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(2015年版)博士進学が決まったあなたが今すぐに始めるべきこと

発声練習

追記:分野ごとに適切な準備が違います

本エントリーは、next49 の見聞きした範囲で博士課程の学生に共通的に必要なことを書いたつもりです。しかし、大きく偏ったり、不適切な提案が含まれていると指摘されています。

ですので、指導教員や先輩とご飯を食べるときやお茶を飲むときの雑談のネタにこのエントリーを利用してください。たとえば、「こんなブログでこんなこと言っているんですけど、うちの分野はどうなんですか?」と尋ねて、「いや、まったくのでたらめ、うちの分野は…」「この部分はまあまあ適切、でも…」などのコメントをもらうためにご利用ください。

はじめに

博士進学が決まったあなたが今すぐに始めるべきことから5年たったので改訂しようかなと。

私が考える博士進学後に考慮すべき事柄は、2010年から2015年になって、あんまり変わっていないのですが、以下について頭にいれつつ、楽しい博士課程生活を送るのが良いのではないかと思います。

  • 今後20年は常勤のアカデミックポストは基本的に増えない。現在の数を維持していたらかなり素晴らしい
    • 基本的に少子化の影響です。少子化対策が功を奏して、子供が増えても大学に来るまでに20年近いタイムラグがあります。
    • アカデミックポストの主たる供給源である大学の予算の削減、大学数の削減で常勤職が減ります。少子化を根拠として予算獲得競争の優先順位がさがるからです。
    • プロジェクトタイプの若手研究者枠は増える可能性があります
  • 短期的には世界的に見てもアカデミックポストの増加は期待できない可能性があります。
    • 1つは景気要因です。EUの不景気、中国の失速など不景気を示す要因が多いです。
    • もう1つは先進国の少子化傾向です(こちらの下位をごらんください)
  • 世界的規模でのアカデミックポスト獲得競争がより強まります(ました)
    • 世界的にいわゆる「ポスドク問題」が起こっています。ただし、国ごとに何が問題なのかは違います → Nature: Education: The PhD factory
    • 基本的にどの国でも「アカデミックポストが空く速度」 < 「博士号取得者の輩出速度」です。なので、自国を超えてポストを狙いにいく人もいます(特に中国やインド)
  • 非アカデミックポストでも研究が続けられる環境ができつつあります
    • オープンアーカイブアクセス運動、セルフアーカイビング、オープンデータなど資料やデータに対するアクセスも遅々とですが進んでいます
    • ニコニコ学会などの研究成果を発表できる場も発生しています
    • クラウドファンディング、たとえばacademistのような新しい研究費獲得方法もでてきました
    • 3Dプリンターの普及やMakerの認知により、時間貸しの作業所(たとえばMaker Lab Nagoya)もでてきました。
  • 大学教員・研究所所員以外にも就職先がでてきました。
    • 日本ではまだまだですが企業での博士号取得者採用が広まっています。たとえばアカリクは博士号取得者向けのマッチングサービスをやっています(これが商売として成り立つようになっている最中)
    • 一部自治体で高校教員としての採用が始まっています。たとえば秋田県
    • 「博士課程に進んで、アカデミックキャリアに進まないのは負け」という古い頭の大学教員も大学を去りつつあります。

まあ、憂鬱なことを列挙しましたが2010年から2015年にかけて大きく悪化したのは景気だけ(実はこれが根本原因なのですが)です。ネガティブな要因は2010年の段階ででそろっており、ポジティブな要因(大学・研究所だけが研究の場でない)は最近でてきた話ですので状況は改善されているといっても良いかもしれません。

では、以下、やっておいた方がいいんじゃない?という話を。

業績リストを作る

後述しますが、博士課程に進んだら各種申請書を書きまくらなければなりません。その際に重要なのが業績リスト。今、論文や業績がほとんどないとしても、必ず用意してください。何が業績になるかは分野ごとに違いますから、分野の先達のWebページを熟読してください。

