Science Communication News:巻頭言:寄稿 大学図書館の利用を目的とした制限研究生の導入について

Science Communication Newsの巻頭言に寄稿した。以下、その内容を転載。

本文

みなさま、はじめまして next49 と申します。地方国立大学の計算機科学系学科で助教をしております。このたびは、大学図書館の利用を目的とした制限研究生の導入について提案させていただきます。

大学や研究開発法人、企業に雇用されている専業研究者だけではなく、別の仕事をしながら研究を続ける兼業研究者、どこの組織にも属さない独立研究者や各分野の実務家、そして、サイエンス・コミュニケーター(以下、独立科学者と総称する)が、活躍するためには最新の学術論文や、既に絶版になった専門書に簡単にアクセスできなければなりませんが、現状ではそれが簡単ではありません。

第一に、学術論文は大学の学生あるいは教職員でなければ読むことができない状況になっています。電子ジャーナル化が進み、かつ、出版社と図書館の間でのライセンス契約(契約本数内および契約期間内読み放題)が普及した結果、個人を対象としてライセンス契約がほぼ提供されていません。また、事実上、大学図書館しかライセンス契約を結んでいません。また、ライセンス契約料が高いため(数千万円〜数億円)、大学ごとに読める論文が異なる状態です。結果として、独立科学者は、論文を1篇ごと(3,000円〜)に買うか、大学図書館で閲覧だけさせてもらうか(後述)、諦めるかの3択しかありません。

次に、既に絶版になった専門書についても読むのが簡単でない状況になっています。まず、専門書は基本的に自治体図書館には置いておらず大学図書館の方が収納点数が多いと思われます。また、専門書は、発行部数も少なく、再販もかかりにくいため、すぐに絶版になりやすい傾向にあります。結果として、既に絶版になった専門書は大学図書館に所蔵されていることが多くなります。最寄りの自治体図書館から、図書の相互貸出(ILL)を利用すれば良いわけですが、自治体図書館と大学図書館の双方の原因で、簡単には利用できない場合もあるようです。また、大学によっては学外者に対する大学図書館の利用を制限している場合もあります(後述)。

学術論文や絶版になった専門書の利用の観点から、独立科学者も大学図書館を利用したいわけですが、大学の学生や教職員(学内利用者)と学外利用者では、大学図書館の利用について区別を設けている例が多いです。たとえば、入館許可、貸出許可、貸出点数、貸出期間、学内LANの利用、電子版学術論文の閲覧許可と印刷/ダウンロード許可、ILLや文献複写などのサービスの提供について違いがあります。

特に電子版学術論文の利用については、想定閲覧者数がライセンス契約料に関係するため、現在の厳しい財政状況では、誰でも利用を許可できるようにはできません。また、他のサービスについても学外利用者に同等の権利を与えるということは、その分のコストを学内利用者に転嫁することになるので安易には実施できません。

上記の認識の下で提案したいのが「大学図書館の利用を目的とした制限研究生制度」です。これは、従来から大学にある研究生の制度を図書館と学内LANの利用に特化したものです。

従来の研究生制度は、指導教員の下で研究を行うための制度であり、大学と所管と学内LANの利用を目的とした人にとっては、金銭的コスト(関東の国立大学法人では年間約36万円)や手続きコスト(指導教員の選定と受け入れてもらうための交渉、研究に関する各種報告)が高すぎます。そこで、権利を制限し、コストを下げます。

大学図書館の利用を目的とした制限研究生は以下のようなものにすることを提案します。

  • 基本的に制限研究生は半期ごとの入学(契約)とする。
  • 制限研究生の受け入れは以下の点がクリアできれば基本的に受け入れる ものとする。すなわち、指導教員を不要とする。1) レンタルビデオ屋で会員証を つくれる程度の身分証明書を持っている。2) 授業料が半期分前払いできる (授業料免除を認めない)
  • 授業料は半期3万円〜6万円(年間6万円〜12万円)とする
  • 学割は出さない
  • 在学証明書は出さない(留学生のビザ対策にさせないため)
  • 図書館の利用は博士課程学生と同等にする
  • 学内LANの利用権を与える(ただし、契約期間が終わったら失効)

私は、図書館業務や大学業務の専門家ではありませんので、この制度の導入によりどれぐらいのコストが増えるのか正確には見積もることができませんが、ほとんどの大学に研究生制度がありますので、事務手続きは研究生のものを流用すれば、新たに発生する作業をほぼないと考えています。

また、図書館の利用や学内LANの利用も学籍が発生した後は、普通の研究生や学生と同じ扱いで良いので負担はないでしょう。資料に関する各種制約も、学内利用者ですから無視できます。

さらに、授業料が年間6万円〜12万円なので、本当に使いたい人だけがこの制度を使うことが予想されます(ディズニーランドの年間パスポートが7万5千円くらいです。楽しいディズニーランドすら、みんなが年間パスポートを持っているわけではありません。まして、大学図書館では)。なので、利用者の爆発的増加を恐れなくても良いと思います。

論文のオープンアクセス化や、電子書籍の利用、自治体図書館と大学図書館国立国会図書館の有機的連携を視野にいれている方は、この制度が対症療法にみえると思いますが、そのとおりです。しかし、論文のオープンアクセス化などと提案した制度は同時に実施可能です。この制度は論文のオープンアクセス化などが実現するまでの期間に独立科学者を援するための制度です。

以上、ながながと提案してきましたが、この提案を議論のたたき台として独立科学者が一定の手続きの下で大学図書館を学内利用者と同等に使えることについて、みなさまの間で議論が始まるとうれしく思います。

最後に、以上の提案は3月末にTwitter ( http://www.twitter.com )で行った議論に基づき私のブログでまとめたものを要約したものです。より詳しく説明したものをご覧になりたい方は、以下のWebページをごらんください。

追記

はてなブックマークのコメントより

  • Cunliffe 「在学証明書は出さない(留学生のビザ対策にさせないため)」いい提案だとは思うけどこれがよくわからない。就学ビザ取っただけで働けるほど今の法制度甘くないと思うけど。

ちょっと詳しいことは分からないのですが、在学証明書があれば資格外活動許可書がとれるのでアルバイトができると思います。また、日本に滞在する資格も当然得られますので、これを求める留学生が殺到してしまう可能性がありますと、大学もこの制度を実施したくなくなると考え、この条件をつけました。

  • 図書館相互協力の話がないけどILLや紹介状発行も院生と同じという理解でよいのだろうか。あと試験期間の利用は市民利用者同様制限したい大学があるかも。

はい、同じです。試験期間の利用制限に関しては学生と同様の制限で良いと考えています。