日本経済新聞の記事「現代貨幣理論MMTを問う」ではMMTが批判されている。一方でその批判中にリフレ政策を主張する人たちが述べている事柄に対して、その意見は正しいとする記述がある。論者はウィレム・ブイター(シティグループ特別経済顧問)とキャサリン・マン(シティグループチーフエコノミスト)。
MMTは、主権国家の債務総額や金融政策の選択肢を考える際に、政府と中央銀行の勘定を「国家」として一体とみなすべきだとする。これは正しい。また国家はベースマネー(現金と準備預金)を発行する独占権を持ち、これを行使した際に生じる通貨発行益により国家の予算制約は緩和されるとする。これも正しい。
この分析から導かれる重要なポイントは、公的債務の持続可能性の評価に当たり指標として使うべきなのは、政府部門の総債務残高でも純債務残高でもなく、政府部門の純債務からベースマネーを差し引いた値ということだ。日本では2017年末時点で国内総生産(GDP)比67.4%となる。
国家の貨幣性債務は名目上の債務にすぎない。兌換(だかん)不能なので、銀行券の保有者は発行者(中央銀行)に金などとの交換を要求できないからだ。ここで注意したいのは、国家が発行したベースマネーはこの意味で国家の債務ではないが、後述するように通貨発行には通貨発行益などの経済的意義があることだ。
認めているポイント
- 政府と中央銀行をあわせて「統合政府」とみなすこと
- 通貨発行時に生じる通貨発行益により国家の予算制約は緩和されること
- 公的再医務の持続可能性の指標としては政府部門の純債務からベースマネーを差し引いた値をとること(next49コメント。ベースマネーは日銀の債務残高ということ?)
記事の(下)の方では財政政策へ位置づけについて学派の違いの説明がある。
経済学の中の位置づけから考えたい。伝統的なケインズ経済学では、不況や失業を克服する手立てとして政府の介入を是とし、処方箋として財政金融政策を提唱する。簡単に確認すると、金利が短期・長期とも十分なプラス領域にあれば、金融緩和で金利を引き下げ、企業の設備投資や家計の消費支出、住宅投資などを刺激する。公共投資や減税などの財政の拡張はより直接に支出に働きかけられる。
一方、財政赤字は国債の増発と長期金利の上昇を招き、民間支出を締め出す恐れがある。ただし深刻な不況などの場合には、積極財政と金融緩和を同時に実行して金利上昇を抑制し、より大きな支出創出効果を目指すという選択肢もある。
主流派経済学には政府の介入に慎重な新古典派経済学もある。景気減速や失業は人々の最適な行動の結果である一方、政府の財政出動には無駄が多く含まれ、経済の生産性や効率性をむしろ阻害する要因とみる。政府サービスは国防や法制度など必要最低限とし、小さな政府に通じる減税は容認しても、公共投資や社会保障など大きな政府につながる財政赤字は容認しないというのが基本姿勢だ。