経団連:科学・技術・イノベーションの中期政策に関する提言(2009年12月)

3期にわたる科学技術基本計画に基づき各種施策が展開され、科学・技術の基盤整備が一定程度進展し、研究開発の成果の芽も生まれてきている。特に、第3期計画ではイノベーションを基本姿勢の中で謳い、研究開発力強化法(研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律)の超党派での制定、イノベーション創出総合戦略、革新的技術戦略、環境技術エネルギー革新計画等の戦略の策定が進められた。
しかしながら、オープン化や知識社会化への対応や個々人・組織が能力を最大限発揮できるイノベーション環境の醸成はいまだ途上にあり、また、国民一人ひとりが実感できるような成果を享受するには至っていない。例えば、OECDは、日本は研究開発投資の規模に相応しいアウトプットが必ずしも出ておらず、イノベーション・システムの効率性を高めることが成長力強化に不可欠といった指摘をしている。主要な政策課題としても、継続的な構造改革によるイノベーティブな活動の支援、とりわけ官民連携、国際連携、イノベーションに係る規制改革が重要としている。また、わが国においては、国全体の研究開発投資に占める政府負担分の割合が約2割と主要国と比べて低く、政府投資の多くが大学、研究開発法人に向けられている。他方、厳しい経済情勢が続く中で、企業は積極的な研究開発投資を控えざるを得ない。
これまでの科学技術政策は限界を迎えつつある一方、イノベーションにおいて政府が果たすべき役割が一層高まっている。今後は国民の視点に立ち、科学・技術力の強化に加え、イノベーション創出力の強化により、わが国研究開発投資の規模等に見合う成果の社会還元の効果的な推進が求められる。

(II.基本認識 1.これまでの科学技術政策の評価より)

1.大学

大学は、人材育成とともに、イノベーションにつながる革新的な知の創造、多様な知の融合等において中核的な役割を担うことが期待される。大学のあり方は多様であり、世界トップレベルの研究、地域振興、専門職教育、生涯教育等、大学毎に重視する機能を明確にし、特色ある運営と政策的支援が行われるべきである。とりわけ、運営費交付金については、大学機能の底上げの観点から適正な規模を見直すとともに、研究型であれば分野別評価、教育型であればユーザー側評価等、大学の特色に応じた評価・配分基準を設けるべきである。

また、大学は、道州制を睨んだ広域連携による地域活性化の核ともなり得る。地域の自主的な取組み、大学間の競争と協働を促し、地域毎に特定領域で世界トップレベルの拠点を形成するとともに、大学の連合・再編・ネットワーク化についての検討も重要である。

近年、大学が短期的な成果を求めるあまり、大学ならではの革新的な研究や、基盤的な研究が敬遠されるケースがある。大学運営においても、こうした研究が奨励・評価されるよう取り組むべきである。

2. 研究開発法人

研究開発法人は、政策目的の実現に不可欠かつ民間企業や大学等では実施が困難な研究開発を担うべき機関であり、主外国同様、当該領域において中核的な役割を担うことが期待される。諸外国の類似機関をベンチマークしながら、政策目的遂行の観点から各機関のミッション・機能を見直し、必要に応じて再編・統合、政府への移管、公設民営への転換等、そのあり方を検討すべきである。その上で、各法人の独立性に十分配慮しつつ、国家戦略との整合性の確保、個々の役割に応じた柔軟な資源配分と組織運営、研究開発法人間の連携強化等がなされるべきである。加えて、産業界からは、大規模共用施設に対する期待も大きく、施設の効率的な運営とともに、産学への開放につき、一層の充実が求められる。

なお、諸外国では、イノベーション創出を目的とする機関を設立し、産業界出身者による運営、産業界とのマッチング・ファンド、他公的機関との連携、プラットフォーム機能等を提供しており、わが国においても、産業界との連携強化や、基礎研究から実用化までの切れ目ないファンディング等によるイノベーション創出支援機能の一層の充実が求められる。

(IV.イノベーション創出基盤の強化 1.推進体制 (3) 大学、研究開発法人)