独立研究者や科学コミュニケーターの大学図書館所蔵資料の利用

このエントリーの元。

また、何でこのエントリーを書いたかというと「科学技術政策担当大臣と有識者議員との会合」を巡るあれこれで「金クレ、金クレばっか言うな」という話がでたので、最後は「金クレ」というにしても、出来る限り具体的に何についての予算が欲しいのかとそれが社会にどういう影響を与えるのかをはっきりさせたいとおもったため。

なお、このエントリーは議論の全体像を見通しよくするために用意したものなので、引き続き議論を続けたい。

追記:このエントリーの続き:課題の列挙:独立研究者や科学コミュニケーターの大学図書館所蔵資料の利用提案:図書館の利用を目的として研究生制度の導入

理想的状態は何?

サイエンスコミュニケーターや独立研究者(大学や研究所に所属していない研究者)、兼業研究者(本業は別にあるが余暇で研究を行っている人)が、大学図書館所蔵の資料および契約している電子雑誌をその大学在籍の博士課程学生と同等に使える。また、大学図書館を通して図書館ネットワークのサービスを利用できる。

何故、そうする必要があるの?

サイエンスコミュニケーターが、最新の科学知識を判りやすく社会に提供するためには、インプットの手段として、専門書や論文への容易なアクセス手段が必要不可欠であるから。同様に、独立研究者や兼業研究者が研究を続けていくためには、先行研究の調査や自分が使いたい手法についての調査などを行うために専門書や論文への容易なアクセスが必要不可欠であるから。

じゃあ、そもそも、サイエンスコミュニケーターや独立研究者、兼業研究者が社会にとって必要なのかという疑問がでるかとおもうけど、私は、非研究者にとっても、研究者にとっても、専門家にとっても、非専門家にとっても、サイエンスコミュニケーターや独立研究者、兼業研究者は必要な存在であると思っている。

私が、サイエンスコミュニケーターが社会に必要だと思う理由は以下のとおり。

  1. 政策の決定、企業の行動方針の決定(新技術の採用、工場やプラントの建設など)、個人の行動決定(買い物、健康維持など)を行う際の科学的知識の供給源として必要。
  2. 研究者同士の共同研究を行うきっかけ、橋渡しとして必要。
  3. 研究者、もしくは、研究成果と企業を結びつけるきっかけ、橋渡しとして必要。
  4. 楽しみとしての科学的知識の供給源として必要。
  5. 創造的職業(小説家、漫画家、ドラマ、アニメや映画の脚本家、カメラマン、監督)へのネタ供給源として必要。

独立研究者や兼業研究者が社会に必要(存在しても良い)と思う理由は以下のとおり。

  • 世の中にはたくさんの謎、不便なところ、解決すべき問題があふれており、それに取り組むには大学や国立研究所、企業の研究所の研究者だけでは足りない。だから、独立研究者や兼業研究者は必要。
  • 未学問の事柄を学問化し、専門家を養成するためには、長くそれに取り組んできた実務家が学問化するしかない。だから、独立研究者や兼業研究者は必要。
  • 大学、国立研究所、企業の研究所のポジションは一定数であり、トレンドや景気によってポジションの数やポジションに求められる専門分野が変わる。そのときに研究能力があるけどポジションがない人が研究を続けていると、独立研究者や兼業研究者になる。研究は一度やめてしまうと最前線に戻ってくるまでに非常に時間がかかる(ここいらへんはスポーツ選手と一緒)。

さらに付け加えて言うならば、毎年多くの「論文や専門書の読み方を覚えた大学生」が社会に送り出されている。企業や政府がそういう人材の論文や専門書を読める能力を活かさない手はない。

サイエンスコミュニケーター、独立研究者、そして、兼業研究者がパフォーマンスを発揮するためには、専門書や論文に容易にアクセスできないといけない。

現状認識:今はどうなの?

