それと、大学4年生の子たちが「大学院に進学したい」と聞くと止めるべきかどうかすごく悩みます。一生を棒にふることになる危険性がそこにあるからです。しかし、その一方で僕なんかとは比べ物にならないくらいすばらしい研究者になる可能性もあり、学問の発展のために応援すべきなのか、その子の人生のために惨敗した人間としてとめるべきなのか、とても迷っています。アドバイスをお願いいたします。
分野と修士で終わるか、博士まで行くかによって違うから。
再:ポスドクや博士課程の就職の話をする場合には「博士課程=大学院」と呼ばないで欲しいより、転載。
2007年に書いたエントリーポスドクや博士課程の就職の話をする場合には「博士課程=大学院」と呼ばないで欲しいと同じことをやってみる。
学校基本調査 > 平成23年度(速報) > 高等教育機関(※岩手県,宮城県及び福島県の数値を含む。) > 卒業後の状況調査−平成23年3月卒業− > 大学院の「大学院の専攻別 状況別 修了者数」を見る。平成23年3月の修了者の主なデータは以下のとおり
- 修了者数:74,675名
- 就職者数:54,004名
- 進学者数:8,059名
- 専修学校・外国の学校等入学者数:448名
- 進路未決定者(修了者数 −(就職者数+進学者数+専修学校・外国の学校等入学者数)):12,164名
進学しない人は、就職するつもりだったと仮定して、就職率を以下のように計算する。
- 就職率 = 就職者数/(就職者数+進路未決定者)*100
すると、平成23年3月修士課程修了者の就職率は81.6%。
一方、学校基本調査 > 平成23年度(速報) > 高等教育機関(※岩手県,宮城県及び福島県の数値を含む。) > 卒業後の状況調査−平成23年3月卒業− > 大学(学部) の「大学の関係学科別 状況別 卒業者数 」を見る。平成23年3月の卒業者の主なデータは以下のとおり
- 卒業者数:552,794名
- 就職者数:340,378名
- 進学者数:70,642名
- 専修学校・外国の学校等入学者数:12,200名
- 臨床研修医予定者数:8,834名
- 進路未決定者(卒業者数 −(就職者数+進学者数+専修学校・外国の学校等入学者数+臨床研修医予定者数)):120,740名
就職率を以下のように計算する。
- 就職率 = 就職者数/(就職者数+進路未決定者)*100
すると、平成23年3月学部卒業者の就職率は73.8%。
以上より、修士課程修了者の就職率は81.6%で学部卒業者の就職率は73.8%となり、修士課程を修了した方が就職率は高い。
学歴別就職率(専攻・学部別)
専攻・学部 学部 修士 博士 全体 73.82% 81.6% 65.31% 人文科学 68.23% 53.82% 34.20% 社会科学 72.87% 60.06% 49.38% 理学 73.21% 86.76% 56.00% 工学 80.14% 92.80% 72.26% 農学 80.29% 86.72% 58.47% 保健 87.75% 91.43% 82.38% 商船 25.00% 92.86% ― 家政 78.66% 76.32% 62.65% 教育 80.01% 71.47% 57.34% 芸術 46.80% 34.99% 24.18% その他 71.92% 74.92% 55.83% 学部就職率(学部別)
学部 卒業者 進学者 就職者 臨床研修者 専門学校 進路未定 就職率 全体 552,794 70,642 340,378 8,834 12,200 120,740 73.82% 人文科学 88,978 5,238 55,195 − 2,840 25,705 68.23% 社会科学 199,784 7,535 136,837 − 4,479 50,933 72.87% 理学 18,843 8,261 7,557 − 260 2,765 73.21% 工学 90,048 34,467 43,292 − 1,558 10,731 80.14% 農学 17,235 4,699 9,808 − 320 2,408 80.29% 医学 7,631 24 96 6,966 1 544 15.00% 歯学 2,423 16 1 1,868 − 538 0.19% 薬学 1,365 1,042 135 − 5 183 42.45% 保険その他 26,863 1,512 23,053 − 311 1,987 92.06% 商船 4 − 1 − − 3 25.00% 家政 15,823 524 11,828 − 263 3,208 78.66% 教育 37,096 2,760 26,947 − 655 6,734 80.01% 芸術 16,731 1,825 6,690 − 610 7,606 46.80% その他 29,970 2,739 18,938 − 898 7,395 71.92% 修士就職率(専攻別)
専攻 修了者 進学者 就職者 専門学校 進路未定 就職率 全体 74,675 8,059 54,004 448 12,164 81.6% 人文科学 4,953 933 2,127 68 1,825 53.82% 社会科学 7,838 825 4,169 72 2,772 60.06% 理学 6,115 1,185 4,260 20 650 86.76% 工学 31,418 2,017 27,183 109 2,109 92.80% 農学 4,179 566 3,116 20 477 86.72% 保健 6,208 857 4,878 16 457 91.43% 商船 33 5 26 − 2 92.86% 家政 445 42 303 6 94 76.32% 教育 4,371 352 2,848 34 1,137 71.47% 芸術 1,930 140 614 35 1,141 34.99% その他 7,185 1,137 4,480 68 1,500 74.92% 博士就職率(専攻別)
専攻 就職者 進学者 就職者 専門学校 臨床研修者 進路未定 就職率 全体 15,893 108 10,150 242 1 5,392 65.31% 人文科学 1,441 15 473 43 − 910 34.20% 社会科学 1,235 14 594 18 − 609 49.38% 理学 1,255 15 681 24 − 535 56.00% 工学 3,370 9 2,399 41 − 921 72.26% 農学 1,001 9 566 23 1 402 58.47% 保健 5,068 27 4,105 58 − 878 82.38% 商船 − − − − − − − 家政 85 − 52 2 − 31 62.65% 教育 379 1 211 10 − 157 57.34% 芸術 189 − 44 7 − 138 24.18% その他 1,870 18 1,025 16 − 811 55.83%
博士号取得後のキャリアには明らかに問題があり、日本の科学・技術政策の観点からみると人材の有効活用ができていない。一方で、議論するときには議論の対象をはっきりさせて行わないとより悪い方向にいってしまう可能性があるので気をつけたいところ。
関連過去エントリー
- 博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか?
- ポスドク、博士の就職問題がボンボンの甘えにしか見えない理由
- 「博士号持ち=平均以上の収入」という社会を期待してもしょうがない
- 国別博士号輩出数
- ノーベル賞受賞者じゃない研究者の緊急討論会
研究者の不安定雇用(ポスドク含む)における労働問題の側面については「就職における年齢差別反対」の1点のみを主張する
- 研究者の不安定雇用を労働問題の側面で押し出すと非正規雇用の話を持ち出され一蹴される(当然の話)
- 研究者の不安定雇用の話は、科学者キャリアパスの理想像とのギャップにおいて問題とするべきで、個々人の雇用の安定の話では問題するべきでない
- 博士の民間や行政での活用や科学者キャリアパスにおける出身背景の多様性の維持を阻む重要な問題の一つは「就職における年齢差別」。別名「新卒主義」。
- 「就職における年齢差別」は第二新卒やロスト・ジェネレーション世代、リストラによる解雇された人の再就職者、定年後の就職活動者などにとっても同じように重要な問題
- まずは、国家公務員1種試験の受験資格から年齢制限とポストドクター採用の年齢制限を廃止する
- つぎに、新卒採用の根拠となっている「募集・採用時の年齢制限禁止」の例外事項をはずす
- その後、退職金に対する優遇税制を廃止する
- 参考:「募集・採用時の年齢制限禁止」の義務化(PDF)