情報系は高校の先生と受験生の親御さんへのアピールが弱い

最近、東大の先生から聞いた話。僕たちが卒業する頃には人気学科であった電気・情報系を志望する東大生が減っているらしい。30年前の「進振り」では、情報科学や電気電子工学を志望するならば 80点くらいは取っている必要があったのだが、最近では志願者が少なくなって、電気電子などでは「底割れ」(最低点がつかない)することもあるらしい。代わって人気があるのが機械工学系だという。いやはや、隔世の感がある。

私は工学部情報系学科勤務ですが、そのように感じています。機械系が人気なのはロボットと車でしょうね。オープンキャンパスなどでロボットやりたいので機械系に進学したいという学生をよく見聞きします。そのときには、「情報系でもロボットはできるよ」と言って勧誘していますが。

あと、10年前くらいまでは「コンピューターが好きだから」とか「プログラミングが好きだから」情報系の学科に決めましたという人が結構いたように思うけど、今は「私の偏差値だとこのくらいだから」という進学できるから入るという人が増えてきたように思う。なので、一人一台パソコンを持っている時代にも関わらずパソコンがさっぱり使いこなせていない。BIOSの設定で起動ディスクの起動順位を変更するというのを説明するのに40分かかったときはビビった。まあ、最近はWindowsを1年に一度再インストールしなくてよくなったからしょうがないけど。ニコニコ動画とかYouTubeとかは万全に使いこなしてみせるくせに。

一方、情報系があまり人気がない理由は、中学・高校での情報リテラシー教育にあるらしい。コンピュータの動作原理、プログラミングの面白さを教えられる先生はおらず、ケータイやインターネットの怖さ、使う時の心構えを説く「道徳」のような面白みに欠ける科目になっているのが、情報系不人気の一つの理由であると言う。

以前聞いたベネッセの人の講演によれば、受験生の進路選択において決定的な役割を果たすのが受験生の母親と高校の先生らしいので、情報系・電子系の不人気はこの二者に対するアピール力が弱い結果だと思う。情報系は、就職活動中の学生にすらアピールができなくて困っているし(参考:IPAフォーラム2007内の「人材育成討論会:『学生から見たIT産業』と『IT産業から見た学生』〜IT産業は学生からの人気を回復できるか〜」やIPAX 2008を見に行ってきた内の「IT産業が国際的な飛躍をめざすために、学生への期待 〜ITプロフェッショナル技術者の重要性と学生に魅力を感じさせるIT産業とは〜」)

あと、情報系は基本的に裏方なのでイメージ化がへたくそな印象がある。機械系は技術が進んだ未来をアトムやドラえもん、宇宙船などで素敵な科学をイメージ化してお届けできるが、情報系だと技術が進んだ先がスカイネット(ターミネータたちの親玉コンピューター)やHAL9000などコンピュータが進化しすぎて人類殲滅にはしっちゃう悪のイメージが。あとは暗い部屋でたった一人でディスプレイの前でカチャカチャしているイメージかな。なので、高校生のお母様方と先生方に素敵なイメージを届ける策を練らないといけない。特に女子高生にアピールしないといけないね。ディスプレイがブラウン管から液晶になった結果、筋肉がますます関係ない分野になったのだから、女性にとって不利なことは一つもないし。

さらに情報系の学科でも、大学によってはプログラミングの経験をあまり積ませないところもあると聞く。僕個人の感覚からすると、「自分の表現手段」であるプログラミングを教えないというのは読み書きを教えないのと等しく、まったくあり得ないという思いなのだが、本当の話なのだろうか?生活のありとあらゆるものがコンピュータとなり、そのソフトウェアを設計・開発できるのは挑戦的だし、さまざまな現象の数理モデル・計算モデルを作りそれを検証していくことは大きな可能性を持つことだと思うのだが。

私の所属する学科では、プログラミングの授業はありますがメインではありません。線形代数集合論グラフ理論数値計算、論理学、アルゴリズム論、プログラミング論、コンパイラなどの計算機科学の理論系の話が多いです。プログラミングの技法や経験値習得は自分で自習しなさいという姿勢です。