メモ:2020年4月の日本財団「新型コロナ軽症者のための1万床計画」はどうなった?

Twitterやはてなブックマークのコメントでたまにみかけた「日本財団の軽症者用病床」の話について検索した結果のメモ

まとめ

  • 2020年4月に発表した軽症者用の病床1万床(お台場に千床、茨城県つくば市に9千床)は、2021年8月現在、お台場に100床程度準備し東京都に無償提供という形で終了している。
  • つくば市に9千床の計画は実施されなかった。
  • お台場に千床の計画は、2020年7月にパラアリーナに100床程度、屋外に100床程度の計250床程度を準備し、東京都に無償提供した。しかし、パラアリーナ分は2021年2月に撤去することになり、屋外の100床程度のみが引き続き提供されている。

2020年4月「1万床計画」発表

日本財団の笹川会長より2021年8月現在から考えると至極まっとうな提言と計画が発表される。なお、以下の動画の概要欄では、なぜかつくば市が埼玉県にあることになっている。
youtu.be

www.nikkei.com

日本財団(東京)は3日、感染拡大が続く新型コロナウイルスの感染者を受け入れるため、傘下団体が運営する東京都品川区の「船の科学館」と、茨城県つくば市の所有地に計約1万床の整備を目指すと発表した。医療体制や収容の対象者など具体的な点については今後、都や政府と協議して決めるという。

日本財団によると、まず月内に船の科学館の敷地内に大型のテント9棟を建て、既存のスポーツ施設も含めて約1200床を確保する。7月末からはつくば市の所有地でも受け入れを始め、約9千床の提供を想定している。

www.nikkansports.com

日本財団が3日、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、東京・お台場の「船の科学館」敷地内にあるパラスポーツ専用体育館「日本財団パラアリーナ」など首都圏の2カ所に最大で計約1万床の病床整備を目指すと発表した。
~中略~
笹川会長は「こちらは場所や設備を提供する。運営については東京都や厚生労働省と協議していく」と話しており、運営や医療従事者の派遣については都や厚労省に相談し、任せていく方針を示した。さらに「これらの施設が使われないで終わることが最大の願い。備えあれば憂いなし。作っていくことが重要だ」と強調した。

この提言の下になったドイツとフランスにおける医療体制準備の差の分析。
www.nippon-foundation.or.jp

分析によれば、両国の通常時の病床数の差に加え、感染者急増前における医療提供体制の拡充施策の差が、死亡率の差につながっているとあります。このことから、我が国でも、早急な医療提供体制の拡充が求められます。日本財団としても、より一層スピード感をもって緊急策に取り組んでまいります。

上のページにリンクがある三菱総研のレポート。
www.mri.co.jp
www.mri.co.jp

両国における新型コロナウイルス感染者数の急増日を見ると、フランスが3月10日、ドイツが3月11日と、ほぼ同じである。感染拡大防止に向けた各種対策もほぼ同時のタイミングで実施されており、大差はない。

一方、医療提供体制については、両国の施策に違いが見られる。既存病床数を比較すると、人口1,000人あたりの病床数は、ドイツが6.0、フランスが3.2と、もともとほぼ倍の差がある(前回レポート1参照)。フランスは、感染者数急増前に病床数の確保に着手し、急増直後に緊急性の低い診療を抑制するなど病床の拡充・確保を図っている。しかし、十分な病床の確保等が間に合わず、特に感染者数急増後に野戦病院等の設置など想定外の対応を余儀なくされた可能性が高い。これに対してドイツは、既存病床数の多さという強みを活かしつつ、想定外の事態を引き起こさないための準備が十分になされ、これを迅速かつ具体的に実現したことが伺える。具体的には、既存病床の活用方法の工夫、さらに既存病床の負担軽減を目的としたホテルの活用などにより、感染者の急増後も十分な医療提供体制を維持できたと考えられる。

