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L型大学のモデル:ドイツの専門大学の話

メモ

実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議(第1回)の配布資料冨山和彦:我が国の産業構造と労働市場のパラダイムシフトから見る高等教育機関の今後の方向性(PDF)について、多くの人(特に大学関係者)がネット上で批判のを受けて、hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳):L型大学のモデルにて、ドイツの専門大学についての紀要論文が紹介されている。大変面白いし、勉強になる。

すべてCiNii経由でダウンロードできる。著者は岐阜聖徳学園大学短期大学部生活学科・教授の寺澤幸恭氏

2000年以降のドイツの高等教育をみたとき、大きく分けて大学は総合大学と専門大学にわけられる(芸術大学、神学大学もあるけど非常に少ない)。2000年で、大学在学生のおよそ3割、2009年で4割が専門大学の在学生。従来は日本における中学校の段階から総合大学行きと専門大学行きはわかれていたが、総合大学への学生の集中を緩和するため、総合大学と同ルート(ギムナジウム卒業後)の専門大学への進学もできるようになっているとのこと。

教員構成としては、総合大学に設置されたジュニア・プロフェッサーが存在せず、教授と下位教員で構成されている。教授は総合大学および専門大学ともに博士号取得者。専門大学の教授は数年の実務経験が求められている。

意外だったのが、以下の表で示されたとおり日本で言う文系科目の専門大学があるということ。そして、かなり人数多い点。工学は予想どおりだったけど、法学・経済学・社会科学は実学なのね。また、ドイツも日本で言う文系に属する学生が多い。今回の高等教育制度改革でやり玉に挙げられている(ように見える)言語・人文学を学んでいる学生も予想外に多いなと思った。

表7 総合大学と専門大学の就学領域別学生数と比率(2009年)

修学領域 総合大学(%) 専門大学(%) 全体(%)
言語・人文学 400,229 (97.0) 12,248 (3.0) 412,477
スポーツ 26,524 (99.4) 153 (0.6) 26,677
法学・経済学・社会科学 364,470 (54.5) 276,392 (41.4) 668,398
数学・自然科学 299,455 (80.0) 76,182 (20.0) 375,842
医学・健康科学 100,243 (84.1) 18,985 (15.9) 119,228
獣医学 8,130 (100.0) -- 8,130
農業・森林・食糧栄養価科学 23,960 (56.7) 18,334 (43.3) 42,294
工学 162,081 (42.2) 221,850 (57.8) 383,931
芸術・芸術学 60,908 (74.8) 20,555 (25.2) 81,463
合計 1,448,616 (68.3) 644,766 (30.4) 2,121,178
  1. 総合大学には教育大学、神学大学、芸術大学を含む
  2. 専門大学からは行政専門大学を除く
  3. 全体には行政専門大学を含む
  4. 合計にはその他の領域や不明なものを含む

ドイツにおける「実務型」高等教育に関する考察(5) -専門大学の発展と学術審議会-の表7を転載)

ドイツの進学率はこちら(上記の総合大学と専門大学を合わせて計算していると思う)

国名 人口 GDP 大学数 高等教育機関進学率 高等教育在学者の人口千人当たり人数
日本 約1億2,700万人 511兆8770億円(名目 2006年) 756校(国87,公89,私580) 54.6%(2007年) 23.4人(2007年)
ドイツ 8,231万人(2006年末) 2兆2,370億ユーロ(実質 2007年) 372校(2007年) 24.8%(2005年) 24.1人(2005年)

国別大学の数と進学より日本とドイツの部分を抜粋)

参考までに学生の在籍者数ではなく卒業者数だけど日本の割合はこちら。領域の分け方が同じではないと思うので単純比較できないが、文系全体だと日本は6割ぐらい。文系中の言語・人文学の割合はたぶんドイツより少ない。

学部就職率(学部別)

