残念な放送:Session 22 「無血十字軍を成し遂げたフリードリヒ2世に学ぶ共生のヒント」

面白そうな話題だったのだけど、解説の本村凌二さんの説明がうまくなくて聞いていられなかった。ダメな卒業論文や修士論文はこうあるべきという見本になっている。時間に余裕のある卒論生、修論生はこのエントリーの最後の情報提示の順序を気にしつつぜひ聞いてみてほしい。その結果感じるこの放送に対するフラストレーション(つっこみ)がそのまま、みなさんの論文や発表の改善に反映できる。

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私はどこを不満に感じていたのか。ざっくりいうと専門家の悪いコミュニケーションの典型例になっているということ。

  • リスナーが持っている知識を考慮して話していない。
  • 自分が話したいことだけを話し、情報の取捨選択をしていない。
  • 情報提示の際に時間的、空間的構成を配慮していない

放送では、司会の荻上チキさんは「リスナー目線で」ステップバイステップで情報提示してもらおうと問いかけている(たぶん、上記の専門家の悪いコミュニケーションを防ぐため)。なのに、それにちゃんと対応した答えをしていない。最初はフリードリヒ2世とはだれか?当時の状況はどういうものだったのかを説明してもらおうとしている。

  • 荻上氏のふり「フリードリヒ2世とは誰ですか?」→そこそこわかる説明(シチリア生まれ、後の神聖ローマ皇帝、アラビア語を含む6か国語の話者)
  • 荻上氏のふり「当時のヨーロッパの政治状況、宗教状況とはどういうものだったのですか?」→ほとんど関係ない話(神聖ローマ帝国の位置づけの説明&フリードリヒ2世の業績を同時代人がどう受け止めたかの話)
  • 上の質問に対する回答で宗教的状況の説明がなかったため、荻上氏のふり「宗教状況とはどういうものだったのですか?」→関係ない話(フリードリヒ2世が十字軍にどう対応したのか。それがどうすごいのかの話)
  • 上の質問に対する回答が横にそれていったので、荻上氏が引き取ってまとめ。その後、法王の権威について説明してもらおうと話をふる。ただし、まとめの中で「皇帝は法王に戴冠を認めてもらう」という話をする。→違う話を始める( カノッサの屈辱の話、そのあとに、またフリードリヒ2世の業績がどうすごいのかの説明)
  • 荻上氏が上の話をまとめた上でふり「具体的に無血十字軍というのはどう達成されたのか?」→ 時系列に沿った説明ではないが一応説明。
  • 以下略

フリードリヒ2世 (神聖ローマ皇帝) - Wikipediaの方が専門家の話よりもわかりやすいとはどういうこと!?

この放送は、「フリードリヒ2世のやったことはどれくらいすごいことなのか?そして、その事例から現代の私たちが学べることはなんなのか?」を伝えることが主題なので、情報提示の順番は以下のようになる。カッコ内は論文に置き換えた場合何にあたるのか。

  1. フリードリヒ2世は何者で何をしたのか(概要)
  2. フリードリヒ2世登場前のヨーロッパ・地中海世界の情勢はどういうものなのか(背景および前提知識の提供)
  3. 十字軍とは何で、フリードリヒ2世の前の十字軍はどうだったのか(解決すべき問題の提示と先行事例/研究の説明)
  4. フリードリヒ2世の十字軍はどうだったのか、何が他の十字軍と違ったのか(解決法の提示&説明)
  5. フリードリヒ2世の十字軍終了後の経緯(結果)
  6. フリードリヒ2世の十字軍から学べることは何か(考察)

今回の放送は上の一番説明したいのは、4,5,6なのだけれども、これを理解するためには、まず2で前提知識を共有させ、3で比較対象を明確にする必要がある。でも、今回の放送では最初から4を説明し、比較対象の3をちゃんと説明していない。さらには、2の説明をすっとばしているので、4の理解も不明確になってしまう。