業績リストは「発表順」と「発表媒体別」の2バージョンを用意しましょう。作った業績リストはWebページで公開しておくのが吉です。大学でも、家でも業績リストが使えますし、あなたのアクティビティを示す証拠になります。

えっ?あんまりがんばっていないからWebに載せたくない。わかりました。じゃあ、すぐに退学届を書きましょう。21世紀に入った現在では、博士課程の学生を含む若手研究者がWebで自分の業績を公開しないなど許されません。

2010年版では「自分でWebページを用意するのが大変な人、研究室や大学がそんな場を用意してくれないという人は、Researchmapを使いましょう。」と書きましたが、2015年段階では面倒ですが以下の媒体にも業績リストを作っておきましょう。

私は自分のWebサイト、ORCID、Google Scholar、Researchmapの4つで業績リストを公開していますが、ちゃんと更新しているのは自分のWebサイトとGoogle Scholarの2つ、ORCIDはScopus論文だけ連携機能を使って更新、Researchmapの業績リストは更新が面倒なのでさぼりがちという状態です。

なお、ORCID、Google Scholar、Researchmap(や他の研究SNS系)の業績リストの入力欄は記載できる情報が少ない場合が多いです。すべての情報が記載された完全版のリストを手元に1つもって管理し続けることをお勧めします

学会に入る

「えっ?いまさら何いっちゃってんですか?」とおっしゃる方もいるかもしれません。それとも「えっ?やっぱり入ったほうがいいんですか?」とお思いですか?前者は頼もしい、OKです。後者には「大丈夫、いまなら間に合うよ」といいたいです。

世間の博士に対する視線は「コミュニケーション能力がないやつら」というものです。アルバイトに研究となるとどうしてもあなたの世界は狭くなってしまいます。今後の就職(大学、研究所、民間企業すべて含む)のことも考えて、学会に入り、人脈を作りましょう。

名刺を作る

上の学会に入るに合わせて、名刺を作りましょう。ネットで名刺を発注しても良いですが、プリンターで簡単に名刺を作れます。とりあえず20枚ほど作ってみて、なくなるごとに作成したらいかがと思います。

私の個人的なTipsとしては

  • 所属は書くけど学年を書かない。理由は学年が替わると廃棄しなければいけないので。「博士課程学生」「博士後期課程学生」で良いと思う
  • 大学発行のメールアドレス、Gmailなどの大学修了後も使えるメールアドレス、研究業績が載っているWebサイト・SNSサービスのURLを載せる
  • キャッチ―なロゴがあると素敵。なければ、所属大学の校章を使う(大学のどっかに利用規定があるので熟読すること)

そして、名刺交換したらちゃんとお礼メールを出すこと出した方が、より印象深く覚えてもらえると思います。私も100%の実践をできていないけど、気づく限りやっています。

また、ikura_chanさんから、大学の先生に「研究者というのは社会に適合できなかったヤツがなるものだ」なんてうそぶく人がいて、そのせいでその先生に指導を受ける博士たちが社会常識がなくても良いと納得してしまい、その博士たちが常識ない行動した結果、博士全体が「博士は社会常識がない」と言われてしまい腹が立つという話を聞いた。「時間を守らない。学会に参加しても懇親会に参加しない。名刺をもらってもちゃんとお礼の返事をしない。」と常識のない行動を列挙していただいたのだけど、実は私「名刺をもらってもちゃんとお礼の返事をしない」という非常識な行動をとっていたのでこっそり耳が痛かった。

なので、今回からは名刺をいただいた方にちゃんとお礼のメールを返すようにしようと思った。
参加記(4):飲み会&まとめより)

追記(2015/2/2): 上の引用部分は「名刺をもらったらお礼メールを出す」という良いアイデアは私の発案でなく、他の方に私が教えていただいたものというのを示したくていれました。「名刺交換についてのお礼メールをすべき理由」の出典として使っているわけではありません。上記の引用部分のまとめは私の記憶によるものですので、「名刺をもらってもちゃんとお礼の返事をしない。」ことを「常識のない」と理解したのは、私 next49 です。単なる名刺交換するだけでおしまいにせず、その後に話せたことや講演・話を聞けたことが嬉しかったとメールで伝えた方が、人脈作りとしてより良い方法だと思いましたのでこの項を書きました。「業績リストをつくる」「学会に入る」は規範的な(やるべき)ものですが、こちらは推奨的な(良いと思ったらやってみて)ものです。ですので、上の規範的表現を推奨表現に変更しました。

