ガードナーの多元的知能とアメリカの公教育

id:morimori_68さんのご質問にお答えして、教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革するの続き。

偉大なアスリートやピアニストになるためには、並外れた努力をたゆみなく続けなくてはならないことは誰でも知っている。脳を鍛えてシナプスを正しい方法で活性化させ、必要な筋肉記憶や思考を磨き上げるのにかかる時間は、情報を読み取り処理する方法を学んだり、数学や科学の問題を考え抜いたりするのに必要な時間と変わりない。モチベーションがない生徒(ついでに言えば教師)は、学習課題の厳しさに耐えられずに途中であきらめてしまい、成功を収めるには至らないだろう。
(教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する、pp. 7-8)

で、モチベーション(動機付け)には外発的なものと自発的なものがあるとのこと。

  • 外発的動機付け:課題の外側から与えられる場合
  • 自発的同期付け:課題そのものが本質的に興味深く、楽しめるために課題から刺激を受け、最後までやり通したくなるような場合

一方で、ハワード・ガードナー(著者はMI:個性を生かす多重知能の理論, 多元的知能の世界―MI理論の活用と可能性。私は読んだことはない。)が8つの知能を提唱した。この八つの知能と学習について書かれている部分を抜き出すと以下のようになる。

ガードナーの八つの知能の簡単な説明と、それぞれの知能に優れた典型的な人物を挙げる。

  • 言語的知能:言葉で考え、言語を使って複雑な意味を表現する能力。ウォルト・ホイットマン(詩人、随筆家)
  • 論理・数学的知能:計算や数値化を行ない、定理や過程を考察し、複雑な数学的操作を行う能力。アルバート・アインシュタイン
  • 空間的知能:三次元で考え、内的・外的イメージを認識し、さまざまなイメージを再現、変換、修正し、自らまたはものを使って空間を航行し、図形情報を生み出す、または解読する能力。フランク・ロイド・ライト
  • 運動感覚的知能:物体を操作し、身体的能力を微調整する能力。マイケル・ジョーダン
  • 音楽的知能:調子や和声、音律、音色を聞き分け、生み出す能力。ウォルフガング・アマデウスモーツァルト
  • 対人的知能:他社を理解し、人間関係を巧みに築く能力。マザー・テレサ
  • 内省的知能:正確な自己認識を確立し、その認識を基に自分の人生を計画し、方向付ける能力。ジークムント・フロイト
  • 博物学的知能:自然におけるパターンを観察し、観察対象を分類して、自然体系や人工の体系を理解する能力。レイチェル・カールソン

これが指導や学習とどのような関係があるだろうか?教育方法が生徒の知能や適正とよく調和しているとき、生徒はより簡単により意欲的に理解することができる。言い換えれば、自発的動機づけをも持って学習することができる。
(教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する、pp. 26-27)

ガードナーの研究によれば、ほとんどの人が八つの知能のいくらかずつ持っているが、優れているのは二つか三つだけである。かれの研究は、各人の強みと調和のとれた学習機会の必要性を示唆する一方で人を型にはめて一部の知性だけを伸ばそうとしないよう警告する。

さらに知能の違いは、認知能力の一つの側面に過ぎない。それぞれのタイプの知能の中には、さまざま学習スタイルがある。
(教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する、p. 28)

それぞれの学習スタイルには、三つ目の違いが入れ子状に収まっている。それは、学習のペースが人によって異なるということだ。ゆっくり学ぶ人がいれば、普通の速さで、あるいは速く学ぶ人もいる。
(教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する、pp. 28-29)

教室の教師は、現在の公教育を特徴づける一枚岩のバッチ処理システムの産物である。システム内では、授業で採用される指導方式を生まれながらに楽しむようにできている生徒が、優秀な成績を収める傾向にある。たとえば、高校の国語の題材は、明らかに言語的知能との関わりが深い。当然ながらこのタイプの知能を持つ生徒が、国語の成績優秀者の大半を占める。そしてこの科目を大学で専攻することを選び、この分野の教職の道を選ぶのが、かれらなのだ。試験問題は教科書が執筆される方法を通じて、特定の知能と結びついていることが多い。そしてその教科書を執筆しているのが、その特定のタイプの知能に優れた専門家である。その結果どんな分野にも、カリキュラム開発者、教師、そして、その教科のもっとも優秀な生徒からから成る、「知識派閥」が出現している。かれらの脳は互いに常時接続されている。ちょうど上流社会の派閥に属する人たちが、身内同士であまりにもわかり合い通じ合っているために、知らぬ間に部外者を排除することが多いのと同じように、こうした知識派閥も、自分たちの共有する思考パターンが、他のタイプの知能に優れた人たちをどれほど閉め出しているかに気づかないことが多いのだ。
(教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する、pp. 37-38)

現行の教育制度、つまり教師を養成し、生徒を分類し、カリキュラムを設計し、校舎を配置する方法などは、標準化を目的としている。もしアメリカが本気で「落ちこぼれを防止」をするつもりなら、標準的方法で生徒を教えている場合ではない。現行制度は、標準化が美徳とみなされていた時代に設計された、複雑に依存しあう制度だ。この一枚岩なバッチシステムの中で、一人ひとりの生徒の脳の学習回路に合った方法で指導しようと企てるのは、悪性のマゾヒズムにむしばまれた学校管理者ぐらいのものだろう。学校は新しい制度を必要としている。
(教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する、p. 39)

ここが本書のコアとなる問題意識。この問題を解決するためには、個々人が得意とする知能や学習スタイル、学習ペースに応じて学習を行う必要があるが、これをコンピュータを用いて実現しようというのが著者らのアイデア。でも、現状でもコンピュータは学校に導入されているが、その導入の仕方は持続的イノベーションのやり方で導入されている。破壊的イノベーションのやり方で導入しなければいけないというのがこの後に続く議論。

次回に続く。