東京大学前理事 江川さんが驚いたこと

日本経済新聞 5/18朝刊:東大、組織改革の課題 自律運営体制の整備を 江川雅子 東京大学前理事が面白かった。

江川さんの経歴は以下の通り。

3月末、東京大学理事(国際、広報、社会連携、産学連携、男女共同参画担当)を退任した。ニューヨークと東京で外資系金融機関に勤務後、ハーバード・ビジネス・スクール(ハーバード大学経営大学院)の日本リサーチ・センター長を務めていた私にとって、ほぼ30年ぶりの母校は、規則に基づく国立大学の運営、ハンコによる書類決裁など、すべてが初めての経験だった。就任前の3年間、経営協議会委員を務めてはいたが、東京大学の一員となって初めてわかったこと、驚くことも多かった。

江川さんが最も驚いた点

最も驚いたのは、04年の法人化で国立大学は形の上では独立した組織になったにもかかわらず、財政、人材などの資源面で自由度が低く、依然として自律的な経営をしにくい仕組みだったことである。

例えば、施設整備は引き続き国から予算措置するという制度設計で減価償却が認められないため、概算要求に頼らざるを得ず、設備投資計画を立てにくい。退職金は毎年予算措置される仕組みなので、人事制度の変更が難しい。文部科学省との交流人事で幹部の大部分が2年周期で入れ替わるため、組織としての蓄積や人材育成もままならない。

ハーバード大での経験を踏まえた大学の統治機構に対する考え

近年、改革のため学長に権限を集中させるべきだという声をよく聞く。だが、大学は一定の資格を得た構成員によって統治される組織であり、企業のようなヒエラルキー型組織とは異なる。

ハーバード大学経営学者から、「大学の学長はアメもムチもなしで経営をしなくてはならない」と教えられた。

〜中略〜

法律事務所やコンサルティング会社などは組織の長をパートナーの選挙で決めるが、大学も同様にプロフェッショナルから成る集団なので、同じような統治の仕組みができたのだろう。

必要なのは、大学を中央集権型の組織に変えることではない。分権的な組織を維持しながら全体として管理できるようにするための透明性の向上、全学に関わる意思決定・資源配分を迅速に行うプロセスの整備である。

他の驚いた点

1つは、構成員の多様性が低いことである。外国人の学生・研究者が少ないばかりでなく、日本人でも男性、東大出身者の比率が高い。
〜中略〜
2つ目は、競争的資金の導入によって組織が寸断され、自律的な活動や人材育成が困難になっていることである。
〜中略〜
長期計画に基づいて行うべき教育が、打ち上げ花火のような5年限りの「プロジェクト」として遂行される一方、本来の自律的、継続的な改善のための資源が枯渇し人材への投資も行われない。

提言

具体的には、(1)自律した組織として運営できる体制の整備(2)分権的構造を維持しつつ全学として意思決定や資源配分を迅速に行える体制や透明性の高い経営管理の仕組みの導入(3)経営にあたる専門的人材の育成(4)人事の透明性、人材の流動性多様性を高め、世界中から優秀な人材を集める――などが重要であろう。

日経記者のコメント

法人化後、国立大学には経営協議会委員や監事、さらには理事や教職員として多くの外部人材が入っている。一部では名誉職化しているという指摘はあるものの、大学という閉鎖社会を経験した外部の人の声は、今後の大学改革に大いに参考になるはずだ。

今後、大学を“卒業”する外部人材には、大学で経験し気がついた事項を積極的に発言してほしい。
運営に関わった外部の声は貴重