~中略~

現状の日本においては、オーバーシュート一歩手前の状況といわれており、感染者数の急増に備えた病床数や軽症者の宿泊先の確保が第一であると考えられる。例えば感染者数が急増している東京都の1,000人あたりの病床数(高度急性期及び急性期)は4.9で(前回レポート1参照)、フランスの3.2よりは多いもののドイツの6.0より少なく、十分な病床数が確保されているとは言えない可能性がある。また、ドイツ・フランス両国ともに、退職した医師や医学生、軍などを動員し、国が主体となって医療スタッフを拡充している。日本においても、感染者数が急増した場合に備えて、医療従事者を十分に確保するための具体策が必要であると思われる。

お台場「船の科学館」敷地内の病床

2020年7月にパラアリーナ内と「船の科学館」敷地内駐車場に新型コロナウイルス感染者の宿泊療養施設「日本財団災害危機サポートセンター」として250床ほどの準備が整い、マスコミに公開された。
toyokeizai.net

パラアリーナとはどんな施設なのか?

国内感染者が4000人に達したが、障がい者の情報は伝わってこない。パラアリーナはパラスポーツの専用施設なので、「ユニバーサルデザイン」を採用したバリアフリーの施設だ。

トイレ、洗面所、シャワーなど、障がい者が使いやすいように設計されていて、点字ブロックも随所にあり、障がい者が感染した場合に、既存の施設に比べてあまり不自由を感じずに過ごせるだろう。

パラアリーナ全体で3000平方メートルの場所を確保できるといい、その多くを占める体育館は、自然災害時の学校体育館の避難所のようにベッドと仕切りがあればすぐにでも使用可能だ。感染者が対象なので、医療関係者がきちんと防護すれば、他に感染することもない。

マスコミ公開の様子
www.businessinsider.jp

7月31日、東京では1日に確認された新型コロナウイルスの感染者が400人を超えた。

その前日、日本財団は東京・お台場にある船の科学館駐車場と日本財団パラアリーナに建設した新型コロナウイルス感染者の宿泊療養施設「日本財団災害危機サポートセンター」を報道陣に公開した。

250床分の施設を宿泊療養者(無症状感染者、軽症者)向けの施設として東京都に提供するとしている。

具体的な稼働時期は未定だが、今後感染者が増え続けていけば、実際にこの施設で療養する人が出てくることになるだろう。

しかしながら、東京都側は使いあぐねる。以下は2020年7月30日の記事
www.tokyo-np.co.jp

新型コロナウイルスに感染した軽症患者らが滞在する療養施設として、日本財団が障害者スポーツ専用体育館「パラアリーナ」(東京都品川区)内に整備した100床が2カ月間、1度も使われていない。財団は都の利用を想定したが、都は板で仕切った住環境をプライバシー保護などの点から、「宿泊療養に使うのは難しい」と説明。都内で感染が再拡大する中、活用方法は宙に浮いたままになっている。
~中略~
都内では、軽症患者らが滞在する療養施設が逼迫。都は28日、3カ所のホテルを療養施設として追加で指定した。アリーナと異なり、財団が新たに設けた個室の150床は「ホテルなどと同じ」として、活用を検討しているとした。

それから2か月後、東京都の使い方が決まる。2020年10月に開所。
www.nippon-foundation.or.jp

日本財団が2020年4月より建設を進め、同年7月に完成した「日本財団災害危機サポートセンター」は、2020年10月9日から東京都により新型コロナウイルス感染症の療養施設として開設されることとなりました。受け入れるのは、陽性者のうち入院治療等を必要としない軽症・無症状者で、室内飼育が可能なペット(犬・猫・ウサギ・ハムスター)を同伴して宿泊療養することが可能です。

mainichi.jp

日本財団は新型コロナの病床不足に対応するため、船の科学館の駐車場や、隣接する東京パラリンピック強化拠点の体育館「日本財団パラアリーナ」を使い、プレハブハウスを含めた臨時の療養施設「災害危機サポートセンター」として整備。7月に完成後、都に引き渡していた。

