「未だに大学で納得できないこと」へのコメント

切り取る世界:未だに大学で納得できないこと。で列挙されている不満点についてのコメント。不満点を言語化したのはとても有意義。でも、Togetter:「未だに大学で納得できないこと」に対するコメントは、煽らないでまとめれば建設的な意見が集まると思う。

不満点

1:取りたい授業が取れない

上記エントリーに書かれていることから読み取ると理由は三つ。その理由に解決法を考えてみた。

理由 解決方法
取りたい授業が重なっている 複数回開講(オンライン開講含む)
単位取得数上限がある 単位取得数上限の撤廃 or 単位と関係しない聴講を認める
今年度開講しない(隔年開講) 毎年開講

学生の立場からすれば当然の要求だと思う。1番目の問題は、施設と人員の問題。有望な解決方法としてオンライン講義(MOOCsなど:関連過去エントリー)がある。ただ、オンライン講義の流れは基本的に大学の一極化を招くので中小大学では導入したくないかも。

2番目の問題は「単位の実質化」と関連している(参考:奥村ブログ:単位の実質化)。これは日本の社会が求めている方向なので覆ることはほぼないと思う。よって、有望な解決策は単位と関係しない聴講を認めるというのが無難。

3番目の問題は人員の問題。その講義を担当できる人が隔年しか時間をつくれない or 予算の関係で他の講義と一緒に開講できないのどちらかが主な理由。これの解決方法もオンライン講義であるが、前者の理由の場合、単にビデオみているだけの授業しかできないのでそれでよいのか?という問題はある。

2:説明が分かりにくい

上記エントリーに書かれていることから読み取ると理由は二つ。その理由に解決法を考えてみた。

理由 解決法
教員の授業がへたくそ 教員の授業力UP
学生の予習が足りない 予習する
学生が質問しない 質問する or 教員がミニッツペーパーを取る

私も学生だったので良くわかる。一方で、今は一応教員なので学生の方の問題も良くわかる。第一の理由については、文句なく教員が悪い。「大学教員」なので授業はちゃんとしないといけない。読売新聞:東大大学院、「授業のやり方」教える講座開設へのような試みがでてくるのもこれが理由。一方で、まともな研究者ならば、わかりやすいプレゼンテーションを訓練されているはずなのでそれの発展として、そこそこわかりやすい講義はできそうに思うのだけど、人によるからなんとも言えない。学生が行える現実的な対処法は授業評価アンケート。抽象的な「授業がわからなかった」ではなく、具体的に悪いところを指摘するのがポイント。たとえば「板書が汚すぎて・小さすぎて判読できない」「質問を一切受け付けない」など。

以下の部分を読むと、教員も悪いのだけど学生の予習や授業への参与も足りていない可能性があると思う。

多くの学生は「教授が何を言っているのか」分からない!!
本筋から逸れた例外の話なのか、それともここも試験に出るのか!?
理論の計算をやっていたはずなのに、突然歴史的経緯を話しだしたのはなぜ!?
専門用語を知っていて当然だという説教ばかりで用語自体の意味は何!?

上記の話は基本的に質問すればよい。専門用語に関しては微妙だけど、予習の範囲と言えなくはない。私も学生のときはできていなかったけど、単位の実質化が社会から求められている現状では、予習と復習をしておくのは社会にでても役立つ癖だと思う(たとえば、効率の良い会議の実施法として議題を事前に確認するというのがある。これは予習そのもの。また、前回の議事録を見直すというのは復習そのもの。ダラダラ続くムダ会議から脱出!「会議」の効率を今すぐアップする方法

3:テキストが分かりにくい

理由 解決法
値段が高い テキストの電子書籍化(?)
他の学術書と比べてわかりづらい テキスト変更

1番目の理由は、需要と供給の関係で決まるので正直難しい。確かに学生時代に教科書3,000〜8,000円とかは泣きそうだった。学生の立場からすれば、教科書の内容を資料として全部配布しろというのが究極の要望だろうと思うけど、まあ、非現実的。となると、有望な解決方法はテキストの電子書籍化&単元別のばら売り。昨年度の国立情報学研究所オープンキャンパスでこれに関する提案を聴いた記憶がある。小学校における電子教科書(デジタル教科書)には賛否両論あろうが、大学における電子教科書は賛成しかないと思うので、あとは経済的な問題。

2番目は、授業力と一緒でわからん本はわからんので、テキストの変更しかないと思う。これも授業評価アンケートで具体的に問題点を指摘したらよいとは思う。あとは、参考書を教えてもらうぐらいかな。

4:席が取れない

理由 解決法
教室が足りていない 施設拡張 or 定員削減 or 受講者絞り込み or オンライン授業
自習施設のスペースが十分でない 施設拡張 or 定員削減
食堂などのスペースが十分でない 施設拡張 or 定員削減 or 食事場所が多いところへの移転

完全に大学の都合。この不満の解決方法の一つに受講者絞り込みがある。そして、受講者絞り込みは大学への不満点の一つなので難しい。施設拡張は財政的に難しいし、定員削減は財政的にもっと難しい。でも、受講者絞り込みができないならば、オンライン授業が最も有望な解決法となる。でも、この不満が出やすい私立大学は、オンライン授業にしたときのダメージが一番大きかったりする(同じオンラインなら偏差値 or 社会的認知が高い上位校や授業料が安いところへ移行してしまうため)。