追記2(2015/2/2):この項に関して迷惑と感じられる方もいらっしゃいます。

研究成果を可能な限り公開する

特に人文学系はこれが重要。理工農学系は研究室単位のチームプレイで研究を進めることが多いので、研究成果の公開は共同研究者および共著者、指導教員と良く相談して行うこと。最近は、さまざまな公開方法がでてきたのでそれを利用して、自分にとっての資料保管法とするついでに、他の人に対する自己宣伝の場として使うのが良いと思う。以下は例。

PowerPointなどの発表資料の公開

予稿や論文の公開

プログラムや定期的に改訂する文書

コラムやエッセイ

  • researchmapGoogleなどで上位にでてくる
  • その他お好きなブログサービス

異分野の人とのつながりを築こう

何か変な自己啓発セミナーみたいで恐縮ですが、どうしても会う人が少ないと自分の考えも狭くなるので異分野の人とのつながりを作っておきましょう。一番いいのはちょっと分野が違った勉強会やシンポジウムに参加してみることです。興味のままに新しいことを知る楽しみが得られて結構よいですよ。

私の例は以下の通り

あなたの分野で投稿できる学術雑誌&学術会議を列挙する

ほとんどの大学での学位の取得要件は学術雑誌に論文をX篇掲載するというものです。とっても、びっくりすることに博士課程に進んだのに自分の分野の学術雑誌や学術会議を知らない人がいます。実は私がそうでした。

モチベーションを高く保つため、また、切羽詰ったときにそんなことしなくてもよくするため、あなたの分野で投稿できる学術雑誌&学術会議を列挙しましょう。たとえばどの会議や雑誌に投稿すべきかの情報を共有するのは素晴らしいのようにとか。

会議や雑誌を調べるときは以下の情報もあわせて調べておくと後々便利です。

  • 論文の募集時期(適宜なのか、決まった時期があるのか)
  • 出版時期(投稿した論文は順調にいって、いつ出版になるのか)
  • ジャンル(何系の研究テーマを募集しているのか)

列挙した学術雑誌&学術会議は、Webページで公開しましょう。誰かの役に立ちますし、あなたが本気で学位をとる気であるということがアピールできます。

あなたの分野で申請できる奨学金/研究助成金を列挙する

日本の博士に対する批判の一つに「日本の博士は自分で研究費をとってくることをしない」というものがあります。一方で、世の中にはたくさんの奨学金/研究助成金が存在します。不況の現在でもです。

もし、あなたが博士課程の後に職業研究者の道を進もうと考えているならば、あなたの一生は申請書との格闘であるといっても過言ではありません。一方、あなたが職業研究者でなく、高度技術者として生きようと思っていたとしても、社内予算やベンチャー資金の確保、各種コンペティションのために申請書やらプレゼン資料やら書き続けることは一緒です。

あなたは論文書きだけでなく、資金集めのための申請書書きについても博士課程のうちに学んでおかなければならないのです。公益財団法人 助成財団センターやご自身の大学の研究助成係(そんなような部署、たとえばこんなの)で、自分が投稿できそうなところを列挙しましょう。可能性を狭くとらず、むりやりねじ込めばどうにかなるなという分野までピックアップするのがコツです。そして、1年に2つは申請書を出しましょう。そうすれば、今から6回は申請書を書く練習ができます。

