「実際に行なったことをそのまま説明する」のはうまい説明とは限らない

ある成果物を得ることができればどういう手順でやろうと構わない作業(主に知的作業)を行なうときには、次のことを留意した方が良い。

  1. 成果物を得るために自分にとって最も適切な手順で作業を行なうべきである
  2. 多くの場合、ノウハウやTipsとして推奨作業手順があるがそれが自分に合わないのであれば、その手順にしたがう必要はない
  3. 他人に自分が行なった作業とその成果を説明するときには、必ずしも実際に行なったことをそのまま説明するのは良い方法ではないことを理解すること。多くの場合は、成果が重要であり、作業手順はポイントだけ分かればそれで十分。

一方で、定められた手順にしたがうことが重要な作業(実験や観察、機器の操作など)は、手順こそが重要なので上の作業とはまったく異なる。

  1. 適切な手順で作業したが成果物が得られないのであれば、その「成果物が得られない」という事実が成果である。
  2. 作業手順が自分に合わなくても、絶対にその手順に従う。その手順にしたがえないならばその作業をしない(する意味がない)。
  3. 他人に自分が行なった作業とその成果を説明するときには、必ず、実際に行なったことをそのまま説明すること。正しい手順に従って得られた結果だけが成果物である。一見理想的な成果物に見えたとしても、定められた手順に従わずに得たものならば、それはゴミあるいは捏造である。

卒業研究や修士研究においては、教員が学生に提示した作業がすべて「手順重視」に見えてしまうが、結構「成果物重視」の作業であることも多い。自分が作業を進めるのに困っているときには、まず、自分が行なう作業が「手順重視」か「成果物重視」なのかを先生や先輩に相談してみよう。なお、再現性が重要視される作業(属人性が低い作業)は、定められた手順に従うことが重要な作業であることが多い。

たとえば、教員があなたに「研究で考慮しなければいけないパラメーターの一覧表を作りなさい」と指示したとする。そのとき、あなたが行なうべきことの本質は研究で考慮しなければいけないパラメーターをすべて列挙することであり、表を作ることは二次的なことである。なので、あなたは、自分にとって研究で考慮しなければいけないパラメーターをすべて列挙するのに一番やりやすい方法でパラメーターの列挙を行なえばよく(たとえば、マインドマップを使ったり、ブレインストーミング、ブレインライティングをしたりする)、必ず表を使ってパラメーターの列挙をしなければいけないわけではない。

人間の思考はある程度、使う道具や表現媒体、表現方法によって縛られるので、自分にもっとも適切な方法で思考を紡ぐべき。最終的に求められているのがUMLステートメント図だからといって、常にステートメント図で検討対象を分析する必要はない。自分がやりやすいならば、何の図、何の数式、場合によっては模型を作って分析してもよい。誰かにとって最良の方法があなたにとって最良の方法とは限らないことは常に頭に叩き込んでおくべき。