5:図書館が24時間空いていない

理由 解決法
人員配置が難しい 自習室のみの解放&夜間警備人員・システムの配置 or 資料の電子化

利用者にしてみれば24時間年中無休で開いているのはうれしいよね。なんだってそう。

最近は24時間開放を売りにしている大学も多い様子。Googleで「24時間 図書館」で調べるといろいろとヒットする。

一方で、24時間開放に意味あるのかというの検討事項。古い記事だけど、そんなに変化はないのではないかと。

6:家や活動エリアから遠い

理由 解決法
学生が大学から離れたところに住んでいる 引っ越す or 大学キャンパス内に寮を作る or オンライン授業

確かに経済的に裕福でない学生のために、寮をキャンパス内に充実させてほしいとは思う。一方で、入る前にわかっていることなので、これについては大学選択の際に考慮するべき話でもあると思う。

関連過去エントリー

7:どんな授業か取るまで分からない

理由 解決法
シラバスがちゃんと作られていない シラバスをちゃんとつくる
講義の初回の説明が不十分 教員が授業の進め方や受講マナー、評価基準などをちゃんと説明する
履修登録手続きがよくない 履修登録手続きを見直す

大学&教員が悪い。改善すべき。ただ、学生のみなさまにおかれましては、口コミ評判に重きを置きすぎるのは注意するべき。特にネット。不満がある人ほどネットで情報発信するモチベーションがあるため、大多数は満足していても、一部が不満を持っているならばネットには不満だけが発信される。そういうバイアスがあるということを理解して上で利用するのが吉。

8:講師との相性に依存しすぎる

この項は、講師との相性はあんまり関係ないと思う。

途上国の問題に興味があって、たびたび現地を視察しているA君。
インターン先のNPOは、飛行機チケットの安い6月に大きな活動を行う。
しかし、開発経済学の授業では出席に対する比重が大きすぎる!!

試験一発勝負なら自信はある。
東進みたいなビデオ授業で、自主的に進められるなら5月中に学習範囲を修了できる。
レポートの比重が大きいなら、自分ならではのものを書き上げる。

なのに、この講師の授業スタイルではそれができない。
この大学のシステムではそれができない。

なんで、この授業とる必要があるの?このケースの最良の手段は、授業とらないで先生と仲良くなって本だけ紹介してもらうというものだと思う。

別の例で言えば、論旨を把握したのに、細かい語句暗記ばかり試験に出す教授。
「結局何が言いたいかよく分からない」状態の生徒は満点。
完璧に理屈を解説できて、普段の生活に応用できる生徒は、ど忘れで赤点ギリギリ。

これもケースバイケースの難しい例。客観的に「完璧に理屈を解説できて、普段の生活に応用できる」状態であることが正しいならば、上の状況は理不尽。でも、主観的に「完璧に理屈を解説できて、普段の生活に応用できる」と感じているだけならば、「度忘れ」する時点で「完璧に理屈を解説できて、普段の生活に応用できる」は間違いということもある。また、これの逆もあって、暗記は得意だけど、論理的に説明するのが苦手なので、論理的な説明を求める試験やレポートだと落ち続けるという学生もいる。評価に関する不満点については「7:どんな授業か取るまで分からない」と密接に関連している。

あるいは、勉強できる気でいた人が、全国共通の試験でぼろぼろだったりする。
成績の付け方や学び方に統一感がないことのデメリットが目立つ。

この部分は、大学や教員が悪い部分もあるのだけど、一方で、学生が高校での受講姿勢と大学での受講姿勢の違いに対応できていないという部分もある。なので、大学が初年次教育を頑張るとともに、学生の方も防御的に大学の授業に対応できるように準備するというのも必要だと思う。たとえば以下の本などがお勧め。

理想

近くの寮から通いやすくて、24時間施設を利用できて、それもきちんと人数分確保されていることが前提。というか運動から食事までありとあらゆる生活インフラを整えてほしいよね。

さらに、単位の履修上限を解除して、授業バッティング回避のために東進のようなビデオ授業・Z会のような通信講座も併用可能。本気でやれば1週間でマスターできる科目(簿記の2−3級レベルなど)については1週間で全て学習する「先取り」も許可する。

授業の情報は詳細まで平等にアクセス可能。過去の試験問題で腕試しできるのはもちろんのこと、単位取得者の割合や成績の分布といった統計情報も公開。良い成績を取った人のコメントだけだとか、特定のWebサービスを利用している人だけといった極度に偏った情報は、トイレットペーパー以下の価値しかない。

分かりにくい授業については上級生・院生が講師を担ったりテキストを開発することで自分たちの学習の場・実績にも繋がるようにする。基礎的な科目については全国共通のテキスト・試験・成績基準。高校までの教科書は質が高いから同じレベルを期待できる。

その教授ならではの特殊な科目(レポート内容がそのまま政策の参考意見になったり、教授からボコボコにされる少人数のゼミだったり)の場合だけ、専門家として教授に腕を振るってもらう。

これを見ると、じゃあ、放送大学でほとんどの問題解決じゃない?と思う。足りないのはTAによる授業(or 授業補佐)と対面式のゼミかな。

オンライン授業が中心になったときの大学の授業は?

たぶん、以下のどちらかになる。

  1. オンライン授業の講義の難易度とその大学所属学生の理解度のギャップを埋めるという位置づけ(MOOCs: massive open online courses に関するCACMの記事2本の2本目の記事の立ち位置)
  2. 参加型授業実施の場という位置づけ(オンライン授業での講義は授業準備用資料として提供)

このどちらの方向に進んだとしても、物理的な授業参加の重要性は増す(物理的な授業参加が不要な内容はオンライン授業にとってかわられる)。一方で、研究室やゼミの位置づけはオンライン授業では代替できないのでこれまで通りだろうと思う(Skypeなどを使ったオンラインミーティングにはなりえる)。