熱い企画だった。編集委員のみなさまに失礼なことながら人工知能学会に属して5年。久方ぶりに熱心に特集を読んだ。この特集は人工知能学会のWebページでぜひ公開してほしいなぁ。
私は計算機科学・情報工学系の状況しかしらなかったので当たり前だと思っていたのだけど、分野によっては国際会議というものの位置づけがすごく低いらしい。鷲尾さんの「一流国際会議発表のための研究戦略とは?」から該当部分を引用。
情報科学における一流国際会議とは、世界的に質の高い投稿論文を集め、それらを3名程度の一流研究者によってジャーナル論文並みに厳格に査読し、とりわけ高品質の論文を厳選して採択する会議を指すことがほとんどである。しかし、情報科学以外で活躍する研究者と話をしていて、情報科学の一流国際会議に漸く採択された話をすると、決まって怪訝な顔をされる。情報科学以外のほとんどの分野では、NatureやScienceに代表される一流ジャーナルに論文を掲載することが大事であって、国際会議はろくな査読もなしに1〜数ページの論文を半ばフリーパスで掲載する一種のお祭りだからである。むしろ、あまり多数の国際会議に発表していると、海外出張ばかりして遊んでいると思われ、かえって、マイナスイメージをもたれてしまうことすらある。元から情報科学で経験を積んだ研究者の場合は別として、他分野の研究者が新たに情報科学研究を志す場合、一流国際会議の発表が下手なジャーナルよりずっと重視され、なおかつその採択率が25%以下、ときには10%以下であるということを知ると戸惑うことが多い。しかも、ジャーナル査読のような反論機会が与えられず、採択されようがされまいが、査読者たちの辛辣な批判に満ちた査読結果が戻ってくるというカルチャーショックを味わうことになる。このような情報科学の独自な研究評価体制は、それ以外の分野の体制とのミスマッチにより、互いの研究実績の正当な評価を困難にし、情報科学内外の研究者の交流や両者を跨ぐ研究の実施にとって、一種の障壁とすらなっている。
いやあ、びっくりした。
この特集は、まだまだひよっこたる私にとって耳が痛い。しかも、ちょうど先日やっとこさ論文を書き上げて投稿したばかりの私はこの特集の内容を読んで赤面するばかり。しかしながら、私も研究者の端くれとして、一流国際会議に投稿してやろうというひとつの目標をもらった。
まず、よくある論文執筆がどういうものか、具体例を述べてみよう。M君(博士課程をでて2〜3年の若手研究者)のある日常風景である。あくまでも参考のものであることを承知おき願いたい。
CFP(Call for papers:論文募集の知らせ。会議情報や求めている論文の範囲、論文の提出方法などがかかれている)をみて、国際会議に投稿しようと決めました。かなりレベルの高い国際会議です。2週間後だ。がんばるぞ!最初、どう書こうか考えます。Introductionが書けません。うーん、どう書けばいいかなぁ。特に書き出しが難しい。全然筆が進みません。実験結果ももっとよくないような気がします。もう少し結果を良くしよう、というわけで、少しプログラムを書き換えて再実験をやったりします。そうこうしているうちに、残り1週間です。まだ1ページ半です。これはやばい!だんだん大胆になってきます。残り4日です。意を決して、どんどん書き始めます。だいぶ調子に乗ってきました。半分までいきました。あと2日です。間に合うか!残り1日です。あと規程のページ数まで2枚。あと6時間、なんとか最終ページまで来て、Conclusionを書ききりました。残り3時間です。ふぅ、何とか間に合った。まだ時間あるな。ちょっと読み直してみます。あれ?結構、最初と言いたいこと変わっているなぁ。少し修正していきます。結構、直すところもあります。あー、良く見ると図も変です。数式も直します。とりあえず半分くらい直したところで時間がきました。投稿します。ふぅ、大変だった。でもよく頑張った。周りの人も褒めてくれました。ビールでも飲んで満足感に浸ろう。通るといいなぁ。
投稿してしばらくしたある日、不採択通知がきます。
(松尾 豊: 英語論文の採択確率を上げるためにできること)より
やばい、僕、松尾さんに見張られている。怖いくらいに思い当たる節がある。今回の特集で一番衝撃的だった部分がここ。
本気で金持ちになりたいのなら、大学教員になって人工知能の基礎的研究をしているのはあきらかに間違っている。
(横尾 真, 難関国際会議に通すには −傾向と対策−)より
すごく納得したのはここ。そりゃそうだ。
この特集の題目と著者は以下のとおり(敬称略)
- 松尾 豊: 「国際会議に通すための英語論文執筆」特集
- とりあえず、たたき台としては主観的意見でいいじゃないかという主張は納得。ありがたいかぎりです。
- 鷲尾 隆]: 一流国際会議発表のための研究戦略とは?
