論文の「参考文献」は何のためのものなのか?

いかにも卒論生が尋ねそうな質問なので、自分のところの学生に答える際の下書きとして回答してみます。

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論文とは何か

少なくとも「~科学」において、研究とは誰も知らなかった科学的に観測・観察された事実や、既に報告されている科学的に観測・観察された事実と整合する新しい科学的知見を得て、それらを世界に(実際にはある分野の科学的コミュニティーに)報告する活動を言います。慣習的に報告の際に使用されている媒体が論文です。なので、論文は報告書の一種です。

論文は報告書の一種ですから、伝えたいことを誤解なく、簡潔に、読者に伝わるように書くのが良しとされます。この目的の下で研鑽されてきた文書構成の一つがIMRAD(Introduction, Methods, Results, And Discussion)です。

科学コミュニティーの構成員が、新しく報告された事柄を評価する際の重要なポイントは「新規性」と「独創性」です。また、多くの場合「重要性」も評価のポイントとなります。このため、論文には新しく得られた科学的に観測・観察された事実や知見がかかれているだけでなく、それらがなぜ新規的なのか、独創的なのか、重要なのかも説明されていなければなりません。

巨人の肩の上に立つ

少なくとも「~科学」においては、「既に報告されている科学的に観測・観察された事実と整合する」ということが重要です。自分が得た事実や知見が何とどのように整合的なのか、何とどのように不整合なのか、そして、その理由はなぜなのかを説明する必要があります。

また、科学や技術の進展が著しい現在において、研究成果を得るための考え方から道具まですべてを自分一人で揃えることは大変難しくなっています。結果として、誰かが提案した方法や、誰かが開発した道具などを使って研究を進めることになります。

一方で、研究においては「新規性」や「独創性」が重要な評価基準であるため、今回の研究成果のどの部分を自分が新しく、独創的におこなったのか、どの部分は先人の成果を利用したのかを明示的に述べる必要があります。

論文中で他の文献から引用をしたり、参考文献を示す主な理由がこれです。

別の用途として、論文を簡潔に短く保つために、別文献で詳しく説明していることを参考文献を示すことで説明の省略するための場合もあります。

人は間違う

少なくとも「~科学」において、再現性(同じ条件、方法で行った結果は同じになる)や客観性が重要視される理由は、科学の大前提として「人は間違う」という事実があるからです。人は間違うものなので、著者の人間性やこれまでの信頼を重視するのではなく、論文に記載されている内容から報告された事柄を再現できるのかどうか、同じ知見にたどり着くことができるのかどうかを重視します。最近の論文だけでなく、実験の生データも公開するようにしようという流れは、論文に記載されている内容だけでは再現性や客観性を保つのが難しくなってきたことに由来します。

「人は間違う」のですから、読者が論文の内容に疑義を覚えたときに、自分でその疑義を覚えた点を検証をできるように論文を構成していなければなりません。これは、引用部分や参考文献で示している事柄についても同様です。

参考文献リストの位置づけ

参考文献リストは、論文中の引用の元となる文献や論文中で利用している先人の成果が記載されている文献にアクセスするために必要な情報をリストアップしたものです。なぜ、リストアップしなければならないのかといえば、読者が疑義を覚えたとき、興味を覚えたときに、その文献を直に読めるようにするためです。

このため、論文の想定読者がアクセスできない文献を参考文献として使うべきではありません。ただし、ここでいう「アクセスできる」というのは「そこそこの労力や対価を払えば読むことができる」という意味です。

元の質問に戻って

大学の卒業論文,修士論文,博士論文,はたまた学者による論文など何でもよいのですが,その時の論文で参考・引用するのは,他の方が書いた「原著論文」に限るのですか?

それとも○○大学の紀要や学会の発表論文,書籍などを引用しても良いのでしょうか。


また,紀要や学会発表論文,書籍などは原著よりも信用度は落ちるのかどうか知りたいです。
これは,上記の論文を見下しているという意味ではなく,審査するうえでその制度上,甘かったりする場合があるのかという意味です。

論文執筆の際の引用文献について大学の卒業論文... - サイエンス | Yahoo!知恵袋より)

ここまで説明してきたことを踏まえますと参考文献として列挙する文献として何を使って良いのかは以下の基準によって変わります。

  1. 論文において、どのような目的・用途で当該文献を使用するのか
    • 基本的には信頼できる文献を用います。信頼できない文献の内容に基づいて構築された議論は信頼できないのですから当然です。
    • 何が信頼できる文献なのかは分野によって異なりますが学術書や査読付き論文は分野共通で信頼できる文献とされています
    • 議論対象の発生や存在の事実の提示自体が目的ならば、新聞記事、一般の雑誌記事、Webサイトなども文献として利用できる場合もあります
  2. 当該文献について、想定読者がアクセス可能かどうか
    • この基準により、卒業論文や修士論文は基本的に利用できる文献から外れます。例外は、同組織内の卒業論文や修士論文の参考文献で利用する場合のみです。
    • 博士論文はケースバイケースです。多くの場合、博士論文は学外に公開されているからです(日本の場合、国立国会図書館に収蔵されています)。博士論文の内容が学術書や査読済み論文などの信頼できる文献上で発表されている場合は、可能な限りそちらを利用します。アクセスがしやすいためです。
    • 同じく、この基準により、非出版物は基本的には利用できる文献から外れます。非出版物はいくらでも捏造可能なので、他人の口を借りて何でも主張できてしまうからです。
    • また、Webサイトも基本的にこの基準が適用されます。著者がみたWebページと論文の読者が参考文献リストに基づき閲覧したWebページは同じでない可能性があります(変更されている可能性がある)。

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おわりに

うまく説明できなかった。