アステイオン 84号(2016年春)

アステイオン84号をご恵投いただいた。ありがとうございます。
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特集は「帝国の崩壊と呪縛」。素人からすると「どういうこと?」という特集名。池内恵さんが巻頭言を担当されている(【寄稿】『アステイオン』第84号の特集「帝国の崩壊と呪縛」を編集)。

読んだ記事の感想を箇条書きで。

  • 通崎睦美:愛しの木琴デイズ
    • 木琴とマリンバというのが別の楽器であるということに驚き。そして、木琴というのが最新楽器でソロ演奏が楽しまれるようなものであったのにも驚き。
  • 国末憲人: 現代イスラム政治研究者ジル・ケペルに聞く 欧州ホームグロウンテロの背景
    • "過激派側は「フランスでイスラム教徒は虐げられている」などと主張し、自分たちがムスリム一般の代表であるかのようにふるまう。しかし、これは暴力を正当化するための単なる口実に過ぎない。もちろん、口実を設けられれないよう、格差を是正したり差別をなくしたりする努力は重要だが、それで彼らがテロをやめるわけではない。閉鎖的なテロ集団が何を狙い、どう動くか。その戦略をしっかり把握し、対策を練る姿勢が欠かせない。"
    • "テロと向き合う文明社会に必要なのは、彼らに対して恐れおののくことではない。その深淵をこちらからしっかりと見つめることだ。そうしてこそ、打開の糸口が見えてくる。"
  • 池田明史: 溶解する中東の国家、拡散する脅威
    • 大局的(世界的)にも、局所的(局地的)にも解決の見通しが見えないという現実をつきつけられてずーんとした記事。でも、それが現実なのでずーんとするしかない。
    • それぞれのプレイヤーがよかれと思った/利益最大化を狙った行動が大局的には悪い展開になっていくのはうーん。何に価値をおくかで何の政策がよいのかかわるわけなのだけど。
    • 非常に勉強になった
  • 小泉悠:ロシアにとっての中東 ― 新たなパワーゲームへの関与
    • Session 22でたまにゲストにでているロシアの軍事に関する専門家の小泉さんの記事
    • Session 22でロシアは臆病な国家と言っていたけどそれを補助線としてこの記事を読んだ
    • ロシアの中東関与もなかなかくねくねした理由らしい。池田さんの記事とあわせて、中東の状況改善は遠い感じ。
  • 廣瀬陽子:帝国の落とし子、未承認国家
    • 雑学的に大変勉強になった。
    • ja.wikipedia:事実上独立した地域一覧
    • Synodos: 国家のあり方を読み解く「未承認国家」という鍵『未承認国家と覇権なき世界』著者・廣瀬陽子氏インタビュー
    • 未承認国家の定義について→"現在、最も現状に即していると筆者が考える定義は、ニーナ・カスバーセンによる、以下五項目からなるものだ。1. 未承認国家は、主要な都市と鍵となる地域を含み、権利を主張する領域の少なくとも三分の二を維持し、事実上の独立を達成している。2. 指導部はさらなる国家制度の樹立と自らの正当性の立証を目指す。3. その政治的な構成体(エンティティ)は公式に独立を宣言しエチル、ないし、たとえば独立を問う住民投票、独自通貨の採用、明らかに分離した国家であることを示すような同様の行為を通じて、独立に対する明確な熱望を表明している。4.そのエンティティは国際的な承認を得ていないか、せいぜいその保護国・その他のあまり重要でない数か国の承認をうけているに過ぎない。5. 少なくとも二年間存続し続けている(Caspersen 2012)."
    • この記事の表1「現存する未承認国家概略」より未承認国家一覧。アブハジア共和国(from ジョージア)、ナゴルノ・カラバフ共和国(アルツァフ共和国)(from アゼルバイジャン)、ソマリランド共和国(form ソマリア)、南オセチア共和国(from ジョージア)、沿ドニエストル・モルドヴァ共和国(from モルドヴァ)、北キプロス・トルコ共和国(from キプロス共和国)、パレスチナ国(from イスラエル)。ボーダライン(承認国家では?という国)、コソヴォ共和国(セルビア共和国)、台湾(from 中国)
    • 結びのクリミアがロシアにおいてどういう歴史的意味を持つのかの説明も興味深い。
  • 岡本隆司: 清朝の崩潰と中国の近代化
    • 「漢人」「藩部」「朝貢」「互市」という4層構造。
    • 日本は最初「朝貢」対象だったけど、「互市」対象であったヨーロッパ諸国を真似て、「互市」対象になり、清に圧力をかけていった。この経緯が藩部に及ぶことを恐れた清や中華民国は藩部の独立を防ぐために併合していったとのこと。
  • 齊藤茂雄:古代トルコ系遊牧民の広域秩序
    • 中国北辺の遊牧民族からみた中華との付き合い方の話
    • トルコという言葉がでてくるけどメインは突厥
    • 脅威とはみなしていたけど、騎馬戦力として中華側も利益を得ていたとのこと。
    • 持ち運べて換金性の高いものが遊牧民にとって重要→絹が貨幣代わり
  • 森井裕一:国民国家の試練 ― 難民問題に苦悩するドイツ
    • ずーんとした記事その2.

特集はここまで。どれも面白い記事だった。

  • 砂原庸介: 領域を超えない民主主義? ― 広域連携の困難と大阪都構想
    • 地方議会のあり方について検討をうながす論考
    • なんで地方議会は党派が弱いのかといえば、それは選挙制度に由来するとのこと。
    • 大阪の維新の会を例に分析されている

続くかも。