、他の図書館の蔵書と比べてどれくらい外れているものなのかを計算することで、定量的に議論できるかもしれない
ライトニングトーク(2日目)
- 「OSS 資料管理システム kassis orange のご紹介」(中村 晃史)
- 趣味でつくるのすごい
- 「全国の図書館イベントが一括で見られるWebサイトの構築について」(北村 志麻)
- 年間イベント60以上というのが超すごい
- 私の持論として、一人で使っても自分にとって便利なサービスでなければ多くの人が使ってくれないと思うので、宣伝のためだけに公共図書館がイベント情報入力しあんければいけないのは、うまくないんじゃなかろうかとおもう。何かプラスαがあった方が良い
- 「時代を翔ける曲と風景を流せるソフトの開発」(山島 一浩)
- わからなかった
- 「コードを一行も書かないでオープンソースプロジェクトに貢献する方法 -- オープンソース図書館システム Next-L Enju の経験から --」(江草 由佳)
-
- 発表資料
- おっしゃるとおり。仕事を切り分ける/振り分ける人必要だよね
- 「紙/電子雑誌 所蔵・アクセス評価システムの構想」(伊藤 民雄)
- 発表資料
- シェアード・プリントのために所蔵・アクセス状況を分かるようにすることの必要性は理解できた
- 何を評価するシステムなのかはちょっとわからず
- 「あのデータベースは今」(天野 絵里子)
- 発表資料
- すっごく重要な話。
- "Pustakawan: Web-based Pathfinder"(Arie Nugraha)
- GitHub: dicarve/pustakawan
- ”「パスファインダー」とは、「道(path)」を「見つける人(finder)」という意味で、知りたいことがあるとき、どのように資料を探したらよいかの手引きのことです。 (出典)"
- なので「関係ないなぁ」と思って聞き始めたのだけど、「研究室の学生に〜の論文や本を読めというリストはパスファインダーなんじゃないの?」と思い直した。
- 「Linked Data Cloudの話」(加藤 文彦)
- Linked Dataのおなじみの図をつくるのが大変ですという話
-「JuNii2 validator」(高久 雅生)
-
- メタデータ・フォーマット junii2 (バージョン 3.1 )のバリデーター
- テスト重要
通常発表(2日目、午後)
- 「Yet Another IRDB: 新たな機関リポジトリ分析システムの提案」(吉川次郎)
- 「図書館での全文検索サービスに向けての点描とそれがもたらし得る可能性」(永崎研宣)
その他
会場で売っていたライブラリー・リソース・ガイド(LRG) 第8号を帰りの電車で読み始めたのだけど、特集の「第2回 LRGフォーラム 菅谷明子 × 猪谷千香 クロストーク 社会インフラとしての図書館 ─日本から、アメリカから」が面白い。ウィキペディアタウンやLINE@を使った話、イベントカレンダーの話などに共通する「実際に図書館に足を運んでもらう」という部分とリンクしている。