政治的行動を下支えするための「床屋談義喫茶」

個人的に驚くとともによかったなぁと思ったことは、今回の事業仕分けを契機として税金の使い道について多くの人々が自分なりの意見をもっており、それを表明する場があるならば、案外いろいろと意見を述べるのだということ。まあ、当たり前だけど。これまで31年間生きてきた経験からいうと、この事業仕分けについての話もあと1ヶ月しないうちに下火になり、あまり議論にのぼらなくなってしまうだろう。それについてのいろいろな研究があるのだろうけど、理由の一つとして「聞き手がいなくなる」というのが大きいんじゃなかろうか。

何かの問題を解決しようとするとき次のステップを踏むとする。

  1. 問題の把握
  2. 問題の原因分析
  3. 原因の解消あるいは緩和方法の調査および提案
  4. 実施する解消方法あるいは緩和方法の選択
  5. 選択した方法の実行

自分が生きていくために行うことに費やす時間を本業時間とした場合、時事問題について何かを考えたり行動したりする時間は余暇時間に当てられると思う。多くの人にとって、余暇時間で行なうならば上記ステップの1〜3ぐらいまでが本業時間とのバランスの限界で、場合によっては3の「原因の解消あるいは緩和方法の調査および提案」も専門知識が必要となるので余暇に行なうのはしんどいのではなかろうか。で、1〜2の段階(あるいは1〜3)までを議論して満足して(費用対効果で考えると、知的好奇心を満たすことより本業に影響を与えることの方が勝ってしまう)関心を別のものに移してしまう。

時事問題が盛り上がった瞬間から議論を始めた人は、早々にステップ2に達してしまい、もう議論しなくなり、後からその問題に参加した人は、議論する相手がいないので張り合いがなくステップ2にすら進まない。そして、話題は別の時事問題へ移っていくという感じ。あとは、先行議論を追うコストが高すぎて、もうその問題の議論に入りたくなくなってしまうというのもあると思う。

一方で、ある時事問題が本業と関わる人(たとえば、今回の事業仕分けで仕分けされた側の人たち)は、ステップ5まで進めたい。ただし、ステップ5まで進めるためには、世論の支援が必要なので、多くの人に少なくともステップ2の状態になってもらい、ステップ3と4の妥当性を納得してもらい、ステップ5の後押しをしてほしい。

個人的にはこの構造は趣味の雑誌や掲示板、SNSでも似たような状況が発生していると思っている。雑誌、掲示板、SNSの内容が常連にとっておもしろい(=初心者にとっては高度過ぎて面白みがわからない)内容にどんどん先鋭化していき、蛸壺化して、最後は消滅するという構造。

なので、質問はこうなる「時事問題に興味を持った人の多くをステップ2の状態に持っていくためにどうすれば良いのか?」

私の答えは、「興味をもった初心者が遠慮なく議論をできる場を用意する」のが良いのではないか。具体的なイメージは歌声喫茶雀荘碁会所。すなわち、その場所へ行き、所定の手続きを踏めば誰でも(うまい下手関係なく)議論が行なえる場が良いのではないかと思う。サイエンス・カフェというのもいいんだけど、「テーマがある」「先生と生徒の関係になりやすい」というのはうまくない(参考:Cerebral secreta: 某科学史家の冒言録:サイエンスカフェ)。暇になったとき、スケジュールが空いたとき、ぶらりと議論できる場が好ましい。

しかも、ステップ2の「問題の原因分析」までの議論で十分OKという気軽さも欲しい。ステップ5の実際の行動まで求められる議論だと、気軽に議論に参加しづらい。無責任にガヤガヤ床屋談義を楽しめるぐらいでちょうど良いと思う。

単なる場を設けただけだと、議論好き(得てして議論がうまいわけでなく、自説を述べるのが好き)な人だけが集まり、「時事問題に興味を持った人の多くをステップ2の状態に持っていく」という目的が達成できないので、仕組みが必要。ディベート・カフェなんかは私のイメージに近そう。一定のルールを用意して、能弁な人もそうでない人も、専門知識がある人もそうでない人も、取りこめるようにした方が良さそう。何かの時事問題を煽りたいときには、専門家がその場に参加して、議論の相手になったら良い。

たとえば、以下のようなものはどうだろうか(ブレインライティングの応用)。

  • 議論の目的:**という事柄について、現状の問題は何か、その問題の発生原因は何かを明らかにする
  • 議論のゴール:二人の意見がまったく違うということが分かる or 現状の問題とその原因について同意を得る or 1時間経つ
  • 議論の人数:高々5人
  • 役割:司会進行&タイムキーパー1名(2人の場合は不要)
  • 必要なもの:スケッチブックとマジックペン(2色以上)を人数分
  • 進め方:ターン制

あまり人数が多いと発言しない人が増えてつまらないだろうし、議論が発散しすぎると思うので高々5人。時間無制限にしてしまうと気楽に議論に参加できなくなるから、時間は指定した方が良いと思う。あと、議論になれていない人は、何もないと話づらいだろうから、「恋のからさわぎ」方式で「意見を書く」→「それを説明する」という手順を踏めば議論しやすいかと。

具体的な進め方は以下のとおり

  1. ある事柄について議論することを宣言し、参加者を募る
  2. 司会を決める
  3. スケッチブックとマジックペンを配布
  4. 司会が中心となって議題を参加者と確認し、確認した議題を各々のスケッチブックの1ページ目に書いてもらう
  5. 最初の5分は、自分が考える「その議題における問題」「問題の発生原因」を問題ごとにスケッチブックのページを変えて書いてもらう
  6. 時計回りに、問題とその原因を1つずつ発表。それぞれ問題に対して以下を繰り返す
    1. まず、「何を問題と思うのか」「なぜ、それが問題なのか」を説明
    2. 次に、「何がその問題の原因なのか」「なぜ、そう思うのか」を説明
    3. もし、同じことを問題だと思っている人がいたら、一人ずつ「なぜ、それが問題なのか」「何がその問題の原因なのか」「なぜ、そう思うのか」を説明
    4. その後、意見交換を行なう(5分程度)
  7. すべての問題に関して上記のステップが終わったら
    • 時間がある場合は、また5分間とって、行なっているうちに思いついた問題と原因セットをスケッチブックに書いてもらう
    • 時間がなければ、お互いに褒めあって終了

ルール

  • ギャラリーの議論参加はご法度。
  • 意見交換タイム以外は黙って他人の発表を聞く。
  • 丁寧な言葉遣いを心がける。
  • 時間を守る
  • 議論の基本ルール「発言」に対して批判をし、「発言者」に対して批判をしない

うん、我ながらこの議論方式はつまらなそう。複数の議論方式(ディベートとか)があると良いよね。ダーツバーみたいで。