現状では、サイエンスコミュニケーター、独立研究者、そして、兼業研究者は専門書や論文に容易にアクセスできない。理由は、論文や専門書を読むために支払うコストが高すぎることと、そもそもその資料にアクセスできないことがあるから。

まずは、みなさんは「自分の仕事や趣味に使うものだろ?高くても我慢して買えよ」とおっしゃるかもしれない。確かにそのとおり。基本は自費負担であるべきなのだけど、値段が高すぎてちょっと個人では困るレベルなのが問題。専門書の値段は日本円にして5000円〜であるのが普通。論文も1本が3,000円〜ぐらいが普通。これが月10冊や20本くらいなら、良いのかもしれないけど(それでも月5〜6万円)、もっと読む必要がある場合にはもう個人ではまかなえない。あと、専門書を置く場所の問題もある。

すぐに「じゃあ、定額制の契約はないの?」と思いつかれると思うけど、個人レベルの論文定額制契約があまりなかったりする。私は計算機科学系の研究者なので、ACM電子図書館IEEE-CSの電子図書館を定額制で契約しているけど(会員費込みで年間2万円ずつ)。SpringerやElsevierなどの出版社は機関契約の定額制しかない(後述するが、とんでもない額)。

さらに、良質の論文を調べるためには論文情報データベースを利用したくなるわけだけど、そのような論文情報データベースの構築にはお金がかかるため、論文情報データベース自体の使用自体にお金がかかる。たとえばWeb of ScienceScopusとか。これも、機関単位の契約で、個人契約は多分できない。医療分野ではPubMedという論文情報データベースがあるけどこちらは米国国立生物工学情報センターが提供してくれているので無料。

「じゃあ、図書館使えよ」とおっしゃると思うのだけど、そのとおり、だからサイエンスコミュニケーターや独立研究者、兼業研究者は図書館を使いたい。ところが、ここで問題になるのが、自治体の図書館は電子ジャーナルを購読していない。ということ。「では、大学図書館は?」、多くの大学図書館では電子ジャーナルを購読している。契約している出版社の数や読める雑誌の数によって値段が違うけど、購読料は年間数千万円〜2億円ぐらい。

一方で、紙ベースの専門書や論文の場合でも、サイエンスコミュニケーター、独立研究者、そして、兼業研究者にとっては困ったケースが生じる。それは「そもそも、その書籍や論文がもう流通していない」ということ。本は思った以上に生ものなので、一定期間経つと市場から消えてしまう。特に専門書は売れないので、再版がかかりにくい。こういう資料は、古本市場と図書館だけが頼り。よって、この部分でも図書館利用の必要性が出てくる。特に、自治体の図書館では、専門書についての蔵書が弱いので頼るべきは専門書に強い大学図書館となる。

ところが、学外者の大学図書館の利用については制限がある。

学外者の大学図書館の利用について

サイエンスコミュニケーター、独立研究者、そして、兼業研究者にとっての希望の星である大学図書館の利用についてだけど、多くの大学図書館では学外者の大学図書館の利用については制限がある。

Togetter:独立研究者が大学図書館を大学教職員と同等に使えるようにするにはどうすれば良いか?によれば、多くの国立大学の大学図書館において、館内での資料の閲覧は誰でもできるみたい。一方で、 Togetter:博士課程修了後の所属と大学卒業後の図書館利用についてによると、いくつかの私立大学の大学図書館は、学外者の館内での資料の閲覧も不可な様子。まあ、私立だからしょうがないといえばしょうがないけど。

また、ほとんどの大学図書館で電子ジャーナル掲載の論文印刷は許されていない様子(これは、Twitterの#f_o_sや#cstp0320での議論のどこかで読んだ記憶がある)。

おわりに

何を求めているのか、どうしてそれが必要だと思うのか、現状はどういう状況か(これがちょっと調査不足だけど)をまとめてみた。ここまでの段階で結構長くなったのでいったんおしまい。

続いては、Togetter:独立研究者が大学図書館を大学教職員と同等に使えるようにするにはどうすれば良いか?で提示された課題を列挙し、その後、私なりの解決策を提案したい。