卒業研究・修士研究時の悪循環を防ごうなどで何度もかいているとおり、卒業研究は努力が評価対象。
博士研究は別として、卒業研究と修士研究は成果ではなく努力を評価の対象としている。「でも、中間試問や最終試問とかでは成果について問いただすじゃないか?」という疑問もあろうかと思うけれども、それは、努力の度合いを成果を用いて判断しているだけで、実は成果自体を評価対象にしていない。その証拠に、博士の修了条件とは違って、貴方の成果を査読つきの学術論文の公表を求めていないでしょ?
しかしながら、この「努力を評価する」という仕組みは、時として学生を追い詰めてしまうこともある。なぜならば、一般的に努力とは他人の目にどう見えるかであって、自分がどれだけがんばっているかではないからだ。
(卒業研究・修士研究時の悪循環を防ごう)
努力は他人が評価するものなので、評価対象となる材料を提供しなければならない。とはいえ、小学校低学年の子のように「〜先生、ぼく、これできたよ!」と毎回アピールするのはする方もされる方もちょっときつい。そこで、事実を持ってアピールと代えることにしよう。
私が考えるアピールの方法は大きく分けて4つ。
研究室にいる
とっても当たり前のことながら、どうしても忘れがちなのが教員や先輩は超能力者ではないので、あなたが目の前にいなければあなたが何をどうしているのなんか知ることはできないということ。目の前にいなくてもあなたのことを気にしてくれるのは家族と恋人だけ。その他の人は、あなたを知覚したときに初めてあなたのことを考えてくれる。指導教員や先輩にあなたを知覚してもらうもっとも簡単な方法は、彼らの視界にあなたがいれば良い。
あなたが研究室(実験室)にいることから指導教員や先輩は次の事柄を読み取る。
- 自分とあなたの間で深刻なトラブルはない(深刻なトラブルがあるならば、研究室にこなくなるので)
- 研究室の他の構成員とあなたの間で深刻なトラブルはない(深刻なトラブルがあるならば、研究室にこなくなるので)
- あなたは研究をしようとしている(研究する気がカケラもなければ、もっと楽しいところはたくさんあるのでそっちにいるはず)
- あなたに助言するコストはとっても低い(何かを伝えようと思ったら、研究室に言って直接話せば良いので大した労力をかけないでよい)
また、あなたの顔色、服装、みなりを見て次のことを読み取ろうとする。
- 疲れていないか?
- 何か悩んでいることはないか?
そして、意識的にあるいは無意識にあなたの行っている作業をちらっとみて、研究しているのかそうでないのかも読み取ろうとしている。
あなたが、研究室にいるということだけで、指導教員や先輩に上記の情報を提供していることになる。これを別の手段で提供するのは案外面倒。さらに、実際に作業をしているならば、その作業をしているという事実をもって、研究を進めていることをアピールできる。
理論系やプログラミング系の研究だとどこにいても研究を進めることができるが、上記の情報を別の手段で提供するコストを考えると、特段の理由がないならば研究室の自分の机で何か作業をやっておくのが無難。
ゼミでの進捗報告
ほとんどの研究室やゼミでは進捗報告の機会が設けられていると思うけど、これを「課せられた苦役」として受け取り「なんとかやり過ごす」ととらえるよりも、アピールの場として考えた方が誰にとってもプラス。
進捗報告でアピールするときの重要なポイントは「前回の報告から何の作業を行ったか」を正直に伝えるということ。特にあなたが嘘をついていないと信じてもらうために「何もやっていない」ということもちゃんと伝える。ほら吹き少年と狼の話を思い出して欲しい。本当は作業を進めているのにそれを信じてもらえないことと、たまたまその週は作業をまったくやっていなくてその点に関して悪い印象を与えたということを比較したとき、後々まで尾を引くのは絶対に後者。なぜならば、指導教員だって、サボるときや仕事がさっぱり手につかないときがあり、それを良く理解している。サボってしまったものは後で帳尻を合わせられるならば深刻ではない。嘘をつかれた場合は、何を信じて良いのかわからなくなるので、基本的に「信じない」方向に舵を切るのがほとんどだと思う(何回も騙されるのは気分が良くないので)。
