まず、ひとつの対策が確立したのは大変すばらしいし、それを実現した意思決定、実施体制、運用体制、協力した地域コミュニティのすべてが素晴らしい。
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米北東部の名門「アイビーリーグ」の一つで、ニューヨーク州イサカにあるコーネル大学。昨年12月、体育館に次々と学生が入っていった。大学が学内外9カ所に設営したPCR検査施設の一つになっている。
同大では昨年9月から学生や教職員ら計約2万8千人がPCR検査を受ける。学部生は週2回、大学院生や教職員は週1~2回だ。
~中略~
約2カ月後、再開への感染抑制モデルが完成すると、興味深い結果が出た。大学や寮に学生を戻して定期的にPCR検査をする場合と、大学を閉鎖したままオンライン授業を続け、学生らを検査しない場合とを比べると、感染者数は「大学閉鎖のほうが数倍多くなる」となった。
コーネル大学は、設立当初からニューヨーク州におけるランドグラント大学である一方[3]、アイビー・リーグの一校としても名を連ねるという、世界でも珍しい半官半民(公立かつ私立)の大学の一つである。
コーネル大学がこの対策に費やしたコストは以下のとおり。
- 検討のための準備人員:教職員約100人
- 設備:"獣医学部は医学部と共に研究用のPCR検査施設を拡充。地元の保健当局と連携し、プール方式で1日7千件の検査能力を確保し、陽性者は当局が再検査し、規則に従い隔離することにした。"
- 隔離用の施設:近隣に計約1千室を確保
- 費用:対策に必要な費用は1年で約2500万ドル(約25億円)
上記記事の末尾。
日本の大学の状況は
国内の大学は新型コロナの感染拡大を受け、昨年4月ごろから学内への立ち入りを禁じたり、遠隔授業に切り替えたりした。文部科学省が昨年9月に発表した全国の大学や高等専門学校への調査では、後期からは約2割が「全面的に対面授業」、約8割が「対面と遠隔を併用」と回答した。
ただ文科省によると、授業での感染例は少なく、学生寮や運動部の活動、飲み会などで感染が広がることが多いという。医学系の大学などには、希望する学生にPCR検査を行っているところもあるが、ごく一部にとどまっている。
ある国立大の教授は「日本でもPCR検査機を持つ大学は多く、学生を広く検査する態勢は作れるはずだ」と指摘。「知識の伝達はオンラインでもできるが、大学はそれだけの場ではない。学生生活の充実のために大学はもっと積極的に動くべきでは」と話す。
コーネル大学、東京大学、千葉大学の規模を比べてみる。
大学名 | コーネル大学 | 東京大学 | 千葉大学 |
収入 | 45億3千万ドル (4700億円) | 2,344億円 | 744億円 |
学生数 | 23,620人 | 27,011人 | 13,832人 |
教員数/職員数 | 2,824人/7,420人 | 5,819人/4,959人 | 1,308人/ 2,094人 |
- コーネル大学
- 収入の出典:https://dbp.cornell.edu/home/reports/の2018-19 Operating & Capital Budget Plan
- 学生数、教職員数の出典:University Facts | Cornell University。なお、教職員には非常勤含む。
- 東京大学
- 収入の出典:平成30年度財務情報 | 東京大学の平成30年度 決算の概要の経常収益より
- 学生数の出典:学生数の詳細について | 東京大学の2020年度11月の学部生と大学院生の合計
- 教職員数の出典:職員数(平成30年5月1日現在) | 東京大学の教授、准教授、講師、助手、特任研究員の合計を教員数としている。
- 千葉大学
- 収入の出典:財務情報|大学案内|国立大学法人 千葉大学|Chiba Universityの平成30年度決算報告書
- 学生数の出典:統計データ一覧|大学案内|国立大学法人 千葉大学|Chiba Universityの学部生と大学院生の合計
- 教職員数の出典:教職員数|大学案内|国立大学法人 千葉大学|Chiba Universityの教授、准教授、講師、助手、特任研究員の合計を教員数としている。
日本の国公立大学では破格の予算規模を誇る東京大学の2倍の収益、1.5倍の職員を誇るコーネル大学と何の予算・人員措置もなく同じことはできるわけない。千葉大学でコーネル大学と同じようなことしようとしたら、仮にコストが2分の1(学生数2分の1強だから)の17億円としてもかなりきついと予想される(千葉大は予算規模だと国立大学83校中10~20位代の大学)。ぜひ、現在の予算規模や人員規模を勘案した上でいろいろと期待してほしい。
米国議会はこれまでに、大学やカレッジに対して142億5000万ドル(約1兆5000億円)の緊急支出を割り当てているが、この金額は大学が直面している財政的な穴を埋めるには少なすぎる。それ故、大学を再開して学生をつなぎ留め、寮やカフェテリアを埋めなければという経済的なプレッシャーは非常に大きい。「秋にキャンパスを閉鎖してバーチャル授業に移行してもやっていけるだけの資金を提供されていれば、どの大学もそうしていたでしょう」とMcClureは言う。
上記記事にコーネル大学の試みの実施前の状況が説明されている。
コーネル大学(ニューヨーク州イサカ)の学長Martha Pollackは、キャンパスを再開した方が感染者数が少なくなることが数理モデルによって示唆されたとして、大学の再開を発表した。ある調査から、キャンパスの閉鎖を続けた場合も、多くの学生が自宅には戻らずイサカとその周辺で共同生活をすると見られることが判明している。こうした学生から約7200人が感染するアウトブレイクが引き起こされ得ることが、オペレーションズ・リサーチ(運営研究または作戦研究とも呼ばれる)研究者であるPeter Frazierらが作成したモデルで示されたのだ。一方、学生をキャンパスに戻して定期的に検査を受けさせれば、感染者数は1200人に抑えられると予想されるという。
しかし他の人々は、コーネル大学の説明を疑問視している。Inglesbyは、大学は地域の外から来ている学生の希望に合わせて計画を立案するのではなく、自宅に戻るように指示するべきだと指摘し、「意思決定の順番が間違っています」と言う。また、コーネル大学の社会学者Kim Weedenはツイッター上で、根拠とされている調査は感染者数が減少していた春の終わりに実施されたものである上、学生の保護者が調査対象に入っていないと指摘している。「誰が金銭的な負担をするかによって、この問題の捉え方は全く違ってくるかもしれません」とWeeden。
これに対してモデル作成者のFrazierは、学生の多くは既に賃貸借契約を結んでおり、彼らに自宅に戻るように促すのは実効性がないと反論する。また、この秋にキャンパスに来る学生の数は5月の調査結果よりも少ないかもしれないが、彼のモデルは、やはり検査が必要とされるキャンパス内に学生をとどめるのが最も安全であることを示唆しているという。「キャンパスに戻ってくる学生の数が増減しても、オンライン授業を受けさせるより寮生活をさせた方が安全だという結論は揺るがないのです」と彼は言う。
またFrazierは、コーネル大学は学生と教職員の検査を頻繁に行う予定だと説明する。コストを抑えるため、検査はプール方式で行う(2020年10月号「プール方式で新型コロナ検査を迅速・安価に」参照)。「私たちの獣医学研究室は乳牛の伝染病に備えているため、大きな検査能力があるのです」。検査の頻度は曝露状況によって異なる。例えば、食堂サービスに従事する職員は、造園チームの職員よりも頻繁に検査を受けることになるだろう。コーネル大学は学期中にトンプキンス郡内のホテルの客室を1200室押さえており、陽性と判定された人はそのいずれかに宿泊することになる。濃厚接触者の追跡は郡の保健局が行う。