課題の列挙:独立研究者や科学コミュニケーターの大学図書館所蔵資料の利用

独立研究者や科学コミュニケーターの大学図書館所蔵資料の利用の続き。サイエンスコミュニケーター、独立研究者、兼業研究者が大学図書館を学内利用者と同等に使うときにどんな課題があるのかを列挙する。

サイエンスコミュニケーター、独立研究者、兼業研究者が困っている点

Togetter:博士課程修了後の所属と大学卒業後の図書館利用についてTwitterで呼びかけて教えていただいた内容からいうと、サイエンスコミュニケーター、独立研究者、兼業研究者が大学図書館を使おうとして困るのは以下の点。

  • 紙ベースの資料の場合
    • そもそも図書館に入れない
    • 貸し出し可能冊数が少ない(0冊含む)
    • 貸し出し期間が短い
    • 閉架書庫を利用できない(立ち入り禁止)
    • ILL(図書館間相互貸借)が利用できない
  • 電子雑誌の場合
    • 閲覧できない
    • 閲覧できるがダウンロードと印刷ができない
    • その大学図書館が契約していない電子雑誌は読めない(当たり前だけど、冊子体なら複写サービスを利用できる)

学外利用者に学内利用者と同じ権限を与えると発生しそうな課題

主にTogetter:独立研究者が大学図書館を大学教職員と同等に使えるようにするにはどうすれば良いか?より。

  • 学外利用者の急増による学内利用者へのしわ寄せ(読書・自習スペースの占拠、貸し出し待ち、各種サービスの待ち)が発生する
  • 大学職員、図書館館員の負担が増える
    • 学外利用者からの金銭徴収を行う場合には会計周りに人材を貼り付けないといけない
    • 学内LANを利用させる場合にはLAN利用の設定をしなければならい。たいていはIDとパスワードを発行しなければならない
  • 電子雑誌の契約料は購読者数によって決まるため、学外利用者も学内利用者と同等に使えるようにする場合に契約料があがる可能性が高い

電子雑誌の利用について

現在の大学図書館の予算の大半を持っていっているのが電子雑誌の購読料。毎日新聞:電子ジャーナル:高い!学術雑誌ネット購読料 3年で2.5倍、155億円によれば以下のとおり。

科学や医療などの学術雑誌がネット上で閲覧できる「電子ジャーナル」の購読料が高騰を続け、各大学の図書館が悲鳴を上げている。国内の大学全体の購読料は04年度の約62億円が07年度には約155億円に急増。学術界で論文出稿が増加したことが主な要因で、各大学は、国公私立の壁を越えて、出版社側との値下げ交渉を模索している。
〜中略〜
文部科学省は04年度から購読料調査を行っている。同年度の国公私立大全体の購読料は61億9800万円(1校平均865万円)だったが、07年度は155億2600万円(同2064万円)に膨れた。国大図協の事務局でもある東京大は国内の大学では最高額の年間約10億円の購読料を支払っている。東大付属図書館事務部は「ずっと値上がりが続く現状の価格システムは破綻(はたん)する。公私立大と統一の交渉事務局を発足させ、研究環境の維持に努めたい」と話している。

また、電子雑誌を学外利用者にどこまで利用させるかについては出版社ごとに条件が違っているとのこと。

  • 閲覧OK/NG
  • 印刷、複写OK/NG
  • ダウンロード(電子ファイルの持ち出し)OK/NG

大学図書館と公立図書館の相互貸借

基本的に大学図書館と公立図書館の相互貸借は既にできる模様。詳しくは、Togetter:独立研究者が大学図書館を大学教職員と同等に使えるようにするにはどうすれば良いか?の3月28日21:40ぐらいのyoshim32さんからの発言を参照のこと。

現在の対処方法

サイエンスコミュニケーター、独立研究者、兼業研究者が大学図書館を学内利用者と同じように利用できるための現在の方法は2つ。

  1. 無給研究員として大学に雇われる
  2. 研究生として入学する(ただし、貸し出し冊数の制限などは博士課程よりも厳しいはず)

この対処法の問題点は以下のとおり。

  • どちらもその大学の准教授・教授に知り合いがいないといけない。
  • 研究生の場合
    • 授業料が高い。関東の国立大学だと年間約36万円。
    • 研究が目的なので、研究計画や研究報告書を毎年提出しなければならない

おわりに

サイエンスコミュニケーター、独立研究者、兼業研究者が大学図書館に望むこと、もし、学内利用者と同様に大学図書館を利用とした場合の課題、現在の制度内でとれる解決法について列挙した。