- 論文執筆の前の研究計画自体のお話。「敵を知れ=その会議の論文集を5年分ぐらい乱読しろ」はおっしゃるとおり
- 佐藤 泰介: 戦略的英語論文とうこうのために
- 研究テーマ自体の盛衰が紹介されていて興味深かった。
- 松尾 豊: 英語論文の採択確率を上げるためにできること
- 衝撃を受けた最初の導入部(上述済み)。推敲するたびに何に着目すべきかというのは目から鱗だった。
この篠田さんと佐藤さんがつくってくださった国際会議マップはWebで公開されている。
どの話も非常にためになる話題だった。ぜひ、人工知能学会におかれましてはこの特集をWebで公開していただきたい。そして、情報系の研究者学生に読んでいただきたい。かなり、燃える特集でした。
ちなみに、この特集の次にある「世界のAI、日本のAI」というシリーズも好きでいつも読んでおります。
追記(2011年11月12日)
追記
nishizuruさん、ご指摘ありがとうございます。
この特集で紹介されていた国際会議
会議の略称、わからなさすぎる。
人工知能分野全体
- IJCAI (The International Joint Conference on Artificial Intelligence)
- AAAI (The American Association for Artificial Intelligence)
- ECAI (The European Conference on AI)
- PRICAI (The Pacific Rim International Conferences on Artificial Intelligence)
エージェント分野
Beysian networkの専門会議
知識表現
AIと統計
AIと法
- ICAIL 2007 (Eleventh International Conference on ARTIFICIAL INTELLIGENCE and LAW)、文中ではICALと紹介されているけれども、Googleで検索できなかったのでこちらではないかと。
Logic Programming
- ICLP 2008 (24th International Conference on Logic Programming December 9-13 2008, Udine, Italy)
- LPNMR 2007 (Ninth International Conference on Logic Programming and Nonmonotonic Reasoning)
- LOPSTR (International Symposium on Logic-based Program Synthesis and Transformation)
- NIPS (The Neural Information Processing Systems)
- ICML 2008 (The 25th International Conference on Machine Learning)
- http://www.ecmlpkdd2008.org/ ECML PKDD 2008 (The European Conference on Machine Learning and Principles and Practice of Knowledge Discovery in Databases)、文中だとECMLだけれども、DBLP経由でたどるとこの会議になった
- IGGI、なんの略かわからない。
機械学習と論理プログラミングの総合会議
Web
- KDD2008 (The 14th ACM SIGKDD International Conference on Knowledge Discovery and Data Mining)
- PAKDD2008 (The Pacific-Asia Conference on Knowledge Discovery and Data Mining)
データベース
- ACL (Annual Meeting of the Association for Computational Linguistics)
- COLING2008 (The 22nd International Conference on Computational Linguistics)
インタラクション系
- CHI (Annual SIGCHI Conference: Human Factors in Computing Systems)
- CSCW 2008 (Computer Supported Cooperative Work 2008)
上記のような会議論文集の論文を探す場合、DBLPが有効