科学と技術の違い?

ノーベル賞受賞者じゃない研究者の緊急討論会へのはてなブックマークへコメントいただいたことにつき、以下のようにshowgotchさんへお伺いした。

> showgotch 科学のモノ的価値、人文社会的価値="技術:テクノロジー"でしょうに。言葉をもっと整理しないと本当の問題は見えてこない気がする

もし、showgotchさんにお時間があるのでしたら、上記コメントに関してもうすこし解説をいただきたいです。たぶん、私が書いた科学の定義「獲得した知識を後世に整理した形で残していく営み」が不適切であるという指摘なのだと思いますが、私の定義はどういう観点からみると不適切であるのか、また、showgotchさんの定義はどうして、私の定義よりも適切であるとお考えなのか、ご教示いただければさいわいです。

そして、以下の返答エントリーをいただいた。

私の理解では、上記エントリーの主張は以下のとおり

  • 「科学」と「技術」は異なるものである。
    • 科学とは自然の法則を追求する営み
    • 技術は科学を人為的に利用するためにその時代の文脈に沿って形にしたもの
  • イノベーションを起こすには「科学」と「技術」の双方が必要である。
  • 現在の日本の教育システムでは「技術」に関する教育がなされていない
  • 「技術」に関する教育の時間をもっと増やすべきである。具体的には従来の「科学」と「技術」の時間割り振りが5:1であったところを4:2に直すべきだ
  • 「技術」教育の担い手として、理学部・工学部のポスドクを教員として採用するのは良い方法だと思う。

showgotchさんの問題意識は、私の「科学=獲得した知識を後世に整理した形で残していく営み」という定義に即して言い直せば、「科学的知識(すなわち、整理して残された知識)をたくさん得たとしても、それを社会や時代の文脈に沿ってどのように利用するのかを考え、実際に利用できる人材がいなければ、科学的知識の蓄積があったとしても有効に活用できない。現在の日本の教育システムにおいては、そのような人材を育成する仕組みがない。よって、そのような人材を育成する仕組みの整備を行うべきである。」ということだと思う。

もし、この理解であっているのであれば私はまったく賛成。なぜなら、「科学的知識を社会や時代の文脈に沿ってどのように利用するのかを考え、実際に利用できる」を体系的に考えるというのが工学の基本的な使命であると理解しており、私は工学部出身かつ工学系研究者なので。

(私の理解が正しいとして)このshowgotchさんの問題意識については、第2回 博士ネットワーク・ミーティング@つくばに参加したときにお話させていただいたfuku33さんにも指摘された。そのときに指摘していただいたことを私なりに解釈すると、科学的知識(私の定義での「科学」)の蓄積が、一般市民が必要としている量を超え始めてしまっており、オーバースペックになっている(イノベーションのジレンマでいう持続的イノベーションの状態)。蓄積された知識を利用し、破壊的イノベーションを起こす人材が必要とされているが現在の教育システムにはそのような人材の育成システムがない。

上記の指摘に全面的に賛成するとして、次のステップへ進むための疑問は「科学的知識を社会や時代の文脈に沿ってどのように利用するのかを考え、実際に利用できる能力は何を学んだり、経験したりすると身につけられるのか?」にある。これはとても難しい質問(これに簡単に答えられるならば、既にそれは世界のどこかで実際に実施されており、イノベーションが継続的に多発する国がどこかに存在しているということになる)。当然、答えはまだないし、将来見つかるかどうかもわからない。

技術(あるいは工学)のエッセンスは何か?それはそもそも教育可能なものなのか?科学と技術(あるいは工学)は何が違っており、何が同じなのか?科学リテラシーを教えることは技術(工学)リテラシーを教えることと異なるのか?ここいらへんが分からないと「科学的知識を社会や時代の文脈に沿ってどのように利用するのかを考え、実際に利用できる能力は何を学んだり、経験したりすると身につけられるのか?」に答えられないと感じている。

なので、今の私自身が上記質問へ解答するとしたら「体系的なやり方はわからないが、計算機科学・情報工学という分野において、実際の利用方法を見据えつつ基礎知識を教えられるようになりたい。また、卒業研究・修士研究を通して、学んだ知識を現実世界の問題(産業的な応用という意味でなく「それを行うことで社会にどう貢献できるのか」という質問に答えられる問題)へどう使うのかを教えていきたい。」となる。

最後に科学と技術の違いを知るために読んでおいたほうがよさそうな資料をメモしておく。今度、時間をつくって読むこととする。

追記

続きはこちら続・科学と技術の違い?