貨幣の有用さがわかる事例:Coinhive

高木さんのエントリーで初めてCoinhiveという名称をしった。

で、Coinehiveとはなんぞや

Coinhiveは、サイトの運営者が、閲覧者に仮想通貨を採掘させ、その収益を受け取るサービスだ。専用のJavaScriptコードをサイトに埋め込むと、そのサイトを閲覧した人のPCのCPUパワーを使い、仮想通貨「Monero」を採掘。採掘益の7割が、サイト運営者に配分される(残りの3割は手数料として運営元・Coinhive Teamが受け取る)。

話題の「Coinhive」とは? 仮想通貨の新たな可能性か、迷惑なマルウェアか - ITmedia NEWS

この仕組みを聞いて思い出したのが2000年代中盤あたりにキーワードになっていたグリッドコンピューティング。

グリッド・コンピューティングは、インターネットなどの広域のネットワーク上にある計算資源(CPUなどの計算能力や、ハードディスクなどの情報格納領域)を結びつけ、ひとつの複合したコンピュータシステムとしてサービスを提供する仕組みである。

グリッド・コンピューティング - Wikipedia

グリッドコンピューティングの一つの側面に使っていない計算資源をネット上からかき集めて、大きな計算資源が必要なプロジェクトを実施するというのがあった。それの典型例として当時紹介されていたのがSETI@homeのプロジェクト。

SETI@homeの本来の目的は次の2点だった。

  • 地球外知的生命体の証拠を検出するため、観測データの分析をサポートすることで、有益な科学的作業を行う。
  • 「ボランティア・コンピューティング」という概念の実現性と実用性を証明する。

後者の目的は一般に完全に成功したと見なされている。SETI@home の開発から発展した現在のBOINC環境では、様々な分野の計算量の多いプロジェクトにサポートを提供している。

前者の目的は今のところ達成されていない。SETI@homeによってETI(地球外知的生命体)信号の証拠が見つかったという例はない。

SETI@home では、アレシボ天文台の観測データを使い、その中に地球外知的生命体からの無線信号の証拠と見られるものがないか探索する。データは他の科学的プログラムに従って電波望遠鏡を使用しているときに便乗する形で採取されている。データはデジタイズされて記録され、SETI@home の施設に郵送される。そこでデータを時間と周波数で分割して小さな塊にし、それらを世界中のコンピュータに分配し、ノイズとは見なせない情報を含む可能性のある信号を探す。SETI@homeの要点は、データを小さく切り分け、それらを数百万台のパーソナルコンピュータで分析させ、分析結果を返してもらうという点にある。そうすることで、通常なら最新のスーパーコンピュータを必要とするような分析をインターネット上のコミュニティの援助によって達成できるようにした。

SETI@home - Wikipedia

プロジェクトに参加する人は、アプリケーションを自分が使っているPCにインストールしてPCの有休時間(あまりCPUやメモリを使っていない時間)に計算資源を提供するということを行っていた。基本的に計算資源はプロジェクト遂行のためのタスクに直接的に使われていた。

で、この発展として何かのサービスを提供する対価として計算資源を支払い、利用者からみると「無料」のエコシステムを回そうという発想がいろいろとでていたと記憶している。ただ、あまり流行らなかった。ネット環境やPCのスペックの問題もあったと思うが、サービスの対価に計算資源を「直接」払うというモデルがうまくなかったと思う(計算資源が欲しいプロジェクトと計算重を支払ってサービスを使いたい利用者とのマッチングが難しい)。Google先生に尋ねてみたらNTTがcell computingというグリッドコンピューティングプラットフォームを展開していたみたい。これはポイントという形で物々交換を抽象化している。

NTTデータは(2002年)12月13日、都内で記者発表会を行い、グリッドコンピューティングへの取り組みについての現状を紹介した。同社は、一般的なパソコンを多数つなぐことで、眠るコンピュータリソースを活用していくPCグリッドを推進しており、これを「cell computing」プロジェクトとして、ライフサイエンス分野などよりも市場規模が大きい一般企業に展開していく。

エンタープライズ:NTTデータのPCグリッド、「参加者にお小遣いをアゲタイ」

cell computing(セル・コンピューティング)は過去に行われていた分散コンピューティングの1つ。NTTデータが提供していたサービスであるが、収益の見通しが立たなかったため2008年3月31日に終了した。

BOINCプラットフォームが使われていた。 一般PC所有者に登録してもらい、分散コンピューティング技術を用いて、PCの遊休計算能力を利用する。当初はユーザが稼働させたコンピュータ資源に対し与えられるポイントを、商品等へ交換できるようにする計画があったが、実現はしなかった。また、そのPCの利用者に対する広告メディアとしての意味合いもあった。

cell computing - Wikipedia

今回のCoinhiveは、計算資源を仮想通貨に変換し、その仮想通貨で現実世界の任意のサービスを購入できる点が以前の計算資源とサービスの物々交換モデルや計算資源とポイントの交換モデルと異なっている。エネルギーの効率などを考えれば物々交換モデルがもっとも合理的なのだけど、利用者からすると任意のタイミングで、任意のサービスを購入できる貨幣の方が利便性が高く、参加する動機も高くなる。なんで、貨幣が普及したのかを実感させられる事例だと思った。