ポスドクや博士課程の就職の話をする場合には「博士課程=大学院」と呼ばないで欲しい

内容についてはまったく異論はありません。ただ、博士課程(博士後期課程)の話をする際に「大学院」とか「院卒」という言葉を使うのはできるかぎりさけていただきたい。大学院は修士課程(博士前期課程)と博士課程(博士後期課程)で構成されていて、今、非常に問題になっているのは「博士課程」。修士課程については理学・工学系ならば分野の差はあれど、就職に関してほとんど問題がなくなってきている。

文部科学省:学校基本調査 −平成18年度− 高等教育機関 統計表一覧の「82.修士課程の進路別 卒業者数」を見る。平成18年3月の修了者の主なデータは以下のとおり

  • 修了者数:72,531名
  • 就職者数:50,618名
  • 進学者数:9,077名
  • 専修学校・外国の学校等入学者数:455名
  • 進路未決定者(修了者数 −(就職者数+進学者数+専修学校・外国の学校等入学者数)):12,381名

進学しない人は、就職するつもりだったと仮定して、就職率を以下のように計算する。

  • 就職率 = 就職者数/(就職者数+進路未決定者)*100

すると、平成18年3月修士課程修了者の就職率は80.3%。

一方、文部科学省:学校基本調査 −平成18年度− 高等教育機関 統計表一覧の大学に関する統計資料「76都道府県別 進路別 卒業者数」を見る。平成18年3月の卒業者の主なデータは以下のとおり

  • 卒業者数:558,184名
  • 就職者数:355,778名
  • 進学者数:67,298名
  • 専修学校・外国の学校等入学者数:12,039名
  • 臨床研修医予定者数:9,293名
  • 進路未決定者(卒業者数 −(就職者数+進学者数+専修学校・外国の学校等入学者数+臨床研修医予定者数)):113,776名

就職率を以下のように計算する。

  • 就職率 = 就職者数/(就職者数+進路未決定者)*100

すると、平成18年3月学部卒業者の就職率は75.7%。

以上より、修士課程修了者の就職率は80.3%で学部卒業者の就職率は75.7%となり、修士課程を修了した方が就職率は高い

数字だけでなく大学の先生の実感としても納得できると思う。たとえば、apjさんの以下のエントリー。

但し、博士前期課程までなら企業もキャリアとして見てくれるので、就職のチャンスを拡げたいという目的があるなら博士前期課程を終えた段階で企業に就職するとよい。

以上より、博士課程進学と博士前期課程進学を混ぜて「大学院進学」というのはミスリーディングなので止めるべき。


ついでに今はやりの博士課程についても計算してみる。文部科学省:学校基本調査 −平成18年度− 高等教育機関 統計表一覧の大学に関する統計資料「86 博士課程の進路別 卒業者」を見る。平成18年3月の修了者の主なデータは以下のとおり

  • 修了者数:15,973名
    • 上記のうち単位取得退学者(学位を取らずに修了した人)数:4,076名
  • 就職者数:9,167名 (ポスドクが就職者に含まれるのかどうかはわからなかった)
  • 進学者数:108名
  • 専修学校・外国の学校等入学者数:288名
  • 臨床研修医予定者数:13名
  • 進路未決定者(修了者数 −(就職者数+進学者数+専修学校・外国の学校等入学者数+臨床研修医予定者数)):6,423名

就職率を以下のように計算する。

  • 就職率 = 就職者数/(就職者数+進路未決定者)*100

すると、平成18年3月博士課程修了者の就職率は58.8%。ポスドクが就職者数に含まれているとしたらもっとひどい就職率になりそう。

  • 補足:就職者数に「一時的な職についたもの」の数を含めていない
  • 補足2:進路調査は全数調査。大学にもよるけれども、卒業時に進路調査用紙を配布し半強制的に回答させている。大学評価にもかかわるので回収率は比較的高いはず。
  • 補足3:文部科学省:民間企業の研究活動に関する調査報告(平成17年度)の概要ページによれば開発者として修士号取得者を雇う傾向があるらしい

平成18年度末の研究開発者数は前年度より「増加の見込み」とする企業の割合が「減少の見込み」を上回っており、研究開発者を増やそうとする企業の姿勢は平成13年度を底に改善傾向。内訳を見ると修士号取得者において最も増加の見込みが大きい。