都は活用方法を検討していたが、犬や猫などペットの預け先が見つからず、ホテルに行くことができない感染者がいたことから、ペットを同伴して滞在できる施設として活用することを決めた。9月にペットも宿泊できるよう日本財団と協定を締結しており、都は早期の運用開始に向けて詰めの作業を行っている。

以下の2021年2月の記事によるとパラアリーナ屋内の病床は使われなかったとのこと。屋外の駐車場の方の施設の利用状況はわからなかった。
www.sankei.com

しかし、施設はその後、第3波で感染者が急拡大しても宿泊療養施設として用いられることは一度もなかった。各ベッドがパーテーションで区切られただけの施設は、宿泊療養を「個室」とする厚生労働省のマニュアルに沿っておらず、療養施設としての活用は緊急的な意味合いが強かったためだ。

こうした状況から、複数の競技団体がパラアリーナの利用を希望する要望書を提出。日本財団側も考慮の末、方針を転換し、パラ競技団体への貸し出しを再開する方向で都との協議を始めた。

2021年2月にパラアリーナの方は元のパラアスリートの練習施設として返還された。2021年4月から稼働開始。屋外の病床は引き続き東京都へ提供。
prtimes.jp

日本財団は、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催が決定する以前から、長年にわたって障害者支援を行ってきました。2018年6月に開所した日本財団パラアリーナは、昨年新型コロナ療養施設となり、練習施設としての使用を中止していました。この度、開催まで半年を切った東京2020パラリンピックの開催に向け、再びアリーナとして運営することとなりました。

~中略~

※なお、日本財団災害危機サポートセンターのうち、船の科学館駐車場に設置している個室型プレハブハウス及び大型テントについては、引き続き新型コロナの療養施設として使用されます。

今に至る。

茨城県つくば市の病床

日本財団の以下の方針がつくば市と合わなかったことから、計画倒れに終わってしまう。

笹川会長は「こちらは場所や設備を提供する。運営については東京都や厚生労働省と協議していく」と話しており、運営や医療従事者の派遣については都や厚労省に相談し、任せていく方針を示した。

直後の報道。
mainichi.jp

新型コロナウイルスに感染した軽症者の病床を確保するため、日本財団(本部・東京都)が茨城県つくば市の財団所有地に約9000人滞在の施設を整備するとした計画が波紋を呼んでいる。3日に発表された計画について、つくば市側は寝耳に水だったといい、「大規模な患者の受け入れについて住民の合意を得ていくのは難しい」と困惑している。

2020年4月の日本財団の1万床計画に対するつくば市長のコメント
www.city.tsukuba.lg.jp

本日、日本財団の尾形理事長が来庁され、つくば市での新型コロナウイルス陽性患者受入施設の整備構想について説明を受けました。

4月3日に日本財団の笹川会長が記者会見をし、日本財団が所有するお台場の施設に約1000床、同じく財団が所有するつくば市内の研究所跡地に約9000床の軽症者受け入れ施設を整備することを発表しました。現在お台場については工事を終え、東京都に提供しどのような活用があるかを検討しているとのことです。そして、つくばの施設については具体的なことはまだ一切決まっていないとのことでした。私からは「市民から多くの不安の声が寄せられている。地域医療に与える影響が極めて大きいため、9000床という大規模な施設で県外からも多くの患者を受け入れる現在の計画は受け入れることはできない。つくば市内では公共施設やホテルでの軽症者受け入れを行っているが、現在全国各地で公共施設やホテルの活用が計画をされている。医療崩壊を防ぎ各地で患者を受け入れることが可能になるような形で日本財団の資源を活用していただきたい」旨をお伝えしました。

