現状に最適化するとこういう提言になるよね ー 財政審:教職員4万人削減…「少子化」着目、歳出見直し案

法律にしたがい業務を遂行するのが任務の方々だとこうなるよね。それはそれでちゃんと任務を果たしていると考えてよい。

歳出の見直し案は、今月末をめどに取りまとめる財政審の建議(報告書)に盛り込んだ上で、安倍首相が議長を務める経済財政諮問会議に、麻生太郎財務相が報告する見通し。教職員の削減案には、文部科学省などから反発が上がるのは確実だ

 小中学校の教職員数は現在約69万人で、今回提案した削減幅は約6%に相当する。今後の少子化を踏まえれば、今後10年間、学級数に応じて配置されている教職員を約3万7700人減らすことができるとした上で、少人数指導などのため配置されている教職員も約4200人を削減が可能とした。削減によって、人件費削減額は全体で約2300億円(うち国費は約780億円)が見込めるとした。

 国立大の授業料は、各大学が自主判断で決めることができるが、大半が文科省が定めた授業標準額の53万5800円と同額としていると問題提起した。国立大入学者は富裕家庭の子供も多いことから、私立大の授業料(平均86万円)近くに値上げした上で、親が低所得で優秀な学生向けの奨学金制度を充実させるなど、学ぶ意欲を重視した改革を行うべきだとした。

 また、地方財政については、2008年のリーマン・ショックをきっかけにした税収不足で導入された地方自治体向けの「別枠加算」など支援措置は速やかに廃止すべきだと提案。「まち・ひと・しごと創生事業費」については、委員から「ばらまきになる危険性がある」などの声が続出した。人口減に陥っていれば一定額が交付される仕組みを問題視したためで、今後の予算の使われ方を注視していくという。

財政審:教職員4万人削減…「少子化」着目、歳出見直し案より)

じゃあ、これの現状への最適化を良とするかというとそれについては「ちょっとまて」と言いたい。少子化が日本の大問題だったはずでしょ。この現状追認の最適化を行えば、子供を持つことへの不安が高まるのは確実。また、子供が少なければその地域の小学校〜大学までなくなるわけなので、子育てするなら大都市圏へという流れはより進み、地方はより少子化&高齢化が進む。

だから、上の記事で強調した「文部科学省などから反発が上がるのは確実だ」という毎日新聞の記者の意見は適切な見方だろうけどおかしい。本来は、現在の安部政権や毎日新聞自身、そして少子化を問題と思っている国民から反発が上がると見るのが適切(というか記事中に反発の意見がないのが変)。現在の状況や政治の流れから10年後や20年後の状態を予想するわけなので、インフレターゲットのように人々の期待に働きかけないと駄目だと思う。

立法府である国会が予算と決算の権限を持っていることの意味を国会議員のみなさまも、有権者たる我々もよく考えないといけない。現状分析からは理想は生まれない。理想があって、現状分析をして、問題を明かにし、それを解決することで理想に近づくのだから、現状を正解ととらえて最適化するならば、現在は変わらない。

追記:国立大入学者は富裕家庭の子供が多いのか

上の記事の「国立大入学者は富裕家庭の子供も多いことから」は本当かと言う話。元のデータがH8年(1996年)と古いけど以下のような主張があった。

親の所得別に、どのような学生が大学に在学しているのかを、国立大学、公立大学、私立大学別に推計した。具体的には全国の世帯主45−54歳の家庭を、所得の低い方から5つの階級にわけて、そのそれぞれの家庭の出身者がどのように大学に在学しているかを算出した。

大学教育について親の所得の影響が全くない、完全な機会均等の場合には、各階層出身の学生は、全く同じ20%を占めるはずである。

しかし分析の結果をみると(右のグラフ)、私立大学では最も所得の高い階層の出身者が24%を占めており、最も低い階層の出身者は15%に過ぎない。これに対して国立大学では、最も所得の低い階級の出身者が24%で最も多く、最も所得の高い階層の出身者は16%にとどまる。

大都市の一部国立大学の親の年収の高いことがしばしば指摘されるが、全国的にみれば、国立大学が、低所得の家庭の進学機会の供給にきわめて重要な役割を果たしていることがわかる。
国立大学協会:小冊子「日本の将来と国立大学の役割」 3 教育機会の均等を保証するものとしてより)

一方で、舞田敏彦さんの東京大学在籍者の保護者の年収と一般群(世帯主が49歳〜59歳)の所得の割合のグラフを見ると、国立大入学者は富裕家庭の子供が多いように見える。

そこで、上の二つの主張の根拠となっているデータを使ってグラフを作成してみた。

国立大学および私立大学入学者の保護者の所得階級と一般群および50〜59歳の群の所得階級の割合のグラフは以下のとおり。

できるかぎり上のグラフと似た形式にした東京大学学部在籍者の保護者の年収(税込)の割合のグラフは以下のとおり。

作ってみて思ったのは以下の通り。

  • 大学へ子供を送っている家庭は、同年代の家庭に比べて明らかに裕福な層が多い。それは、一般群および50〜59歳の群の600万円以下の所得階級割合と大学入学者の保護者の所得階級割合を比べてみればわかる。
  • 年収400万円〜600万円の層でも、一般群および50〜59歳の群の割合に比べ、大学入学者の保護者の割合は少ない。つまり、この所得階級であっても支援が必要であるということ。
  • 国立大学と私立大学の入学者の保護者の所得階級割合はおおよそ同じ。強いていえば、200万円未満の部分で国立大学の割合が多い。
  • 東大入学者の家庭は他の国立大や私立大に比べて明らかに裕福な層が多い。たぶん、旧帝大(東京、京都、北海道、東北、名古屋、大阪、九州)を除いた国立大学の大学入学者の保護者の所得階級割合は、私立大学に比べて裕福でない層が多くなると予想される。

以上より、「国立大入学者は富裕家庭の子供も多い」というのが「所得階級の割合が私立大学並み」という意味ならば正しい。一方で、私立大学よりも多いという意味ならばそうではない。私立大学並みか、大都市の国立大学(つまり、旧帝大)を除けば、私立よりも裕福な層は少なくなる。