先日、学会誌名の変更と新しい表紙デザインのお知らせに対してTogetter:人工知能学会の表紙は女性蔑視?でまとめられているような過剰な批判がされているなと感じて、次は情報処理学会学会誌に関してポリティカルコレクトな表紙かを語ろうのエントリーを書いた(ついでに情報処理学会誌の表紙の紹介もしたかった)。けれども、Togetter:人工知能学会の表紙は女性蔑視?のコメント欄は、いつの間にやらオタク趣味 vs 過激なフェミニストという藁人形同士の殴り合いに発展している。
人工知能学会誌の表紙への批判について重要な批判点は「学会誌の表紙に社会的に良しとされていない固定観念を強化し得るデザインを採用するのはいかがなものか」という点。つまり、デザインの利用に対する批判。この話はドレスコードの話とほぼ同じ話。そのデザイン自体が悪いわけでないし、そのデザインを好ましいと思うことや人を悪いと言っているのではない。ただ、そのとき、その場所、その状況では不適切ではないかという批判。
ドレスコードへの批判と同じように以下の反論は当然あり得る。
- 学会誌の表紙だからといって特別視するのはおかしい(そもそも〜についてドレスコード自体が存在するのがおかしい)
- 〜というモチーフを用いたデザインを社会的に良しとされていない固定観念を強化し得るデザインと判断するのがおかしい(あるデザインを不適切と判定する基準がおかしい)
- 一般的にそのモチーフは社会的に良しとされていない固定観念を強化し得るデザインと考えられるが、今回のデザインはあてはまらない(ドレスコードは一般的にはあてはまるが、今回のケースではあてはまらない)」
上記の点についてはいろいろと議論されれば良いと思う。一方で、以下の点について議論するのは最終的には人格批判・否定にいきつくので「違い」が分かった時点で議論を終了するのが適切だと思う。
- 〜というモチーフを用いたデザインを作成する人はおかしい人だ(〜というデザインの服を作成するのはおかしい人だ)
- 〜というモチーフを用いたデザインを好むのはおかしい人だ(〜というデザインの服が好きなのはおかしい人だ)
- 〜というモチーフを用いたデザインを好む人が存在することを許している組織はおかしい(〜というデザインの服を着ている人を容認している人たちはおかしい)
- 〜というモチーフを用いたデザインを好む人と同じ属性を持つ人はおかしい(〜というデザインの服を着ている人と同じ性別・年代・出身校etcの人はおかしい)
たとえば、「かわいい女性の絵を好ましいと思う」こと自体について批判された場合、異性愛者の男性はどうして「かわいい女性の絵を好ましいと思う」のかを突き詰めていくと、結局のところ異性愛者の男性であるからという自分ではどうにもできない根源的な理由に行き当たる。批判に対応するためには自分が異性愛者の男性であるということを止めなければいけないので、その批判には対応できなくなる。最初に次は情報処理学会学会誌に関してポリティカルコレクトな表紙かを語ろうを書いた理由は、「デザインの利用に対する批判」だけでなく、「デザインを好むことへの批判」が大量に含まれていると感じたから。Togetter:人工知能学会の表紙は女性蔑視?のコメント欄の多くの過剰に見える反発も「デザインを好むことへの批判」に対する反発なのだと思う。
「デザインを好むことへの批判」を軸にして行われる過激な言説のやりとりは、「無意識の差別」を認識して、そういう振る舞いをとらないようにしようという多くの人が納得する合意点を意味ないものにしているように見えるので、この話では自分は何について議論しているのかをぜひ一度整理してほしい。
デザインの利用に対する批判
こちらの批判については、まず気づきを促すという点で傾聴すべきであると思う。その上で議論を通して「どの程度まではOKなのか」という程度に関しての合意や手がかりが得られたならば、男性が多くをしめることが多い理工系学会にとって有意義であると思う。
人工知能学会誌の表紙がリニューアルされて、ほうきと本を持つ女性型アンドロイド(?)のイラストになった。これはダメだ…。そんな意図はないといっても、学会をあげての性差別に見える。「挑戦的なデザイン」と言って、非常に「保守的」だと思う。 URL
2013-12-26 00:57:52 via web
@hizirichan @midori430 @vaaaaanquish 若い女をイメージさせる造詣の家事労働用ロボットのような漫画絵を学会誌の表紙に持ってくるセンス自体に「家事労働は女性がすべき、若ければ尚可」という女性に対する固定概念を感じます。不愉快な女性は多いと思います。
2013-12-26 16:58:35 via web to @hizirichan
「人工知能学会誌の表紙デザインの何がいけないの?」と言う人は、例えばアメリカの学会誌表紙が黒人や黄色人種の掃除アンドロイドだったらというのを想像してほしい。