日本財団側からは「日本財団は施設を作るのみで、それを利用する主体が決まらなければそもそも事業は実施されない。日本財団が勝手に進めることはない。行政の意見をしっかりと聞いた上で進める。」と明確なお返事をいただきました(この発言を公表することについても日本財団の了解を得ています)。その上で、今後の活用のために施設の解体だけは行いたいというお話がありましたので、今後どのような形の事業を計画されるのかを教えていただくよう依頼をしました。

以前コメントした通り、日本財団のみなさまが医療崩壊を防ぐために自ら私財を投じて活動をされようとすることには心から敬意を表するものです。全国に広がる日本財団のネットワークを活用し、医療崩壊を防ぎ、国民・市民の命を守るためにお力をいただければと考えていますし、その点でともに活動をできることがあればと考えています。

2020年5月の報道。
www.tokyo-np.co.jp

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、日本財団がつくば市内で無症状や軽症の感染者の大規模な滞在施設を整備する計画について、五十嵐立青市長は八日の定例会見で「県外からも大勢の患者を収容する現在の計画は受け入れられない」と反対する考えを示した。

2020年6月の報道。
newstsukuba.jp

五十嵐市長は4月30日に「日本財団が勝手に進めることはない。行政の意見をしっかりと聞いた上で進めると明確な返事をいただいた」とコメントを発表した。しかし、日本財団からのつくば市や県への説明は4月30日の尾形理事長の来庁以外にはなく、日本財団は市にも県にも「意見をしっかり」聞くということは行っていない。現在は、つくば研究所跡地の解体作業のみが進行している状況だ。

2020年9月のつくば市のコメント
www.city.tsukuba.lg.jp

令和2年4月30日、同財団の尾形理事長が来庁して市長と面会しました。財団からはこの整備構想について、現在お台場については工事を終え、東京都に提供しどのような活用があるかを検討している段階であるものの、つくばの施設については具体的なことはまだ一切決まっていないとの説明がありました。

市長から財団に対しては、「本件について市民から多くの不安の声が寄せられている。地域医療に与える影響が極めて大きいため、9,000床という大規模な施設で県外からも多くの患者を受け入れる現在の計画は受け入れることはできない。つくば市内では公共施設やホテルでの軽症者受け入れを行っているが、現在全国各地で公共施設やホテルの活用が計画をされている。医療崩壊を防ぎ各地で患者を受け入れることが可能になるような形で日本財団の資源を活用していただきたい」という旨を伝えました。

これに対し財団側からは、「日本財団は施設を作るのみで、それを利用する主体が決まらなければ事業は実施されない。財団が勝手に進めることはない。行政の意見をしっかりと聞いた上で進める。」との返答がありました。その上で、今後の活用のために既存施設の解体だけは行いたいという話があったため、市としては、今後どのような形の事業を計画するのか示すよう依頼しています。それ以降のやり取りはありません。

そのまま9千床計画は終了してしまったのだと思う。

感想

政府が「病床を増やす」という発言をするたびに医療者の方々が「病床とは単にベッドを準備すればよいということではない、人とセットで病床だ」と言っているのが良くわかる事例だった。日本財団の1万床計画の背景知識となっていた三菱総研の分析「また、ドイツ・フランス両国ともに、退職した医師や医学生、軍などを動員し、国が主体となって医療スタッフを拡充している。日本においても、感染者数が急増した場合に備えて、医療従事者を十分に確保するための具体策が必要であると思われる。」というのが、この1万床計画に反映されていたら、2021年8月の希望となっていたのだと思う。とても、残念な話。

一方で、日本財団は屋外に軽症者療養施設100床を3か月で建てるノウハウを持っているわけなので、政府や東京都は、第6派に向けて無駄になるのを覚悟で数百床の軽症者療養施設を建てておいたらどうだろうか。

DMAT

日本財団の1万床計画にDMAT的な「オペレーション+医療スタッフ」が組み合わされればうまくいったかもと思う次第。
www.dmat.jp

www.tmd.ac.jp