1986年と2006年の週当たり平均労働時間は統計的にみて有意に異ならないという話

高橋俊介:ここがヘンだよ日本人の働き方. 成果が出ないのは「やる気」のせいじゃありませんの最初のグラフを見て「これって不景気のせいで常勤が減ってパートタイムが増えたからじゃないの?」と思ったのでこのデータの出典を調べていたところ、私の疑問に答える報告書が見つかった。

なお、上記の記事で掲載されているグラフの注意事項として「データは一国の時系列比較のために作成されており,データ源の違いから特定年の平均年間労働時間水準の各国間比較には適さないことに留意」とある

「日本人の労働時間 - 時短政策導入前とその 20 年後の比較を中心に -」の概要。

『社会生活基本調査』(総務省)の個票データを用いて、高齢化、高学歴化、有配偶率の低下、少子化、自営業率の低下等、人口構成・ライフスタイルの変化を調整した結果、時短導入前の1986年と導入20年後にあたる2006年の日本人有業者1人当たりの週当たり平均労働時間は統計的にみて有意に異ならないとの結果を報告した。

この傾向は、雇用者1人当たりでみても、フルタイム雇用者1人当たりでみても、男女別でみても同様である。さらに、フルタイム男性雇用者にサンプルを絞って、より詳細に時系列の推移をみると、週当たり平均労働時間は1986年と2006年の2時点を比較して統計的に有意に異ならないものの、週休2日制の普及により、土曜日の平均労働時間は低下した一方、平日(月−金)1日あたりの労働時間は、過去20年間で趨勢的に上昇していることも分かった。つまり、1986年以降のフルタイム男性雇用者の週当たり労働時間が統計的にみて不変と観察された背景には、週末の労働が平日にシフトし、結果として平日と土日で労働時間が相殺されている可能性が考えられる。

また、平日の労働時間が延びたために、日本人は趨勢的に睡眠時間を削減していることも分かった。
(上リンク記事の概要より)

以下、引用はすべて当該報告書より。労働時間の調査が過小バイアスを持つ理由。

たとえば、図 1 で示した『毎月勤労統計調査』の数値は、OECD の労働時間の国際比較統計でも利用されているものであるが、この統計は実際に事業所が労働者に賃金を支払った時間が計上されているため、不払い残業時間や時間外規制の適用除外者の労働時間を把握することができない。

これは、同じ事業所統計である、『賃金構造基本統計調査』(厚生労働省)でも同様である。『賃金構造基本統計調査』は、職階ごとに賃金と労働時間が把握できる優れた統計であるが、時間外規制の適用除外者が多く含まれていると思われる管理監督者層(部長・課長)の所定外時間数は毎年ほぼゼロとなっている。

個々人に直接労働時間を問う世帯調査としては、わが国では『労働力調査』(総務省)や『就業構造基本調査』(同)といった貴重な統計が存在する。しかし、これらの統計は、調査の前月の最後の1週間におけるおおよそ労働時間を問うものであったり、予め指定された範囲内(離散変数方式)で該当する労働時間を選択してもらったりといった方法を採用していることから、個人の認識・記憶違いや計測誤差を多く含んでいるとされてきた。

上記報告書で利用している調査

タイムユーズ・サーベイとは、1日 24 時間分の生活行動を 15 分単位で回答者に記録してもらう統計である。日記のように 1 日の行動を記録する形式であることから、タイムダイヤリー・データとも呼ばれており、少なくとも 15 分単位では記憶違いや認識違いから生じる計測誤差を小さくできるというメリットがある。このほか、事業所ではなく個々人が回答しているために、不払い残業等の労働時間も把握できるという利点もある。

わが国では、日本放送協会が 50 年以上にわたって、定期的にタイムユーズ・サーベイを実施しているほか、政府の公式統計としては 1976 年から 5 年ごとに、総務省が『社会生活基本調査』という統計を作成している。〜中略〜 本稿で紹介する分析は、この『社会生活基本調査』の 1976、1981、1986、1991、1996、2001、2006 年の計7 回分の個票データを利用している。
〜中略〜

なお、回答者に 24 時間の行動を 15 分刻みで記録してもらうという統計は、忙しい人ほど回答に参加してもらえないことが予想されることから、下方バイアスを持つ可能性がしばしば指摘される。
〜中略〜
ここで、
『社会生活基本調査』の労働時間をみると、どの調査年も『労働力調査』の値と概ね一致していることがわかる。このことから、回答が煩雑なために、『社会生活基本調査』の労働時間が他の世帯統計に比べて有意に下方バイアスを持つ可能性はそれほど大きくないと考えることができる。

社会の変化による労働時間の変動要因

  • 労働人口の高齢化
    • 「一般的に、若く体力があるうちに長時間働き、年を経るに従って労働時間が減少していくとのライフサイクルがあるとすれば、人口に占める高齢者層の割合の上昇は 1 人当たりの労働時間を低くするバイアスとして働く可能性がある。」
  • 大学への進学率増加
    • 「賃金が高い高学歴の人ほど余暇時間のシャドウ・プライスも高いため長時間労働となりやすいとすれば、進学率の上昇に伴う高学歴層の増加は 1 人当たりの労働時間を増加させるバイアスを持ちうる。」
  • 晩婚化や少子化
    • 「晩婚化や少子化によって家事労働や育児に費やさなくてはならない時間が減少し、その一部分が労働時間の増加に充てられている可能性もある」

上記の変動要因を勘案した労働時間(表3-1)

1976 1981 1986 1991 1996 2001 2006
有業者1人当たり 44.88 47.15 46.97 46.03 45.24 44.23 46.27
雇用者1人当たり 44.78 47.30 47.64 46.67 46.20 45.51 47.29
フルタイム雇用者1人当たり 46.79 49.76 50.09 49.14 48.84 48.31 50.12

表 3-1 には、上述の構成比変化を固定した場合の、有業者1人当たり、雇用者1人当たり、フルタイム雇用者1人当たり2の 3 タイプの週当たり平均労働時間(男女計)の推移を示している。この表をみると、週当たり平均労働時間は、1976 年から 1986 年にかけて一旦上昇したのち、2001 年にかけて僅かに低下したものの、2006 年には再び上昇していることがみてとれる。表の右側には、2 時点間の労働時間の差が統計的に有意かどうかを検定したものを掲載している。最右欄に示した、時短政策の直前の 1986 年とその 20 年後に当たる 2006年との比較をみると、 つの時点間の平均労働時間は統計的にみて有意に異ならないとの結果が示されていることがわかる。この結果は、有業者1人当たり、雇用者1人当たり、フルタイム雇用者1人当たり、いずれの場合でも平均労働時間が時短前と 20 年後で変わっていないということを意味する。つまり、過去 30 年間に生じた人口構成やライフスタイルの変化を固定した場合、日本人の 1 人当たり労働時間は、時短前と 20 年後の現在ではほとんど変化していないと指摘できる。

転載していないけど、睡眠時間、特に女性の睡眠時間が男性よりも1時間ぐらい減っているのはまずいと思う。平日は睡眠時間を削って働いているなら、休日に余暇をアクティブに楽しむのは厳しいよね。