メモ:成人年齢引き下げにともなうAV出演強要被害の拡大防止対策について

ある法律を変えると玉突き的にいろいろと影響がでるのだなと感じた次第。あと、AV出演強要被害者とその支援者をだしにしてAV業界擁護と見せかけたフェミニストバッシングは一体なんなの?それはそれは、これはこれで落としどころ考えればよいじゃない。

昨今のAV出演強要被害の実態

3/30: 高校生のAV出演“解禁”、成人年齢の引き下げで「暗黒の春が訪れる」。救済求めて与野党議員に要望
www.huffingtonpost.jp

だが民法改正で4月1日から成人年齢が18歳に引き下げられることに伴い、政府はAV出演であっても「未成年者取り消し権を行使できる者を18歳、19歳まで拡張することは困難」との見解を示した。これにより、親の同意の有無に関わらず未成年取り消しが使えなくなる。

4/4: 東京新聞:これではAV出演強要を防げない…「未成年者取消権」使えず 政府・国会は一刻も早く法整備を
www.tokyo-np.co.jp

金尻さんらは2014年から、この問題を訴えてきた。では、政治の側は気付いていなかったのか。

実は、成人年齢を引き下げる民法改正案を審議していた18年6月。当時の上川陽子法相は「(AV出演強要について)現行制度で、十分か否かは、政府も検討を続けなければならない喫緊の課題だ」「法的体制、対策も含めて検討し、実現してまいりたい」と答弁していた。

だが、その後、政府や国会では立法化の具体的な取り組みはなかった。与野党が議員立法の検討を始め、国会でも取り上げられるようになったのは3月下旬になってから。ある野党議員は「この問題の深刻さを把握するのが遅れた」と反省する。

4/6: 成人年齢引き下げでAV出演強要被害が拡大?|4月から民法の成人年齢引き下げで18~19歳のAV出演強要が深刻化する懸念。「未成年者取り消し権」とは何か(4/6)#ポリタスTV
youtu.be

AV利用者である私も「ずーん」となってしまう内容。論破コミュニケーションの極北といった感じで超絶ブラックに、組織だって、若者搾取している実態がわかる。40代男性の私だって、ここで紹介されている事例どおりに勧められたら、契約断り切れないような気がする。

この状況があるならば、もともとの訴えかけである「成人年齢引き下げにともなう18~19歳のAV出演強要被害を防ぐ措置」は(対処療法的だけど)妥当だと思う。

超党派による法案提出

3/23: 毎日新聞
mainichi.jp

4月から成人年齢が18歳に引き下げられることに伴い、18歳や19歳がアダルトビデオ(AV)への出演強要被害を受けた場合、特例的に未成年として契約を取り消すことを認める議員立法を目指す緊急集会が23日、国会内で開かれた。自民、立憲民主、公明、共産の与野党議員有志が出席。超党派による議員立法を検討する見通しとなった。

4/14: 毎日新聞:新成人AV強要、今国会で法整備 PT初会合
mainichi.jp

自民、公明両党は13日、若者のアダルトビデオ(AV)出演に関するプロジェクトチーム(PT)の初会合を国会内で開いた。民法改正で4月1日から成人となった18、19歳が、自らの意思に反してAV出演を強要される被害を防ぐための法整備を急ぐことを確認。野党を交えた超党派で特例法案を今国会に提出し、成立させたい考えだ。

4/30: 赤旗:AV出演被害防止へ骨子案
www.jcp.or.jp

アダルトビデオ(AV)への出演契約の被害を防止する法案づくりが超党派で進められています。26日には超党派の国会議員の会合が開かれ、日本共産党の本村伸子衆院議員、山添拓参院議員が出席。28日にはたたき台となる骨子案が示されました。制作者に書面での契約・明示・説明・交付を義務付け、撮影終了後一定期間は無条件で契約を解除できることなどを盛り込んでいます。骨子案をもとに与野党で議論を進め、合意できれば議員立法として今国会に提出する予定です。