また、たまに良い結果だけを報告しようとする人がいるけど、そんなことする必要はない。悪い結果や失敗、うまくいかないという事実をむしろ積極的に報告するべき。
第一に、作業を実際に行っているからこそ悪い結果や失敗をするわけなので、それは問題ない。研究は基本的にうまくいかないことの方が多い。また、教員や先輩もあなたの研究がうまくいくことを望んでいることが多いので、うまくいっていないという事実と実際に何が起こっているのかの報告はとっても大切。むしろ、そちらの方が知的好奇心や義侠心が刺激されて興奮するくらい。
たくさんのダメ出し、たくさんの質問、たくさんの提案がもらえた進捗報告は大成功であるという認識を持とう!手のほどこしようがない進捗報告の場合は、教員はえてして黙るものなので、沈黙こそ気をつけるべき。
日報/週報/隔週報をメールで送る
ゼミでの進捗報告と被るけれども、ゼミとは別に自分が継続できる間隔でメールで進捗状況を送るのはうまい手。PCメールは非同期通信なので、件名さえわかりやすいものならば、読む読まないは相手に任せられる。うまく使おう。
メールで進捗報告を送る利点は以下のとおり。
- 自分にとって
- 自分が行ったことを誰かに報告するという体裁をとることで、自分が行った作業を総括できる
- 電子化されているので卒業論文や審査会の発表資料、ゼミでの進捗報告の材料にそのまま流用できる
- メールの検索機能を使って、過去の作業を簡単に探せるので、Tips置き場としても利用できる
- 教員や先輩との関係が悪くなり、自分にとって不利な自体が生じても、進捗報告を証拠として自分が卒業に値する仕事をしてきたことを第3者に証明できる
- 教員や先輩にとって
- 進捗報告が定期的に行われているという事実が研究がうまくいっていることを示すので安心
- 空いた時間にチェックすることができるので便利
- 読み飛ばすことが可能なので便利
- ざっと眺めれば真面目に作業しているのかそうでないのかが分かるので安心
- 自分が指示したこと、助言したことが誤解されていないかどうかをチェックできて安心
メールでの進捗報告は、進捗報告専用のメーリングリストを作ってもらいそこに送るようにした方が良い。教員が「余計なメール増やすな!」と怒る場合には、深呼吸した上でメールアドレスや件名によるメールの自動振り分け機能を教えてあげよう。それでも、怒るならばその教員も21世紀の研究者として長くないので教員の意見にしたがおう。
件名やメールの形式は統一されている方が、書く方も読む方もやりやすい。あらかじめ話し合って決めておくと良い。以下は、話し合いのたたき台としてどうぞ。
- 件名は「進捗報告(氏名、MM/DD - MM/DD)」とする。氏名は報告者の名字、MMは月、DDは日。自動振り分けのことを考えて件名は英語にしても良い。
- 件名を英語にする場合はたとえば「Report (Name, MM/DD - MM/DD)」とか。
- 内容は前回の報告から行った作業の列挙。今回の報告の概略、その後、作業ごとに実施した理由、ゴール、結果、達成度、直面した問題などの詳細を説明する。
- 忙しい先生も多いので、メールの最初に報告内容の要点をまとめて置くとよろこばれるし、後ほど自分で読み返した時も楽
- 文面例
**先生 **です。MM/DDからMM/DDに行ったことについて報告させていただきます。 行った作業は以下のとおりです。 1. **** 2. **** 3. **** 上記の作業の結果***を得ることができました。 また、課題として**があります。 以下、詳細です。 1. **** 〜を??するために***を行いました。 手順としては**** 〜 以下、略〜
とっても重要な点としては、必ず自分宛にもCCあるいはBCCしておくこと。
自分の研究のまとめサイトを用意する
公開範囲に十分留意した上で、WikiクローンやBlogツールを使い、研究のまとめサイト(メモサイト)を用意しておくのはうまい手。
第一義的に、自分にとって便利。良く使用する資料、Webサイト、実験機器やソフトウェアのTipsなどはどこかにまとめておくべき。研究ノートの方が良いという意見もあるとは思うけど、研究室内で情報を共有するという意図からするとWebサイトの便利(もちろん、メーリングリストを用意し、そちらに投げておくというのも悪くない)