学部 卒業者 進学者 就職者 臨床研修 専門学校 進路未定 就職率
全体 552,794 70,642 340,378 8,834 12,200 120,740 73.82%
人文科学 88,978 5,238 55,195 2,840 25,705 68.23%
社会科学 199,784 7,535 136,837 4,479 50,933 72.87%
理学 18,843 8,261 7,557 260 2,765 73.21%
工学 90,048 34,467 43,292 1,558 10,731 80.14%
農学 17,235 4,699 9,808 320 2,408 80.29%
医学 7,631 24 96 6,966 1 544 15.00%
歯学 2,423 16 1 1,868 538 0.19%
薬学 1,365 1,042 135 5 183 42.45%
保険その他 26,863 1,512 23,053 311 1,987 92.06%
商船 4 1 3 25.00%
家政 15,823 524 11,828 263 3,208 78.66%
教育 37,096 2,760 26,947 655 6,734 80.01%
芸術 16,731 1,825 6,690 610 7,606 46.80%
その他 29,970 2,739 18,938 898 7,395 71.92%

再:ポスドクや博士課程の就職の話をする場合には「博士課程=大学院」と呼ばないで欲しいより)

ドイツにおける「実務型」高等教育に関する考察(5) -専門大学の発展と学術審議会-によると、総合大学と専門大学が互いに近づいて行っているとのこと。専門大学の詳しいカリキュラムの説明がなかったのでわからなかったが、今の経済学・法学・社会科学および工学を中心に研究指向と実務よりの教育指向の大学に分けていくとドイツ型の話に近づいていくかなとも思う。

一方で、この話のメタ的に面白いところは冨山和彦:我が国の産業構造と労働市場のパラダイムシフトから見る高等教育機関の今後の方向性(PDF)で役に立たないとみなされている人文学の研究者が研究結果を公開してくれているからこそ、日本語でドイツの専門大学がどういうものなのかがわかるという点。

上記論文の著者の寺沢氏および同種の研究を行っている方々に対して非常に失礼な言い方になるが「日本で他国の教育制度の歴史を研究するのは金になるんですか?」と多くの人が思うのではないかと思う。寺沢氏のバックグラウンドは教育学だけど、発表している場や所属学会が教育系であるだけで、実際にやっていることは教育に関する「歴史学」に見える。

さらに失礼を重ねて恐縮だけど、寺沢氏が所属しているのはG型、L型でいえば明らかにL型の大学であるというのもメタ的に面白い。

世界は広く、調査すべき対象も広いのでそれぞれの研究者が興味やその時点での戦略に基づいて、いろいろな話を自立的に調べ、しかも、それを公開してくれることによって、日本国民がさまざまな判断を下す材料を手に入れることができるというのは素晴らしいし、豊かなことであると思う。

教育に関わることは聖域で何一つ現状から変えてはいけないというのは明らかに間違いだけど、「〜は無駄だからやめろ」と言う前にいくつかの評価軸で検討してみないといけない。

また、上記の話とは別に寺沢氏の別の論文で大学のグローバル化についてもっと懸念すべきことが記載されていた。

ボローニャ・プロセスと呼ばれるプロセスに従ってヨーロッパはヨーロッパの大学間で大学が出す学位について標準化を行っている様子。しかも、現在46か国がこのプロセスに参与している様子。これって、あと10年ぐらいするとヨーロッパを中心とした標準化された学位制度ができあがり、アメリカを中心とした学位制度との間で激しくやりあい始めるか、アメリカも賛同して、世界的に標準化された学位制度が構築されるのではないかと思う。以下の論文によると、2010年のときは中央教育審議会ではこれについてあまり注意が払われていないとのこと。

学位授与機構はこの流れを追っているみたい

ちなみに日本語版Wikipediaにはボローニャ・プロセスのページはない。

追記

人文学系の年収が工学や理学などとくらべ低い傾向にあることなどの議論。ドイツで人文学を勉強している人が多いのはOECD諸国でいうと特殊みたい。