卒業論文発表会、修士論文発表会の時期が近いので経験則を少し。
論文を書く際には「5W1Hをはっきりさせなさい」と指導されていると思う。5W1HとはWho, When, Where, What, Why, Howのこと。「誰が、いつ、どこで、何を、何故、どうやって」を読み手が理解できるように書くことが論文や報告書の基本。
でも、「誰が、いつ、どこで、何を、何故、どうやって」をどんな順番で書いてもよいわけではない。発表の聞き手や論文の読み手の興味の深度にしたがって順序良く提示するべき。興味の深度は以下のような順番で深まっていくと私は考えている。
- 第一段階:「何を行ったか?」
- 聞き手や読み手にまず話の中心点を与える必要があるので「何を」から説明する。多くの場合、聞き手や読み手はあなたの発表や論文に興味をもっていない。なので、発表や論文の中心を手っ取り早く知りたいと思っているはず。発表や論文の中心と言えば「何を行ったか?」以外にありえない。あなたが何を行ったのかを知った後、興味があれば、聞き手・読み手の関心は次のステップへ進む。もし、興味なければ寝るか、別の発表を聞きにいくか、論文を捨てる。「何を行ったのか?」をできる限り早く提示するのは聞き手・読み手の時間を節約してあげる愛にあふれた行為なのをお忘れなく
- 第二段階:「何故、それを行ったのか?」
- 「何を行ったのか?」に興味をもったならば、人情として「それを行った理由を」知りたくなるのが当然のこと。そこで、「何故、私はこれを行ったのか」を説明するのがよい。「何故」の理由に納得してくれたならば、関心は次のステップへ進む。
- 第三段階:「いつ、どこで、誰が(誰と)、それを行ったのか?」
- 人によっては、「何を」とセットで知りたいという人もいると思うが、「いつ、どこで、誰が(誰と)」は固有名詞が登場する確率が高いので、少なくとも私は「何を」「何故」の後にこれを聞きたい。発表や論文に興味がない段階で固有名詞を出されても、覚える気力がわかない。「何を」に興味を持ち、「何故」に納得した後ならば固有名詞を覚える気力がわいてくる
- 第四段階:「どうやって、それを行ったのか?」
- 一番、技術的・専門的知識が必要とされる「どうやって」は一番最後に明示するべき。「何を」に興味を持ち、「何故」に納得した人であったとしても、「どうやって」は興味がない場合も多い。特に聞き手・読み手の専門的知識が少ない、あるいは聞き手・読み手が細かいことまで知りたいと思っていないという状況では「どうやって」の価値は低い。「何を」「何故」は抽象的であり、個々人の専門的知識や技術に依存しないので、専門的知識や技術がない人でも自分の興味対象に応用することが可能だけれども、「どうやって」は多くの場合、専門的知識や技術に依存するので専門的知識や技術がない人には応用しづらいためだ。
まとめると、「何を」「何故」「いつ、どこで、誰が(誰と)」「どうやって」の順番で5W1Hは提示するべき。
特に、卒業論文審査会や修士論文審査会では、基本的に聞き手は「専門知識がない人」であることを想定するべきなので、「何を」「何故」を中心に発表を構成し、自分の仕事のもっともポイントとなる事柄についてだけ簡単に「どうやって」を説明するのがよい。
学問が細分化している現在、同じ学科・専攻の先生とはいえ、あなたの卒論・修論テーマをあなたやあなたの先輩、指導教員以上に知っているはずはない。しかも、卒業論文審査会や修士論文審査会では発表時間が十分とれないことが多い。そうであるならば、なおさら、あなたの発表の中心である「何を」「何故」を説明するべきだ。
もし、「何を」「何故」を十分理解してもらえ、先生方がもっと情報を欲しくなったならば、「どうやって」を質問してくれることと思う。そうしたら、あなたの勝ち。良い発表をしたと思って良い。
修士課程からこれまで6、7年卒業論文・修士論文発表会を見ているけれども、学生時代はどうしても「どうやって」をはりきって話してしまうことが多い。なぜかといえば、一番、力をいれて時間をかけて成し遂げたのが「どうやって」だから。けれども、多くの人は「どうやって」よりも、まずは「何を」「何故」を知りたい。その上で、興味があれば「どうやって」をちょっとだけ説明してもらい、もっと興味があれば「どうやって」を詳細に説明してもらいたいと思っている。
卒業論文発表会・修士論文発表会を迎える人が頭にいれておくべきは「自分が、時間をかけてがんばった事柄が必ずしも、聞き手が聞きたい事柄ではない」ということ。時間の制約や聞き手の専門知識の量によっては、「何を」と「何故」だけしか話すべきではないかも知れない。
上記は私の経験や観察の結果だけれども、多分間違っていない。お手元の論文の書き方の本を見ていただければわかるように、論文は
- タイトル
- 概要
- はじめに(Introduction)
で始まり、途中に
- 実験方法
- 実験結果
を挟んで、最後に
- おわりに
となっているはず。この構成こそ、まさしく「何を」「何故」「どうやって」の順番で説明すべきという構成。特に「何を」の重要性は「概要」「はじめに」「おわりに」と3回書かなければならない点からも明らか。
できるならば、普段の報告、連絡、相談においても「何を」「何故」「どうやって」という順番で行えるように心がけることにしよう。そうすれば、論文や口頭発表を作成するときに自然と「何を」「何故」「どうやって」の順番で説明をできるようになるはず。
ちなみに、私が話していて一番イライラする人の代表が「何を」をなかなか言わない人。「何故」とか「どうやって」から話し始められると悶絶しそうになる。