技術系が社長になること

単純に技術系の会社は技術系の人が社長になったほうが幸せだと思っていたけど以下のような考えもあるみたい。納得。

MBAの授業の一環で、"Marketing Myopia" (by Theodor Levitt) という1960年に書かれた論文を読む機会があったのだが、色々とうなずけるところがあったので、メモ代わりに。
家電メーカーのような技術系の会社は、どうしても技術系の人が経営者になりがち。技術系の人は(私も含めてだが)色々な問題を論理的に解決しようとする。技術的な問題を解決するためにはこのアプローチはとても有効だが、消費者心理のように曖昧で非論理的なものには適用できない。
技術系の経営者が陥りやすい失敗は、自分がコントロールできる分野、すなわち、技術的に難しい問題を解決することにばかりエネルギーをそそぎ、非論理的で簡単にはコントロールできない消費者の動向のようなものに十分な注意を払わないこと。
その結果、「消費者はどのみち論理的な行動なんてしないんだから、それに関して色々と戦略を立てたところで無駄」という発想の元に、「良いものさえ作れば売れる」というプロダクト指向・技術指向の経営に陥ってしまうこと(自分が得意なところで勝負したがるのは人間の常)。

一方で、ものづくりの観点(技術者)の観点からiPodの成功を見る人もいる。

日本の経済成長を考えれば、新たな製品を出してくれる、理系人材の価値はむしろ高まっています。理系出身者の処遇が悪いことは、社会で付加価値を作り出す、あるいは、消費者にとって今までとは違う価値あるものを作るといったことが、あまり評価されないことに近い。これは、長期的には日本の経済成長にとってボクシングのボディーブローのようにじわりと悪影響を及ぼしてくるに違いありません。

日本の製造業の力が削がれていってしまいます。日本よりもむしろ海外から「iPodアイポッド)」「レーザー・レーサー」といった革新的な商品が出ています。それらが目立っていて、日本は水をあけられている印象さえあります。

今は、賃金面で製造業の従事者よりも金融の従事者が優遇される傾向が強いですが、日本にとって好ましいとは言いきれません。金融というのは、あるところに余っている資金を、必要なところに投資していくもので、これは大切ではありますが、金融だけで価値を生むわけではありません。経済成長に寄与する、付加価値を生んでいるのは、むしろ製造業でしょう。

私は工学部の出身で工学部の教員なので、工学部は生き残って欲しいですが、金融市場をいまだにマネーゲームというのはいかがなものかと思う。なので、製造業が経済成長の基本であるかどうかは疑問だけれども、製造業が日本で生き残っていくのは重要みたい。

他方、日本には、世界と全く違う経済構造があります。第1に、未だに生産センターとしての製造業をしっかりと確保している。これはアメリカには無い要素です。イギリスにも無い。第2に、閉鎖系で消費経済を回せるだけの人口規模を持っていること。これはヨーロッパでも限られるほどですよね。億の人口を持つのは。
第3に、未だに日本経済の主役は消費であること。今のGDP等に占める消費依存、外需依存の比率がどうなっているのか具体的な数字を今持ち合わせていないけれど、たぶんまだ5割前後はあるでしょう。消費者がいる以上、そこに消費経済は存在するし、消費経済をまず回すことが出来なければ、いくら外需だ金融だと言っても、その経済波及効果は知れている。日本の景気後退がこのレベルに留まっているのは、まだしも内需がそこそこ堅調だったからですよ。

理想は何でもわかる万能人間(理想的なジェネラリスト)だけれども、現実は謙虚な専門家が必要なのだと思う。自分の専門分野以外にも興味と尊敬を持ち、自分がわからないことは他の専門家の意見を拝聴し、意見をすり合わせることができる人間。他の専門分野に精通しているのではなく、他の専門分野の専門家を尊重するという姿勢がポイント。