自分の知識が足りないからわからないというのも正解なのだけれども、もう一つ重要な視点を忘れないようにしてください。あなたが読もうとしている文章自体がろくなものではないという可能性を。卒論や修論はどれぐらい丁寧に指導されていたとしても、ある程度は間違いが含まれている可能性が高いです。ですから、卒論や修論を鵜呑みにする(卒論や修論にかかれていることは絶対に正しいとする)のはいけません。場合によっては、ちゃんと査読を通った国際会議論文や学術雑誌論文でも、間違いが含まれている可能性があります。もちろん、専門書も。
自分のことは一度棚にあげて、「良いか悪いかは別として、わからんもんはわからないんだ。」と考えて文献調査をすることが重要です。「〜がわからないのは恥ずかしい」というのは、まあ、そうでしょうが、わからないもんはわからないですし、今現在わからないんですから、素直に知っている人に教えを請いましょう。
さて、本題。そんなこんなで卒論とか修論をぱらぱら繰ってきたわけなんですが。分からない上に長くてぜんぜん読み進められませんでした。先輩に「分かった?」と聞かれて、勘黙するしかない自分。反省。
専門書や論文は、頭からお尻までを全部均等に丁寧に読むものではありません。必要な部分を必要なだけ読むものです。ですから、均等に力を割り振って読むよりは、論文の一部分に全力を尽くしましょう。
まず、タイトルを読みます。「タイトルを読む?ばっかじゃないの?」と思われるかも知れませんが、論文のタイトルというのは、論文にかかれている内容をもっとも短くまとめたものです。タイトルがあいまいで、何が書いてあるのか想像できない論文の場合、十中八九、読みにくい論文です。覚悟しましょう。また、タイトルに登場する専門用語はその論文における最重要用語です。この用語の理解が論文読解のキーになりますから、論文の中で説明されていない、あるいは、説明が足りない場合には他の文献や先輩、先生にあたって理解を深めておきましょう。
次に、概要を読みます。概要は論文の内容を簡潔にまとめたものです。概要の中には、以下のものが含まれているはずです(分野によって多少の差はありますが)。書き込みOKのものならば、該当すると思われる部分にラインマーカーで色をつけておきましょう。書き込みがだめならポストイットを使ってこれらのポイントが分かるようにしておきましょう。
- 何がその論文で解決しようとした問題なの?
- その問題に対して、著者らが提案した解決策・緩和策は何?
- その論文の目的(Goal、最終到達地点)は何?
- その論文では目的までどのくらい近づいたの?
概要を一通り読んで、理解できない事柄をピックアップしましょう。この後本文を読んでいくわけですが、この理解できない事柄の答えが載っているかどうかを探す作業になります。ちなみに、先行研究の調査の際には、概要を読んで自分の知りたいことが載っていなそうならば、もう本文を読みません。
概要の次には、参考文献に目を通します。参考文献リストにHowTo本(例えば「はじめての〜言語」とか「やさしい〜」とか)が入っている場合、たいていその論文は地雷です。覚悟しましょう。分野にもよりますが、参考文献リストがちゃんとつくられていない論文は、先行研究調査が甘い恐れがあります。その研究の位置づけを記述している部分を鵜呑みにしないようにしましょう。
次に、目次を読みます。目次に目を通す目的は、どこに何が書いてあるのかの見当をつけるためです。目次を見て読んでいく順番を決めます。最初に読むのは第一章(「はじめに」や「序章」や「Introduction」と名付けられていることが多い)です。二番目は最終章(「おわりに」「まとめ」「終章」、「Conclusion」、「Summary」、「Concluding remarks」などと名づけられていることが多いです)。その後は、概要を読んで得た疑問の回答が書いてありそうな章をピックアップします。
第一章には、この研究によって解決したい問題、その問題に対する先行研究、この研究の目的・目標が書いてあります。ここを読んで、何をしたい論文なのかがわからないならば、その論文はダメです。読むだけ無駄ですので、著者が研究室に在籍しているならば、直接口頭で質問しましょう。最終章には、提案した解決策・緩和策の概要と有効だったかどうかの評価、解決策・緩和策がこの分野に与えるインパクト、そして、未解決な課題が書いてあります。研究テーマを見つける目的で論文を読んでいる場合にはこの未解決な課題が重要です。メモしておきましょう。
第一章と最終章を読んだ段階で、概要で得た疑問が解決されているのであれば、本文を読む必要はありません。分かったことを論文ノートにまとめて次の論文へ進みましょう。もし、まだ疑問が解決されていないならば、索引や目次、図と表を最大限利用して限定的に読みましょう。全部読むことが必要なとき以外は、論文の端から端まで読む必要はありません。図だけをパラパラ見る、表だけをパラパラ見るというのも良くある読み方です(趣味の雑誌をざっと読むときとかもそうするでしょ?)。
必ず、第一章と最終章を読んだ段階で、概要で得た疑問が解決されているかどうかを自分に問いかけましょう。質問の仕方は以下を参考にしてください。
- 一匹狼のための一人Q&A大会
- 質問テンプレート(追記:2011/9/6)
卒論生は、読み込みの質よりも量が重要だと私は思っています。一度読んだら、二度と読まないという読み方ではなく、複数回読むことを前提に論文を読みましょう。自分でコピーや印刷した論文ならば、ラインマーカーや直接書き込みをして、読み込むごとに重要な点がすぐに発見できる、あるいは読み込みが深くなるようにしましょう。
以上、ご参考まで。
追記
はてなブックマークに登録されているエントリー名と違います。エントリー名では「問い続けることが力となる」とありますが後からタイトルを変えたためです。
追記2
- steam_heart Termで検索し、Abstractを読み、当たってそうなら、全文印刷。数十本は探してみて、分かったことは「先行研究はやはりひとつだけ、実験装置も自作」という悲しい結論だった学部生です。ルーマニア語の翻訳も試みた。
id:steam_heartさん、すばらしい先行研究調査&卒論テーマじゃないですか!!
そんだけ探して先行研究が見つからないということは、取り組む問題の重要さを相手に納得させられる限り、何をやっても世界最先端の仕事ということですよ。本当に新しい内容に関しては先行研究なんてないんです。先行研究調査というのは、自分が行っていることが真に新しいものであるということを示すための調査ですから、類似のものがないというのは嬉しい結果なんですよ。
なお、実験装置や実験方法、観察方法など別に存在する既存の方法を流用するというのはよくある話ですので、今度は「私の研究に流用できるアイデアや道具、方法はないかな?」という視点で文献調査されることをお勧めします。一つしかないという先行研究の結果を超えていけば、id:steam_heartさんが間違いなく世界の最先端です。楽しんでください。
追記3
id:taroleoさん、ご紹介ありがとうございます。
- taroleo 質、量とか言われてもそれがわからない段階だと思うので、こちらの方が参考になるかと。http://web.yl.is.s.u-tokyo.ac.jp/~sumii/survey.html 未解決問題については、こちらの視点もどうぞ: http://leoclock.blogspot.com/2009/04/ullman.html 2009/04/14
追記4
- 論文ノートのことは良く分かりません!。そういうことなんです。