骨子案では、制作者が作品がAVであることや撮影の具体的内容・撮影場所などを書面で明示し、出演契約を結ぶよう義務付けます。契約解消のルールや出演者が特定される可能性などの書面での説明も義務付け、違反した場合は契約を取り消すことができます。映像の販売停止を求める「差し止め請求権」も検討します。

AV出演をめぐっては、4月からの成人年齢引き下げに伴い「未成年者取り消し権」を18、19歳が行使できなくなり、問題になっていました。今回の法案は、未成年者取り消し権復活は見送り、全年齢を対象に同様の法的効果が得られる枠組みを目指すとしています。

支援団体の反対

AVの法律上の定義として「性交または類似行為を行う姿態」とすることによって、従来は脱法的に黙認されてきたものを合法的なものととらえてしまうという点に懸念して反発がでている。

5/11: 毎日新聞:新成人AV出演強要防止へ 与野党、月内の法案提出方針を確認
mainichi.jp

アダルトビデオ(AV)の出演強要被害を防止するための法整備を目指す与野党6党は11日、国会内で会合を開いた。自民、公明両党が示した、撮影から一定期間は無条件に契約を解除できるなどとする法案を協議した。与野党は今国会中の成立に向け週内の合意を目指すが、被害者支援団体は「性搾取を合法化する」と猛反発。超党派の枠組みにほころびが生じる可能性もある。
~略~

法案は、出演契約を交わしてから20日間が経過しなければ撮影はできない▽撮影後3カ月が経過しなければ作品を公開できない▽無条件に契約解除できる期間は公表から1年間▽契約の不実告知には3年以下の懲役――などの内容。野党側も期間の延長を求めるものの、法案の方向性におおむね賛同している。

だが、支援団体は法案への批判を強めている。9日に6党が実施したヒアリングでは、18、19歳について無条件・無期限の契約解除権の導入を求め、法案がAVを「性交または類似行為を行う姿態」などと定義したことを問題視する意見が相次いだ。NPO法人「ぱっぷす」の中里見博副理事長はヒアリング後、「性行為に金銭が支払われる行為が合法化されることになる」と訴えた。

5/11 朝日新聞:AV対策新法に「待った」 性行為の撮影、合法化しないで
digital.asahi.com

――AVの撮影では実際に性行為が行われていると考えられます。

 岡さん 今、AVは脱法的な存在だと、私たちは捉えています。お金を払って、性行為が行われる。売春防止法に抵触するようにも思えます。ところが、AVを撮影・制作する側は、①不特定の人との性行為ではない②性行為そのものではなく、AVに出ることへの対価である、といった理由を付けて売買春を禁じる法律の網をかいくぐり、「違法ではない」と主張してきました。

 何よりもこれまでAVを規制する法律がなくて違法とは言えなかったわけです。合法ではないが、違法とも言い切れない。そんなAVを、社会も黙認してきました。

5/12 毎日新聞:AV対策法「性行為に金銭支払うことを合法化」 支援団体の懸念
mainichi.jp

まず危惧しているのは、AVの定義に「性交」が明示された点だ(表参照)。

「被害の根源である実際の性交の撮影・販売を合法化することになる。このままでは被害が防げないのは明白」。そう指摘するのは、AV出演を巡る被害者らを支援するNPO法人「ぱっぷす」副理事長で法学者の中里見(なかさとみ)博氏。「法案は確かにさまざまな規則を定めており、仮に全ての業者が条項を守ったら出演強要の被害は起こらないかもしれません」。しかし、と中里見氏は続ける。「出演強要は被害の一角で、実際の性交を含む性行為がなされる以上、心身が傷つく被害者は絶えないでしょう。この新法案では、法を守れば性交の撮影・販売による被害はないことになってしまいます」。そのため、AV出演者らの告訴・告発など被害を訴える行為を抑止しかねないとも懸念する。

