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卒論のテーマ選択について

以下は、研究者になる人にはあてはまらないかもしれません。あくまでも個人の考えです。(追記:2008/6/10、私の所属は計算機科学・情報工学系です)

私は、修士2年次で始めて研究者の道について考えたので、卒論や修論ははっきりいって卒業&修了に必要な単位という認識だった。なので、研究室の選択基準は4年生でも部活を続けることを許してくれるかどうかだけ。卒論テーマも卒業できればよかったので、先生が得意であると言ってくれたテーマを選んだ(手助けが一杯もらえるだろうという下心)。

こだわりがなかったので、「卒業研究というのはこういうもんかな」と素直に受け入れて、結果としては卒業研究の結果をレベルは低いながらも査読つきの国際会議に発表することができた。その後も卒業研究のテーマを発展させつつ、博士を取得。偶然と幸運が重なり、大学教員になっている。自分の研究テーマが好きになった(興味が持てるようになった)のは、修士課程2年生ぐらいのとき。自分のやっているテーマは実はまだまだ奥が深いのではないかと気づき始めたのはここ数ヶ月(8年くらいこのテーマに接しているのに)。

研究室に配属されてかれこれ10年以上経つけれども、卒業研究や修士研究で苦戦するのはたいていテーマに強いこだわりを持っている人たち。まあ、これは当然のこと。研究においてどのテーマで研究を行うのかというのが研究が成功するかしないかの8割近くを占める(ちょっと言い過ぎかもしれないが、少なくとも5割は占める)。このもっとも研究のセンスや経験、知識が必要とされるテーマの選択を未だ研究をしたことのない人間がいきなりちゃんとできると思うのがおかしい。これは学生だけでなく、指導教員もおかしい。

逆にいえば、テーマを選ぶというのはそれぐらい面白く、興奮できて、しんどい作業であるということ。これを自力でできる学生は本当によくできた学生だ。そして、これに取り組んでがんばった学生も本当によくできた学生だ。

でも、ちょっと考えてほしい。大学院の設置基準が変更され、今、大学院に求められているのは研究者を輩出するのと同時に高度技術者を輩出することでもある。テーマ設定というのは研究者が必ずできるようにならなければいけない技能ではあるが、大学院に進む学生全員は研究者になるわけではない。ましてや、学部生は。工学部・理学部の学生の半分が大学院(修士課程)に進学するとしても、残り半分は就職するのだから、それを考慮にいれた卒業研究指導をしないと。はっきりいえば、エリート研究者養成プログラムを学部生全員に適用するべきじゃない。

学生の方々へのアドバイスとしては、興味あることをそのまま研究テーマにするというのは苦難の道であることを理解していただきたい。どれくらいの情報感度、マニアック度を持っているかによって違うのだけれども、精力的に情報収集をしていないあなたが手に入れられる程度の情報の中から興味あることを選んだ場合、それは研究の世界においては掘り尽くされつつある分野である可能性が高いということ。普通は、研究者が研究をし、それを企業が実用化し、宣伝して、市場に出回った段階で素人がそれを知ることが多い。自分が玄人の分野において一般的な知識とその分野において素人である人が知っている一般的知識の違い、その知識の流通経路を考えてみればすぐにこの理屈はわかると思う。(アニメの話なんかはちょうど良いかも。一般視聴者があるアニメを語りはじめるころには、アニメマニアにおいてはそのアニメはもう「古い」話になっている。)

さらに言うと、卒業研究のときのテーマを今もずっと続けている研究者はほとんどいない(言い過ぎかも)。たいていは、5〜10年で主たる研究テーマが変わっている(テーマがスライドしただけの人もいれば、根本から変わっている人もいる)。なので、卒論テーマにこだわりすぎず、卒論と修論は研究の練習をする場だと割り切って、研究方法を勉強することを強くおすすめする。まあ、あんまりにも興味が持てないテーマだとやる気もしないと思うけど、我慢できる程度ならば我慢しても良いのではないかと思う。多くの物事は、自分がそれに対して精通してくると楽しくなってくる。

以下は、このエントリーを書こうと思ったきっかけとなったエントリー群。

おとといのエントリに対するブックマークコメントを読んだ.(エントリを書いているうちに昨日からおとといに変わってしまった)

なんか院に行きたいからテーマを探すって感じ?僕の学生時代の周りの人は自分の大学がどうこうよりまず研究したいテーマがあってはじめて行き先を考えるって感じだったけど。

私の意見は、理学部や工学部ならば今やこの発想である必要はないというもの。「研究」をもう少し勉強したい。専門知識をもう少し深めたいという意識があれば十分に修士に進んで良いと思う。博士は別。

専門家とかその道の第一人者になるには、2つの知識が必要になってきます。1つは文字通りの知識(Knowledge)であって、もう1つが技術(art)な部分です。

おっしゃるとおりです。アイデアがあっても、技術がなければモノにできませんものね。ちょうど先日、自分の技術不足でアイデアを潰してしまったことがありました。

追記

参考になる。ただし、これは修士課程の学生の話

研究室訪問で話すことはいろいろですが、こちらから必ず聞くのは、「何を研究のテーマにしたいのか」ということです。テーマによっては、別の研究室の方が向いている場合もありますので、大事な質問です。
ところが、この質問にさっと答えられる人はあまりいません。研究テーマは、研究計画ほど焦点化されていないものの、問題の所在を含んでいるという意味で、高度な課題だからです。
長年この仕事をしていると、テーマ設定のつまづきのパターンもある程度見えてきます。

私の感覚ではかなりレベルが高い質問。修士で研究テーマを適切に設定できる学生はほとんどいないのではないかと私は思う。