第三回歴史コミュニケーション研究会

面白そうだったので、まったくの異分野ながらお邪魔させていただいた。とても面白かった。

2部構成で第一部は池尻良平さんの発表、第二部は高校での世界史授業のやり方についてのディスカッションだった。大体11:00から始まって15:00ぐらいまで。そのあと、喫茶店で17:00ぐらいまでおしゃべりして解散という流れ。

一部の感想

以下、メモ

  • Wineburgのエキスパート研究というのが面白い。Googleで検索したところ以下の紹介ページが見つかった。

☆ Wineburg(1991)

  • 多少矛盾などが存在する複数のテキストを歴史家と高校生に発話プロトコルで読ませ、その表象の形成(テキストの統合)を比較する研究
  • 被験者
    • 歴史の得意な高校生8人、歴史の専門家8名。
    • うち4名はアメリカ史専攻.残りは他分野(日本史など)専攻。
  • 方法
    • 発話思考で、戦いが始まる日の朝,レキシントン平原で起こったことを理解するよう文書を読んでもらう。
    • 読後、主観的な文書の信頼性(Trustworthiness)の評定。
    • 読後、その朝をもっとも適切に表現していると思われる絵を3つの中から選ぶ
  • 結果
    • 歴史家は、その領域が専門でなくても、複雑で深い表象を形成。
    • 絵の評定:歴史家が正答の絵を多く選ぶ。学生は普通の「戦争スキーマ」に合致した絵を選ぶ。
    • 文書評定:歴史家は一次資料を高く評価。学生はテキストブックの文書を高く評価。
    • プロトコルより:歴史家がよく使う3つのヒューリスティックスの抽出
      1. Corroboration:文章中の記述を,細かいところまで他の文献を参照しながら確かめていく
      2. Sourcing:まず最初に文章の出典を見る。そして文書の信頼性などを加味し,時には適切なスキーマ(例えばTextbook Schema)を発動する。
      3. Contextualization:文書にある出来事が,いつ,どこで起こったかに注意する。時系列的に出来事を並び替えたりする。
  • 討論
    • 専門家は「レキシントンの戦いスキーマ」のようなスキーマを発動させて文書をトップダウン的・自動的に解釈しているわけではない…これまでのExpert研究との大きな違い。
    • 文書の細部に注目しながら,適切なスキーマをその都度作り上げている。
    • 事実的知識が学生と同じ程度の歴史家でも,最終的理解がより精緻化されていた:事実的知識とは別の,歴史家の専門性(Expertise)が存在する可能性→Schwabの言うところの構文的知識(syntactic knowledge) が専門性ではないか? 発見されたヒューリスティックもそのひとつ。
    • Corroboration:歴史における「事実」が科学などとは本質的に違うという認識論の証拠。
    • このNovice-Expertの差がどこで生じるのかについては詳細な検討が必要

心理学における「歴史の認識論」研究のまとめより)

  • 上記のWineburgが定義した歴史家の持つ4能力
    1. 情報のソースを調べる能力
    2. いつどこでその歴史的な出来事が起こったのかを意識する能力
    3. 複数の資料を使って比較検討する能力
    4. 史料から抜け落ちている部分を意識する能力
    • 1〜3は他の分野の学者もそういう能力を持っていると思うので程度問題だと思う。
    • 4のあるはずのものがないという意識を持つというのが歴史家特有だと思う。自然科学や工学ならば抜け落ちているのではなく、無いと判断して新規性を主張しにいくところ。
  • 池尻さんのまとめられた5つの歴史的思考力(資料7ページ)は素晴らしい。
    • 一般市民が持つべき歴史リテラシーとしては2の「歴史的文脈を理解する力」まで身につけられれればかなり良いのではないかと思う。この力は、時空間的に異邦人の視点や感覚を得ることなので、現在の自分が置かれている状況や社会を他人の目で見ることができるようになる。この視点がなければ代替案は浮かばない(年配の人が若い人に海外へ行けという理由はこの異邦人の視点を身に着けさせるため)
    • 3の「歴史的な変化を因果的に理由つける力」は、デザイン思考が世界を変える新しい市場のつくりかたで、文化人類学者や歴史学者をチームにいれろとう提言に関連するのだと思う。
    • 一方で、「歴史的な変化を因果的に理由つける力」を思いのままに行使すると何でもありになってしまうので、4の「歴史的解釈を批判的に分析する力」が必要なのだと思う
    • 5の「歴史を現代に移転させる力」は、まさに我々や社会が求める力ではあるが、これを万人が持てるとは思わない。その場でも発言したけど、自然科学に対する工学のように、歴史学に対する歴史工学が必要なのだと思う。ここで私がイメージしている歴史工学は「歴史学の思考法や知見、成果を用いて社会を良くすることを目的とする学問」。Googleで検索してみると歴史工学という言葉は早稲田大学 中谷礼仁建築史研究室で使われているみたい。
  • コンセプトマップという道具を初めて知った
  • ほかにも面白い問題提起があったけど未公表部分のようなので省略

二部の感想

  • 中学までの世界史の教科書で教えられている範囲と高校の世界史A、世界史Bで教えられている範囲を可視化したら面白そう
    • たとえば、YouTube:The world in the last 200 years! のように時間とともに変化する世界地図で表せないだろうか。中学校の世界史の範囲で触れられている時間と地域に色づけして、そうでない部分を真っ黒にしておく。そしたら、生徒の知っていると思っていることにギャップがあることを可視化できて導入に良いのでは?
  • 今、身近にあるものが世界の歴史上のいろいろなイベントの結果として身近に存在するようになったということを授業の傍ら説明するのはどうだろう
    • その場の思いつきではカレーライスを出したけど。なんか、もっとうまいテーマがあればそれで。カレーライスの具にジャガイモがあるので、大航海時代ぐらいまでは話を持っていけるのではなかろうか。ジャガイモに着目するなら、ハンバーガー+フライドポテトでもよいけど。
  • 今考えると、地理って世界史の知識なしだと意味がわからないような気がする。地理と地学の区別が微妙につかない。

おわりに

専門用語がバシバシ飛び交う空間ではなかったので、歴史に興味ある方は次回の歴史コミュニケーション研究会に参加されてもよいのではないかと思う。