科学研究費補助金 若手研究に受給制限ができた

勤務校で行なわれた科研費説明会に参加したら衝撃のお知らせが「平成22年度科研費より若手研究に受給制限ができました。」って、おいっ!若いという利点が・・・。以下、平成21年9月1日発行の平成22年度科学研究費補助金公募要領9ページより引用。

若手研究者ができる限り早い段階で、より円滑に科研費の中核である基盤研究に移行していくことができるよう、また、できる限り多くの若手研究者に対して若手研究による支援をうける機会を確保することができるよう、若手研究(S・A・B)について、次の措置を行なうこととしました。
〜中略〜
平成22年度公募から、若手研究(S・A・B)を通じた受給回数の制限を導入することし、若手研究(S・A・B)を通じて、2回までに限り補助金を受給することができることとします。具体的には、若手研究(S・A・B)のいずれかの研究種目における研究を年齢制限の範囲内で応募し、2回受給することができます。ただし、若手研究(S)を受給することができる回数は1回限りとします。

科学研究費補助金とは、日本の大学および研究機関の研究者にとって最も大きな研究資金源の一つ。いくつかの種目にわかれており、基盤研究(A・B・C)が一応のメイン。

  • 基盤研究(A):応募総額2000万以上、5000万円以下。研究期間3〜5年間
  • 基盤研究(B):応募総額500万以上、2000万円以下。研究期間3〜5年間
  • 基盤研究(C):応募総額500万円以下。研究期間3〜5年間

研究の芽生え期を支援する種目は挑戦的萌芽研究。

  • 挑戦的萌芽研究:応募総額500万円以下。研究期間1〜3年間

そして、若手研究者向けの種目、若手研究(S・A・B)

  • 若手研究(S):応募総額3000万以上、1億円程度まで。研究期間5年間。42歳以下の研究者が1人で行なう。受給制限1回。
  • 若手研究(A):応募総額500万以上、3000万円以下。研究期間2〜4年間。39歳以下の研究者が1人で行なう。受給制限2回。
  • 若手研究(B):応募総額500万円以下。研究期間2〜4年間。39歳以下の研究者が1人で行なう。受給制限2回。

科研費は研究者自身の人件費を含まないのが特徴。また、科研費というか日本の予算編成の悪しき伝統が充足率が100%でないこと。すなわち、申請した金額が100%通らないで平均7割に減らされて採択される。申請時には具体的に購入の金額を書けと指示してる癖に割合で削ってくるからたちが悪い。申請時には購入物の値段を調べて無駄が無いようにきっちりと計算して申請額を決めなさいと指示してくる癖に、いざ配分の際には合計額に対してX掛けで一律に割り引いてくるからたちが悪い。きっちり計算して申請したら採択されても、予定したものが買えないというトラップ。なので、みんなあらかじめ多めに見積もって申請する。こういうことするから、予算の無駄な取り合いが発生するんだ!とまれ。話が横にずれた。

今回の若手研究の受給制限でちょっとげんなりなのは、大規模実験装置を必要としない研究者として手頃な金額である500万円クラスの採択率が落ちる可能性があるため。公募要領の71ページと72ページに平成21年度の種目別採択率が乗っているけれども、基盤と若手だけを抜き出すと以下のようになる。

研究種目 応募件数 採択件数 採択率(%) 1課題あたりの平均配分額(円)
基盤(A) 2,366 567 24.0 13,123,000
基盤(B) 11,019 2,749 24.9 5,499,000
基盤(C) 33,019 7,764 23.5 1,456,000
挑戦的萌芽 13,336 1,640 12.3 1,622,000
若手(A) 1,871 350 18.7 8,389,000
若手(B) 23,355 6,487 27.8 1,583,000

追記(2009/10/05):上の表の1課題当たりの平均配分額は「単年度」の配分額

大規模実験装置を使わなかったり、研究チームを組んで研究しない研究者は大体500万円クラスを狙いにいく(研究資金が多すぎても使いどころがない。とはいえ少なすぎれば論文すら投稿できない。)そして、500万円クラスに採択されると150万円程度の研究費が手に入る。2年間で研究を組んだとして1年70万強。大学や研究機関から配布される基盤的研究経費(学生の教育費含む)と合わせて年に100万円の研究予算というところだろうと予想する。私の所属研究室は学生への研究支援まで含めて年間200万円くらいかかるので、500万円クラスを狙いにいくことになる。

若手の受給制限ができると、若手(B)が狙えず、基盤(C)か挑戦的萌芽を狙いにいくことになるけどご覧のとおり採択率が低い。挑戦的萌芽は研究のテーマに縛りがあるため、基盤(C)が本命。もし、基盤(C)の予算が現状のままであるならば、年々、基盤(C)の採択率は落ちるに決まっている。元々、若手への応募資格がなくなった研究者が数年の間は基盤(C)が通らなくて苦戦するというのは良く聞いていた話。それを強制的に行なうとは・・・。うーん。大学や所属機関からの基盤的研究費はガンガン減っているのでより多くの研究者が科研費に応募するようになるのは明らか。実際、応募件数の伸びに採択件数の伸びが対応できなくて、科研費の平均採択率は平成7年度の29.4%を最高にずっと右肩下がり、平成20年度は22.7%(公募要領73ページより)。

私が手持ちのチャンスはあと1回。基盤(C)に挑戦しても戦えるように業績を上げないと。不況の中、科学関連予算を増額してくださっているのはありがたいので高望みはできないけど、研究期間2〜3年間、配分額200万円〜300万円クラスの比較的小額の研究種目を枠多めで作ってほしいなぁと思う。

追記

既に9月初めの段階でブログに書いていた方も何人かいた。

2ch:学振・科研費総合スレ part 33によれば今回の変更の元となった部会の議事録は以下のもの。部会の方々も基盤(C)の拡充をしないと若手研究者殺しになるだけだというのはよく理解されている様子。若手研究(A)の廃止も話し合われているようなので若手研究の対象範囲の人は読んでおいたほうが良い。

追記2

ちなみに科研費の争奪戦は私立大学 vs 国立大学、国立大学内でも旧帝大 vs その他の国立大学という様相を呈している。北海道、東北、東京、名古屋、大阪、京都、九州の7つの大学が平成16年度は科研費総額の67.1%、平成17年度は60.9%、平成18年度は59.5%を取得している。平均採択率が25%弱で、かつ、旧帝大が総額の50%くらいをとっていくということは、一体その他の大学の研究者の平均採択率は何%になるんだろうか?

まあ、そんなこと言ってもしょうがないから一生懸命、研究計画を練って今年も出すけど。