何で最近の田中芳樹作品を楽しめないのか?

田中芳樹作品が大好きだったのに中国ものを除いて最近のものはどうも面白くない。紅の勇者オナー・ハリントンシリーズを読んでその疑問が解決した。理由は、ドキドキ感が薄くなったためだ。

最近(っていってもここ2,3年だけど)読んだ田中芳樹作品は以下のとおり

奔流と天竺熱風録は面白かった。でも、残りはアルスラーン戦記ですらちょっと残念な感じ。理由はドキドキ感。薬師寺涼子シリーズや創竜伝の10巻以降で顕著になるのだけれども、主人公チームは基本的に無敵で、絶対に負けない。ピンチに陥ったという表現があったとしても、たいした努力なしに余裕で挽回してしまう。なので読んでいてどうもドキドキしてこない。それに加えて、主人公たちが時事問題なんかに批判を加えたりするのでどうしてもさらに物語のテンポが落ちてしまう。この時事問題への批判が自分の意見と同じならば「さすが涼子さま、スパッと我々のいえないことを言ってくれる!!」となるのだろうけれども、私はたいてい意見が異なるというかWebのブログでそういう意見は多種かつ大量に見れるのでいまさら感があって、賛同できない。なので、あんまりそこいらへんでカタルシスを得られない。

大好きで何回も何回も読み返しているアルスラーン戦記も再開後はちょっとパワーダウン。理由は、アルスラーンたちが強すぎる。負ける気がしない。どうも、ここ最近のアルスラーン戦記は隋唐演技のような感じで個々の脇役までエピソードにしすぎているような気がする。しかもそういうエピソードで注目されたものたちはほとんどの場合不幸な目にあわない。不幸なのはギスカールとザンデだけ。再開後で一番面白く感じたのはギスカールとヒルメスのエピソード。うまくいかないかもしれない感がありドキドキした。

最近読み始めてはまっている紅の勇者オナー・ハリントンシリーズはタイトルやカバー絵、あらすじと異なり軍事物。軍事物なので、バシバシと味方に戦死者がでる(ちょっと、出すぎだけれども物語の設定からするとしょうがない、あとマンネリ気味かも)。主人公が置かれている状況がいつも異なり、でも、絶望的なのでどうやって最後は生き残るか(勝つといえない終わり方も多い)目が離せない。同じく最近最新刊が出るのを待ち遠しく待っている真実の剣シリーズ(1〜4部5〜7部)では、主人公たちは完成されているけれども、無敵感は少ない。7部まででているけれども、主人公が囚われの身になったのが2回、ヒロインがさらわれること数知れずといういじめられっぷり(ヒロインがレイプ or 殺害されそうになること数回。なんどドキドキしたことか)。最後は勝つことを信じているけれども、どうやって勝つのかは検討もつかない。だから、ドキドキする。

銀河英雄伝説、マヴァール年代記、創竜伝の8巻ぐらいまで、夏の魔術シリーズ、アルスラーン戦記の7巻まで、タイタニアはとても面白かった。中国ものもたいていは好きだ。これらの特徴は、先が読めない点にある。特に銀河英雄伝説、マヴァール年代記、アルスラーン戦記は、勝つときもあれば負けるときもあるという歴史そのもののように思えた。なんせ、魔術師還らずだし、王太子は追放されるし、タイタニアは分裂するし、耕平兄ちゃん役立たずの一般人だし。でも、最近の竜堂4兄弟、ナルサス&ダリューン、涼子さまは強すぎる。そして、彼らが全能力を駆使して読者の予想も使いないような形で勝利を収める展開はなさ過ぎる。余力のある状態で余裕を持って勝つパターンばかり。だから、どうにもドキドキしない。

主人公チームが無敵の場合は、主人公チームが直面する状況や敵役、制限条件などを一生懸命いじくらないとどうやってもドキドキ感が失われちゃうので難しい。たとえば、 鬼平犯科帳シリーズなんて長谷川平蔵はほぼ無敵だから、シチュエーションをいろいろと変えてバリエーションを出した。剣客商売も同じ(でも、最後の方は無敵すぎてマンネリ気味のような気がしたけど)。

田中芳樹作品が好きなので出たら買って読むけど、もう少し主人公チームが全知全能を傾けてやっとこさ生き残れるようなシチュエーションにしてほしいなぁと思う。ナルサス&ダリューンがいてもどうにできなかったアンゴラス王の偉大さがよくわかる。ナルサスが戦略的に、ダリューンが戦術的に失敗し、それをアルスラーンや他の十六将が奮闘し挽回してみせる熱い展開を待ち望んでいる。

同じような理由で、高校生まで好きでよく読んでいた菊池秀行作品も面白く感じなくなってしまったので最近は読んでいない。水戸黄門的な話を長く続けるのは難しいね。