大学教員や博士号取得者が大学のあり方や大学院のあり方を議論するときに忘れがちなのが、自分の議論相手の大半が大学進学者および修士課程進学者であるということ。全有権者に占める修士課程進学者(博士課程進学者ならばなおさら)の割合はいったいどれくらいなのか?大雑把に計算してみた。
あくまでも大雑把な値で十分なので、以下のように計算してみた。
- 統計局:2010年2月の人口推計から20歳以上の5歳区分けの年齢階級ごとの人口をとってくる
- 20歳、25歳、30歳、40歳、50歳、55歳、60歳、70歳、80歳、75歳を各年齢階級の代表値とし、この年齢の人が18歳のとき、22歳のときの大学進学率と修士課程進学率をとってくる
- 大学進学率は文部科学省:大学・短期大学等の入学者数及び進学率の推移(PDF)のグラフから目分量でおおよその値を取得した。
- 大学進学率は、その年の大学入学者数を3年前の中学校卒業者数で割った値である(資料をご参照のこと)
- 修士課程進学率は、ベネッセ:図1 大学院入学者数と進学率の推移のグラフから目分量でおおよその値を取得した。ただし、1989年からの進学率しかなかったので、それ以前の進学率は1989年の値とした。
- 修士課程進学率は、学部卒業者で直接修士課程に進学した人数を学部卒業者で割った値である。
- 本来は、大学進学率の定義、修士課程進学率の定義、学歴と死亡者の関係などいろいろと考慮しなければならないけど、ざっくりと、「年齢階級ごとの人口×大学進学率/100」を大学進学者数として計算した。
- 同様に「年齢階級ごとの人口×大学進学率/100×修士課程進学率/100」を修士課程進学者数とした。ただし、20歳〜24歳の階級はまだ大学を卒業していない学生も含まれるので、前述の式を0.5倍している。
以下、表。
年齢階級 | 人口推計値(千人) | 大学進学率(%) | 修士進学率(%) | 大学進学者(千人) | 修士進学者(千人) | 修士進学者が占める割合 | |
20 to 24 | 6,701 | 47(平成19年) | 14(平成13年) | 3149.47 | 220.46 | 3.29 | |
25 to 29 | 7,282 | 40(平成14年) | 14(平成13年) | 2912.8 | 407.79 | 5.6 | |
30 to 34 | 8,426 | 35(平成09年) | 14(平成13年) | 2949.1 | 412.87 | 4.9 | |
35 to 39 | 9,518 | 26(平成04年) | 11(平成08年) | 2474.68 | 272.21 | 2.86 | |
40 to 44 | 8,414 | 26(昭和62年) | 8(平成03年) | 2187.64 | 175.01 | 2.08 | |
45 to 49 | 7,687 | 27(昭和57年) | 6(昭和61年) | 2075.49 | 124.53 | 1.62 | |
50 to 54 | 7,661 | 27(昭和52年) | 6(昭和61年) | 2068.47 | 124.11 | 1.62 | |
55 to 59 | 9,120 | 25(昭和47年) | 6(昭和61年) | 2280 | 136.8 | 1.5 | |
60 to 64 | 9,305 | 16(昭和42年) | 6(昭和61年) | 1488.8 | 89.33 | 0.96 | |
65 to 69 | 8,330 | 12(昭和37年) | 6(昭和61年) | 999.6 | 59.98 | 0.72 | |
70 to 74 | 6,873 | 10(昭和32年) | 6(昭和61年) | 687.3 | 41.24 | 0.6 | |
75 to 79 | 5,781 | 9(昭和30年) | 6(昭和61年) | 520.29 | 31.22 | 0.54 | |
80 to 84 | 4,209 | 7(昭和25年) | 6(昭和61年) | 294.63 | 17.68 | 0.42 | |
85歳以上 | 3,633 | 5(昭和10年) | 6(昭和61年) | 181.65 | 10.9 | 0.3 | |
有権者合計 | 1,0294,0 | -- | -- | 24269.92 | 2124.13 | -- | |
全有権者数に占める割合 | 23.58 | 2.06 |
20歳以上を有権者とすると、大学進学者は全有権者数に大して4分の1以下。修士課程進学者は、50分の1くらい。これに国勢選挙の年代別投票率をあわせると、実際に投票にいくうちにどれくらいの人が大学で学生として学んだことがあるか、また、修士として学んだことがあるかの目算がたつはず。
極論だけれども、修士課程に進学していない人は大学院の必要性や重要性を肌で感じられないとすれば、投票で影響力が高い世代の方々には「そもそも大学院とはなんぞや」というところから説明していかないと、大学院の意義や大学で研究を行う意義などは理解してもらえないということがわかる(55歳以上では修士課程進学者は100人に1人程度)。
以上、いろいろな議論をするときのご参考になれば幸い。
参考資料
- 統計局:20010年2月の人口推計
- ベネッセ:図1 大学院入学者数と進学率の推移
- 文部科学省:大学・短期大学等の入学者数及び進学率の推移(PDF)
- 中央教育審議会:新時代の大学院教育−国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて−附属資料
追記:博士は?
ベネッセ:図1 大学院入学者数と進学率の推移を参考に、博士課程への進学率を一律2%としたとき、上記と同じように年齢階級別に博士課程進学者数を考えてみる。計算式は「修士課程進学者×博士課程進学率/100」「大学進学者×博士課程進学率/100」
年齢階級 | 博士課程進学者(千人) | 年齢階級に占める割合(%) |
20 to 24 | 0 | 0 |
25 to 29 | 58.26 | 0.8 |
30 to 34 | 58.98 | 0.7 |
35 to 39 | 49.49 | 0.52 |
40 to 44 | 43.75 | 0.52 |
45 to 49 | 41.51 | 0.54 |
50 to 54 | 41.37 | 0.54 |
55 to 59 | 45.6 | 0.5 |
60 to 64 | 29.78 | 0.32 |
65 to 69 | 19.99 | 0.24 |
70 to 74 | 13.75 | 0.2 |
75 to 79 | 10.41 | 0.18 |
80 to 84 | 5.89 | 0.14 |
85歳以上 | 3.63 | 0.1 |
全有権者数に占める割合 | 大学進学者に占める割合 |
0.41% | 1.74% |
博士課程で何をやっているのか、博士はどういう能力を鍛えているのかはちゃんと説明しなければ有権者はわからない(10000人に4人しかいない1000人に4人しかいない)。さらにいえば、大学進学者ですら博士のことはわからない(500人に1人なので100人に1人)。