たとえば、以下のようにまとめて置くと、いつ申請するのか分かりやすいかも知れません。

申請書の書き方についてはこちらが参考になります。

また、ちょっと視野をひろげて企業系の助成やコンペティションなども検討してみるも良いかもしれません。

あなたが書いたすべてのドキュメント、図、表をすぐに使いまわせるようにしよう

私は修士論文提出4日前に3日間かけてつくっていたプログラムとシミュレーション結果のデータを間違えて消してしまった経験があります。それ以来、バージョン管理ソフトウェアを使って、自分の書いた全てのドキュメント、発表資料、図、ソースコード、実験データを管理していますが、これのおかげで、いろいろな資料を作ったり、申請書を作ったりするのがとても楽になりました。

あなたも、これからたくさんの申請書、たくさんの論文、たくさんの発表資料、たくさんの広報資料を作らなければなりません。そんなとき、すぐ自分が昔書いたドキュメントや図、表を使えるようにしておくと作業の効率が上がります。あなたの計算機に関する知識と計算機環境にあった管理方法を探し、それで全資料を管理するようにしてください。

2010年版では以下のように書きましたが、

私は、Subversion(バージョン管理)とUnison(ミラーリング)というソフトウェアを使って、仕事環境を管理しています。このため、新しいPCに仕事環境を構築する必要ができたときも、ネットワークにつながっていれば、2〜3時間で環境を構築できます(ツールのインストール込み)。家でも、研究室のPCでも、ノートPCでも統一的にファイルが扱えるのは便利ですよ!」

2015年の今はオンラインストレージサービスがあるので、より簡単にミラーリングを行えるようになりました。

なお、注意点としてバックアップとミラーリングは異なる考え方であり、両方を行うのが良いとされています。

  • バックアップ(差分バックアップ):過去の状態に戻せるようにファイルとその変更履歴を保存する。通常はバージョン管理システムを使う
  • ミラーリング(同期):あるコンピュータ上のフォルダ(ディレクトリ)と別のコンピュータ上のフォルダの内容を一致させる。通常、古いファイルは新しいファイルに上書きされる

編集を行いながら作成する電子ファイルはバックアップをとり、編集しない閲覧だけの電子ファイルはミラーリングするのが良いです。私はバックアップにgitを使い、ミラーリングDropboxを使っています。

収集した文献の整理をしておこう

博士課程までになると収集した論文や資料が結構な数になっていると思います。この春休みを利用して整理しておきましょう。整理の仕方はたくさんありますが、あまり凝った整理の仕方をすると整理が破綻したときにやる気がなくなります。シンプルで、整理が失敗したときも簡単に復帰できるような方法にしましょう。

研究のやり方に関する本を読んでおこう

指導教員からの一子相伝的な学びや私のブログで書かれているような断片的なTipsも良いですが、ここらで一度、研究のやり方に関する本を2〜3冊読んでおきましょう。

私の場合はこんな本を読みました。

代替案を考えておこう

冒頭にも書きましたが就職に関して、視野を狭く考えると未来は闇です。まずは、日本において博士課程進学者および博士号取得者に対する視線は冷たいので、まだそれを、認識していない人は以下を読んでみてください。

落ち込みますね。でも、それはそれ、これはこれ。みなさんは、その上で、きっちりと研究能力を身につけて、その後、ご飯食べて生きていける社会人になりましょう。ごはん食べて、元気に生きていればどうにかなります。

人によっては、退路を断って覚悟を決めて、この道しかないと見定めてがんばれと言うのかもしれないけど、私は「退路を確保しつつ全力を尽くして欲しい」と思います。私は退路がないと思うと、緊張して何もできなくなってしまうタイプなので。背水の陣は非常の策。常道は退路を確保し、再起を図れるようにしておきましょう(成功するための秘訣:何度も挑戦できる環境を用意する)。ぜひ、第一志望の進路がうまくいかなかったときのセカンドチョイス、サードチョイスを博士号取得までに準備しておきましょう。冒頭に書いた通り、状況は変化しています。

たとえば、留学とか。

博士課程を通して得たメタ研究能力を生かして、研究以外の道へ進むとか。

定期的な運動・気晴らしの習慣を作っておこう

私はこれに失敗したので、ぜひ若いみなさまには!

おわりに

2010年版に少し情報を加えたものなので、もっと後で思いつくかもしれない。