。私のこれまでの経験からすると、自分が行ったことでも、1週間ぐらい経つとやり方を忘れてしまうことが多い。また、寝不足や精神的に不調な時など、普段自分が日常的に行っていたことすら思い出せないときがある(私はメールのやりとりにWanderlustというメーラーを使っているけど、2ヶ月一度は添付ファイルの付け方を忘れてしまう)。そんなときのために、作業時間が1.5倍になったとしても、メモをとりながら作業しておくのは本当に良い習慣。これにより、2回目以降の作業時間が1回目にくらべて0.8倍ぐらいになる。
そして、このようなまとめサイトは、研究室の他の人にとっても役に立つことが多い。そして、実際にこういうサイトを作成/保守し、シェアすることで以下をアピールできる。
- それを作れるぐらい作業をしており細かいノウハウを実際に身につけているということ
- 研究室全体で情報をシェアしようという姿勢をもっていること
- 計算機をそこそこ使いこなせているということ
また、後輩がいる場合には「あのサイトに書いてあるから見ておいて」と説明の省略もできる(場合によっては先生にすら)。
行ってはいけないこと「他人を貶めることにより自分の有能さをアピールすること」
仕事しているというアピールは重要だけれども、自分が有能であるというアピールはあまりしなくても良い。本当に有能ならば、教員や先輩がそれを理解しているはずだし、あなたが有能なのにそれがわからないボンクラ相手ならばアピールしても伝わらない。
気をつけるべきは、他人の欠点や失敗をアピールすることにより自分の有能さをアピールするということ。これは絶対にやってはいけない。第一に、教員がこういうスタイルのアピールを好きでない可能性がある。特にその教員が誰かにそれをされているならば、かなり危ない。第二にそのようにしてアピールのダシに使われた人間があなたの敵にまわり、今度はあなたの足をひっぱろうとする可能性がある。左の頬を殴られたら右手のナイフで刺し通すのが現実世界。やられなくてもやられるのに、やったらやり返されるのは当たり前。第三にそういう方法で有能さをアピールしても、卒業研究は一ミリも進まないので意味ない。誰かが失敗した分だけ、あなたの研究が進むと言うことはない。研究成果は相対的なものでなく絶対的なものなので、誰かの失敗はあなたの得点にはならない(新規性競争の場合を除く。ただし、卒業研究ではあまり関係ないし、同研究室のメンバー同士はやりあわないのが普通)。
おわりに
理想的には評価人は、すべての情報に通じ、あなたがこっそり進めている研究成果すら、評価対象に入れ評価すべきだけど、そんなのは現実的でない。さらにいえば、評価者がボンクラの可能性すらある。ぜひ、自分にとって負担にならない程度に作業していることをアピールし、正当に努力を評価してもらえるようにして欲しい。
参考
追記
はてなブックマークのコメントより
- なんとも狭い世界での処世術。給料貰えないどころかこっち(学生)が金払ってんだぞ!と開き直っても悪くはないと思う。教育機関である以上は研究室側に学生をしっかり育てようという自覚がもっと必要だと思うけどね
私は、学生を育てることと学生が教員にアピールすべきであることとは矛盾しないと考えています。自動車の教習所と同じです。お金払っていようが、基準に達しなかければ卒免認定を受けられないという話です。教習所の教官の見えないところで運転の練習をしていても、講習が前にすすまないように、卒業研究も教員の見えないところで研究を進めていても評価対象のアウトプットを出してくれなければ卒業させられないのです。
もちろん、教員は進路を左右する大きな権限を持っていますから、それを自覚して、アカデミック・ハラスメントにならないように振舞うべきですが、一方で、学生も「学ぶ立場&評価される立場」であることに自覚して、逆アカデミック・ハラスメントにならないようにして欲しいです。
同じくはてなブックマークのコメントより
そう思います。上司が幸いに優秀な人で部下の功績を何一つ見逃さない人ならばこういう努力が必要ですが、相性や肉体的・精神的体調、繁閑期によって「見えなくなっている」場合がありますから、癇に障らない程度にアピールが必要ですよね。