2013-12-26 15:40:09 via web
デザインを好むことへの批判
こちらの批判については、マイノリティが別のマイノリティを批判するというlose-loseな展開が繰り広げられがちなので、アサーティブな意見の表明を行っておしまいというのが適切かと思う。
- 単なる非難かも
いやじゃあSiriはどうなんとか機械は人間に奉仕するものであってそこに人間性を見出すのは日本の文化とか言い出せばきりがないんでしょうけど、単にもすこしセンシティブになれないもんかと。
2013-12-26 04:55:39 via web
- 利用に関する批判ではあるのだけど「性奴隷」という言葉を出すのは行き過ぎ。「あの絵を好ましい」=「性奴隷がほしい」と決めつけをしている
- SOUL for SALE:もともとの発言で意図していたこと上記発言の補足
某有名大でロボット研究をしている女の子がトークの後、話しかけてくれました。「理系研究はオタクが多く、日本のヒューマノイド開発の対象は初音ミクや美少女ばかりで<都合のいい女>を競って開発するような環境に女性研究者として馴染めない」と話していました。貴重な意見をどうもありがとう
2013-12-26 15:28:34 via web
- 事実なのだろうけど、人工知能学会誌表紙への批判の文脈では、この発言はデザインを好むことへの批判になっている。
関連エントリー
以下、この件に関するエントリーへのリンク。私の簡単なコメント付き。
- 安藤健二:人工知能学会誌の表紙、女性イラストレーターが描いていた
- デザインを好むことへの批判に対する反論にはなり得るが、デザインの利用に対する批判への反論には全くなっていない
- 編集委員長のコメント掲載
- elasticmind blog:人工知能学会誌、新表紙第1号
- デザインの利用に対する批判点の整理と説明
- 児童小銃:人工知能学会の表紙の件
- デザインの利用に対する批判点の整理と説明
- Island Life:サベツダー
- デザインの利用に対する批判点の整理と説明
- 開田奈穂美:人工知能学会関係者の皆様へ
- デザインの利用に対する批判点の整理と説明
- 独り言:人工知能学会誌の表紙について。
- デザインの利用に対する批判
- 紙屋研究所:人工知能学会誌の表紙のこと
- デザインを好むことへの批判への反論が中心
- ニュースの社会科学的な裏側:人工知能学会の学会誌のアンドロイドのイラストについて
- デザインを好むことへの批判への反論
- 心の叫び魂の叫び Z:『人工知能』表紙問題。女性蔑視批判は口実でこの人達オタク差別したいだけだよね?
- デザインを好むことへの批判への反論
‐ 天漢日乗:児童労働かと思ったら人工知能学会の学会誌の表紙だった件
-
- デザインへの批判を中心にデザインの利用に対する批判
- 今日も得る物なし:差別を次々と生み出す差別者たち
- 今日も得る物なし:この作品どう思うよ
- デザインを好むことへの批判への反論
- Danas je lep dan.:読書するGYNOID
- Danas je lep dan.:われわれの文脈に配慮しようとしない相手の文脈に配慮する必要が何処にあるのだろうか
- デザインを好むことへの批判への反論
- @yamitzky エンジニアブログ:人工知能学会の表紙の件について最尤推定とMAP推定したらがっかりした
- 「このイラストは女性蔑視を目的として描かれている」という主張に対する反論
- The Delta Geek:人工知能学会誌の表紙について思うこと
- 議論の仕方、コミュニケーションの取り方について
- はてな匿名ダイアリー:あの程度で「性奴隷を作りたがってる」とか言ってるんじゃねーよ
- 議論の仕方、コミュニケーションの取り方について
- はてな匿名ダイアリー:「過剰な批判は逆効果」ということについて
- 上記エントリーの理屈がマイノリティの発言を封じる可能性があるという指摘
- Togetter:「人工知能学会誌」表紙についての黒猫亭さんのコメントのまとめ
- 議論の仕方、コミュニケーションの取り方について、絵の解釈
- kakaku01の日記:あなたと社会とアンドロイドの絵
- 議論の仕方、コミュニケーションの取り方について
- 谷本 真由美:女性型アンドロイドとリスク管理
- デザインを好むことへの批判&内部統制基準の紹介
- はてな匿名ダイアリー:人工知能学会誌の表紙を通して、批判と攻撃との差をみる
- 議論対象を踏まえて議論しようという提案なのだけど、私にとっては整理されていないように見える。
- はてな匿名ダイアリー:暇だから人工知能について垂れ流してみる
- 人工知能という分野についての説明
- Togetter:【激励】人工知能学会誌の表紙絵を描いた方へ
- 表紙イラストの作成者への激励
- ドウデモイイコト。:人工知能学会の表紙のメイドロボットを考察したら深すぎた
- 絵の解釈方法について