読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

奨学金の継続審査の厳格化は生活保護の不正受給防止と同じ問題点を持っている

大学

真面目に勉強しない学生に教育ローンを組ませても、借りる学生にも、貸す側にもメリットが少ないというのは良くわかる。でも、審査を厳格にするコストが厳格な審査によって得られるロスカットよりもかかってしまっては元も子もない。だから、審査を厳格にするコストと厳格な審査によって得られるロスカットの比較を見せてほしい。

〜前略〜
同機構から奨学金を借りている学生は毎年、新年度を迎える前に、返還義務の自覚や家計の状況を記入した「継続願」を提出する必要がある。所属する大学や専修学校が、学業への姿勢、成績などを基に貸与の継続にふさわしいかを審査。やむを得ない理由がないのに留年したり、ほとんど単位を取っていなかったりする場合は最も厳しい「廃止」と認定し、学生は借りる資格を失う。次いで、最長1年貸与を止める「停止」もある。

昨年度の継続分についての審査は、91万人余りが対象となり、廃止は1万846人、停止1万2187人だった。一方、「このままの状況が続けば、次回の認定以後に廃止または停止する」という意味合いの「警告」となった奨学生が1万2329人いた。

機構は昨年7月、警告となった奨学生について大学側の審査が適切だったかをチェックするため、初めて自ら「全件調査」に踏み切った。その結果、586人について大学側の判断を覆し「原則として廃止にすべきだ」と判断。昨年12月に大学側に通知した。特別な事情を認めて「停止」とした例も含め、継続の希望があっても今年度から貸与を打ち切った。
〜後略〜
13年度継続分についても警告対象者の全件調査を実施する方針。状況が改善せず、大学側による厳格な審査が十分になされていないと判断される場合は、その後も続けていくという。また、大学が作業しやすいよう認定基準をより具体化することも検討している。
奨学生600人貸与打ち切り 支援機構、大学の審査覆すより)

91万件強が審査対象であり、不適切な判定が586件。誤判定率(本来は廃止とすべきなのに廃止していない)は0.064%。10万件につき64件。全数検査の対象が1万2187件なので、警告の審査が不適切だった率は 2.3%。100件中2件強。個人的には十分に良い審査をしていると思う。でも、もう少し考えてみる。

利子つき奨学金の貸与月額の最高額は12万円。1年生から卒業まで借りているとして(12万円×12か月)×4年=576万円。Yahoo知恵袋:大学の奨学金の利子がよくわかりませんを見ると日本学生機構の利子つき奨学金は単利でなく複利の様子。奨学金ガイドブック2013の4ページの返還例の表を見ると約775万円を返済しないといけない。

判定が不適切だったことによりロスカットできる金額を推定してみる。

  • 廃止と判断される学生は将来、奨学金の返済をしないと仮定する
  • 2年生の初めに廃止相当であることがわかったとする
  • 本来はちゃんと複利計算しないといけないが、最大額である約775万円の4分の1だけ返済金が積みあがるとする。
  • 4年間そのままにしておくと約775万円踏み倒される。厳格に審査すると約193万円で済む(つまり、1人当たり役582万円ロスカット
  • 582万円×586件=34億円が厳格審査によって得られるロスカット金額

審査を厳格化する際に、その厳格化が審査対象全部に影響するならば、1件当たり約3700円までのコスト増はロスカットと釣り合う。警告の対象だけを厳格審査の対象とするならば、1件あたり約28万円までのコスト増と釣り合う。

実際には全員が12万円借りているわけではないし、成績が悪くなったのも途中からかもしれない。そもそも廃止と判断された学生だって全員が返済しないとは限らない。

この表は、厳格化が審査対象全部に影響する場合の1件の審査当たりに許されるコストの表。X年貸与済みというのは、X+1年生のときに「警告」と審査され、その後、厳格審査により「廃止」とされた場合(上の計算例は貸与月額12万円、1年貸与済みの例)。

貸与月額 1年貸与済み 2年貸与済み 3年貸与済み
3万円 \851 \567 \284
5万円 \1,458 \972 \486
8万円 \2,496 \1,664 \832
10万円 \3,120 \2,080 \1,040
12万円 \3,744 \2,496 \1,248

こちらは、厳格化が「警告」と判定された範囲のみに影響する場合の1件の審査当たりに許されるコストの表。

貸与月額 1年貸与済み 2年貸与済み 3年貸与済み
3万円 \63,540 \42,360 \21,180
5万円 \108,859 \72,572 \36,286
8万円 \186,359 \124,239 \62,120
10万円 \232,949 \155,300 \77,650
12万円 \279,541 \186,360 \93,180

私立大学文系学部が多いことから、8万円の貸与月額が一番多いと仮定すると厳格化が審査対象全部に影響する場合の1件の審査当たりに許されるコストは2,495円(年授業料約75万円、Benesse マナビジョン 保護者版:入学から卒業までの「学費」より)。月給20万円の職員の時給(月160万円)は1,250円。なので、厳格化により2時間・人のコスト増になるとロスカットしても意味がないことになる。

学生支援機構はもっと詳細なデータを持っているはずなので、ぜひ、ちゃんと厳格化によって得られるメリットとデメリットを定量的に勘案して進めてほしい。特に、91万件の審査業務の多くを行うのは学生支援機構外の大学職員(場合によっては教員も仕事に一部を担う)なので、厳格化が審査対象全部に影響する場合の1件の審査当たりのコスト増を被るのは大学。大学と学生支援機構をトータルに見た検討をお願いしたい。