質問というノミを使って回答者と一緒に問題を彫る

自分に対するメモ。もしかしたら、他のかたがたの役に立つならばより嬉しい。

研究を進める上でもっとも重要なのは、「今、自分が考えていることは何か」をはっきりと言語化して焼き付けることである。研究を進めているときには頭の中にぼやぼやと何かしらの考えがある。しかし、「ぼやぼやとした何かしらの考え」という状態で研究を進めると本当に得たい事柄と別の事柄に対して労力を使ってしまうことになる。よって、「ぼやぼやとした何かしらの考え」をはっきりと言語化し、何かに焼き付けて、自分や他人の目で確認できるようにしなければならない。

多くの訓練を受けていない人(たいがいの卒論生)は、自分が何を考えているのかを明確にはわかっていない。どうして、そう言い切ることができるのかといえば、彼ら、あるいは彼女らは自分の考えをしっかりと他人に説明できないからである。他人に説明できないということは、自分にも説明できないということと同じである。ちょっと言葉がでてこないだけという言い訳は通用しない、適切な言葉を割り当てられるほど考えがまとまっていないというだけの話だからだ。

一方で、訓練を受けた人(たとえば学位取得者)でも、たまに自分が何を考えているのかを明確にできないときがある。頭の中に浮かぶ言葉と自分の意識が捕らえようとしている事柄がうまく一致しないときがある。言葉と事柄が一致しないため、言葉に従い行動すると、本来と違う行動をとってしまうことがある。

この状況を回避するには、適切に質問をしてもらい自分の考えていることをはっきりと言葉にするのが有効だ。質問者は、必ずしも回答者と同じ知識をもっている必要はない。むしろ、回答者よりも知識が劣っている方がより適切に質問できるかもしれない。質問者に求められるのは質問を適切に注意深く、回答者の回答にあわせて繰り出すことだけである。回答者は、質問者の質問に答えつつ、徐々に自分の考えをはっきりとさせていく。

私の短い経験から考えると最初の質問は回答者自身が明らかにさせたいと思っている事柄から聞くのが良い。

  • 「あなたがはっきりさせたい事柄は何?」

次にその回答者が話した回答者の考えの中で質問者が聞きなれない言葉の定義を聞くのが良い。

  • 「***というのはどういうこと。」

回答者が話したことで「程度」に関する事柄がでてきた場合にはその程度を決定する基準について質問するのが良い。たとえば、「***が良くなる」と回答者が言った場合には

  • 「何がどういう状況になったら***は良くなって、何がどういう状況になったら***は悪くなるの?」

回答者が最初に回答した事柄について、用語の定義がはっきりとした場合には、回答者がどうしてそれを考えたのかについてたずねるのが良い

  • 「どうして、そういうように考えたの?」

あとは、これらを繰り返し、回答者の考えを説明する言葉の中に定義があいまいな言葉、あるいは日常の用語の使い方とかけ離れた意味を持ってしまっている言葉、論理の飛躍などがないかをチェックしていく。この程度のことであれば、質問者が回答者と同じ専門家である必要は全くなく、話の論理性のみを判断できれば十分に回答者の役にたつことができると思う。

しかし、この質問によって回答者の考えをはっきりさせるという方法で注意しなければならないのは、質問者が回答者よりも一般的に知識量が多いと考えられる場合においてである。たとえば、質問者が回答者の先輩、あるいは質問者が先生で、回答者が学生・生徒である場合、質問者は回答者よりも知識量が多いと回答者によってみなされる場合が多い。そのとき、回答者は、質問者がすべてを知っていて間違った考えを持っている自分を正しい考えに向かって誘導して言っているように感じてしまうかもしれない。もし、回答者がそのように考えてしまうと、自分のいたらなさを感じて意気消沈してしまうかもしれない。これは非常によくない。質問者はあくまでも回答者が自分の考えをはっきりと認識するための手伝い、いうならば産婆なだけで、考えを生み出したのは回答者自身であるのだから。

このような自体を防ぐためには、質問者はあくまでも回答者の考えをはっきりさせるための手伝いをしているということをあらかじめ回答者に対して明らかにしておく必要がある。