売春が違法なのに映像を通すと合法になるといったらそりゃ変な話ではある。そもそも論ととりあえぅの対処がバッティングする点。

とりあえず法案提出の見込み

5/13 東京新聞:AV出演「契約解除は発売後2年以内」で与野党合意 法施行後2年間の経過措置 その後期間延長の余地も
www.tokyo-np.co.jp

ダルトビデオ(AV)に出演した被害者を救済するため、与野党の実務者は13日、被害者が申し出れば全年齢を対象に契約を自由に解除できるとする新法の素案をまとめた。業者には商品回収や動画削除など原状回復義務を課した。解除できる期間は原則1年以内だが、経過措置として法施行後2年間は2年以内とした。今国会中の成立を目指す。

与党は解除期間を1年以内にする考えだったが、野党は「解除期限が短すぎる。被害者の救済にならない」として18、19歳に限り5年にするよう求めていた。法律には経過措置の2年で内容を見直すと明記されたため、解除期間が1年では短いと判断すれば、解除期間が延びる余地を残した。

被害者支援に取り組むNPO法人「ぱっぷす」の金尻カズナ理事長は「(18、19歳の解除期間が)5年にならなかったことは残念だが、今後の被害救済に期待が持てる内容」と一定の評価をした上で「積み残された課題もある。国会で引き続き被害者救済の検討を進めてほしい」と求めた。

当面の措置としてはよかったんじゃないかと思う。

ポルノの定義ってないの?

今回の一連の流れを見て思ったのは「ポルノって法律上で定義されていないの?」ということ。児童ポルノは以下のように定義されている。

www.police.pref.osaka.lg.jp

児童ポルノについては、「児童買春・児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」(平成26年6月に法律名が改正されました)第2条第3項で次のとおり定義されています。

「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、以下のいずれかに掲げる児童(18歳に満たない者をいう。以下同じ。)の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。

一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものでありかつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの(三は平成26年6月に改正され定義が明確化されました)

この定義なら3番目が1も2も含むとおもうのだけど、なんで、1と2が必要なんだろう。服を着たまま性交すると3の条件を満たさないから?これの大人も含めたバージョンも定義があった。リベンジポルノに対応するための法律。

私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律
elaws.e-gov.go.jp

第二条 この法律において「私事性的画像記録」とは、次の各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像(撮影の対象とされた者(以下「撮影対象者」という。)において、撮影をした者、撮影対象者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者(次条第一項において「第三者」という。)が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものを除く。次項において同じ。)に係る電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。同項において同じ。)その他の記録をいう。
一 性交又は性交類似行為に係る人の姿態
二 他人が人の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下この号及び次号において同じ。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
2 この法律において「私事性的画像記録物」とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、前項各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像を記録したものをいう。

今回のいわゆるAV新法で登場した「性交又は性交類似行為に係る人の姿態」はこの流れで登場しているのだと思う。

この法律は運用上AVを対象外としている。
www.npa.go.jp

いずれも、本人が第三者に見られることを認識した上で撮影を許可した画像(アダルトビデオ、グラビア写真など)は除かれます。

脱法的ともいえるけど、「撮影対象者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者(次条第一項において「第三者」という。)が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものを除く。」と断っているのでAVはすでに合法化されているようにも読める。

被害を受けた人とそうでない人の意見が異なるのは当たり前

AV強要被害者やその支援者がAV自体がない方が良いと考えるのは当たり前の話。一方でAV利用者やAV業界関連者がAV廃止に反対するのもそれはそうだなと。
AV廃止に反対するからといってAV強要被害をないとするのはよくないので、AV強要被害があると認識した上で落としどころが見つかるとよいなと思う。

ちなみに、AV業界の周辺こそを今回の法律は対象としているのだと思う。
www.bengo4.com

そして、違法行為がおこなわれているのは、機構のコントロールが及ばない「同人AV」などの違法業者などだとして、それら業者への規制が課題だとした。