住民基本台帳の一部閲覧に関する考察

TVのニュースで、住民基本台帳を悪用して、成人男性がいない、かつ、女子児童がいる家庭を探しだし、中学生の少女にわいせつ行為をした男性を逮捕というニュースが報道されていました。

読売新聞:住基台帳閲覧し母子家庭狙う、強制わいせつ男を再逮捕
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20050309i114.htm

名古屋テレビ名古屋市で家に上がりこみ中学生の少女にわいせつ行為した男を逮捕 住民基本台帳閲覧し女性ばかりの家庭を狙う
http://nagoyatv.com/LanDB/jsp/NewsH0200/NewsH0200.jsp?id=13645

TBS:住基台帳を悪用して男が少女に乱暴
http://news.tbs.co.jp/20050310/headline/tbs_headline1148742.html

それで疑問に思ったのは「なぜ、住民基本台帳の閲覧で女性ばかりの家庭がわかるんだ?」ということです。

住民基本台帳法によると住民基本台帳に記載される内容は以下のとおり
出典:houko.com:住民基本台帳法

住民票の記載事項)
第7条 住民票には、次に掲げる事項について記載(前条第3項の規定により磁気ディスクをもつて調製する住民票にあつては、記録。以下同じ。)をする。

1.氏名

2.出生の年月日

3.男女の別

4.世帯主についてはその旨、世帯主でない者については世帯主の氏名及び世帯主との続柄

5.戸籍の表示。ただし、本籍のない者及び本籍の明らかでない者については、その旨

6.住民となつた年月日

7.住所及び一の市町村の区域内において新たに住所を変更した者については、その住所を定めた年月日

8.新たに市町村の区域内に住所を定めた者については、その住所を定めた旨の届出の年月日(職権で住民票の記載をした者については、その年月日)及び従前の住所

9.選挙人名簿に登録された者については、その旨

10.国民健康保険の被保険者(国民健康保険法(昭和33年法律第192号)第5条及び第6条の規定による国民健康保険の被保険者をいう。第28条及び第31条第3項において同じ。)である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの

10の2.介護保険の被保険者(介護保険法(平成9年法律第123号)第9条の規定による介護保険の被保険者(同条第2号に規定する第2号被保険者を除く。)をいう。第28条の2及び第31条第3項において同じ。)である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの

11.国民年金の被保険者(国民年金法(昭和34年法律第141号)第7条その他政令で定める法令の規定による国民年金の被保障者(同条第1項第2号に規定する第2号被保険者及び同項第3号に規定する第3号被保険者を除く。)をいう。第29条及び第31条第3項において同じ。)である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの

11の2.児童手当の支給を受けている者(児童手当法(昭和46年法律第73号)第7条の規定により認定を受けた受給費格者をいう。第29条の2及び第31条第3項において同じ。)については、その受給資格に関する事項で政令で定めるもの

12.米穀の配給を受ける者(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成6年法律第113号)第40条第1項の規定に基づく政令の規定により米穀の配給が実施される場合におけるその配給に基づき米穀の配給を受ける者で政令で定めるものをいう。第30条及び第31条第3項において同じ。)については、その米穀の配給に関する事項で政令で定めるもの

13.住民票コード(番号、記号その他の符号であつて総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)

14.前各号に掲げる事項のほか、政令で定める事項


また、この基本台帳写しの閲覧に関しては第十一条に記載されています。

住民基本台帳の一部の写しの閲覧)
第11条 何人でも、市町村長に対し、当該市町村が備える住民基本台帳のうち第7条第1号から第3号まで及び第7号に掲げる事項(同号に掲げる事項については、住所とする。以下この項において同じ。)に係る部分の写し(第6条第3項の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製することにより住民基本台帳を作成している市町村にあつては、当該住民基本台帳に記録されている事項のうち第7条第1号から第3号まで及び第7号に掲げる事項を記載した書類。以下この条及び第50条において「住民基本台帳の一部の写し」という。)の閲覧を請求することができる。

2 前項の請求は、請求事由その他総務省令で定める事項を明らかにしてしなければならない。ただし、総務省令で定める場合には、この限りでない。

3 市町村長は、第1項の請求が不当な目的によることが明らかなとき又は住民基本台帳の一部の写しの閲覧により知り得た事項を不当な目的に使用されるおそれがあることその他の当該請求を拒むに足りる相当な理由があると認めるときは、当該請求を拒むことができる。

これによれば、氏名、生年月日、性別、住所に関する住民基本台帳写しを理由を明らかにすれば自由に閲覧できるようです。(何人もというのは、外国籍の人でもO.K.なのかな?)

また、情報公開クリアリングハウスとコンピュータ合理化研究会の調査によれば、住所順、世帯順で住民基本台帳の一部写しを作成しているそうです。

情報公開クリアリングハウス:自治体から流出する個人情報 悪徳商法業者も閲覧―住民基本台帳
http://homepage1.nifty.com/clearinghouse/news/news2005/news050223.html

たしかに、この4つの情報がわかり、かつ、それが一覧にされているのであれば成人男性のいない家庭をすぐに割り出すことができるという事実に納得します。

TBSのニュースに記載されている名古屋市の職員の談話では、

「このような形で悪用されるとは予想していませんでした。緊急の対応として本日から申請者の本人確認をすることにしました。(Q.今まで本人確認はなかった?)行っておりませんでした。何人も閲覧できるという法律の規定がありますので、あえて申請者の本人確認をする必要はないと」(名古屋市地域振興部・宿利博明区政課長)


と述べられています。

平成16年5月に総務省から出された省令によれば、DV被害者やストーカー被害者が申し出れば、申請者に関する住民基本台帳からの一部写しの閲覧を制限できるそうです。

総務省:報道資料:ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等の被害者保護のための住民基本台帳事務における支援措置の実施
http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/040531_6.html

上記の総務省の省令は、全部の自治体で施行されるので名古屋市でも実行されているはずです。(Googleによれば、愛知県蒲郡市では施行されています)

それでは、上記DVとストーカー被害者による申請でしか、基本台帳一部写しの閲覧の際に本人確認をしないのかとGoogleで検索したところ(キーワード「住民基本台帳 閲覧 本人確認」)、東京都文京区では、住民基本台帳の一部写しの閲覧の際には本人確認と利用目的について証拠も求めているようです。

文京区:住民基本台帳の一部の写しの閲覧
http://www.city.bunkyo.lg.jp/service/koseki-jyumin/jyuminhyoeturan.html

つまり、自治体間で差があるということ。

情報公開クリアリングハウス:住基台帳大量閲覧の運用について総務省に質問とその回答
http://homepage1.nifty.com/clearinghouse/news/news2005/news050228.html


Q2:請求目的に「DMの送付」「教材の案内」「**に関する調査のため」といった記載内容で請求目的や利用が不当なものではないことを確認したと解釈されるのか?

A2:法11条2項で「明示」と定めているので、どのような請求目的で明示したとするかの判断は市区町村の判断になる。総務省は、昭和60住基台帳法が改正された際に通知を出しているが、記載は具体的なものであるべきことを市町村にアドバイスしているが、実際の運用は市町村長の判断に委ねられている。

とのことです。

こんな、事件が発生するならば住民基本台帳の一部写し閲覧を禁止してしまえば良いのではないか?と思うのですが、そうすると困った事態が発生するようです。それは、世論調査・社会調査・市場調査がやりにくくなるのです。

調査対象とする集団の一部の調査結果、その調査対象全体の傾向を調べる方法を標本調査といいます。この標本調査という手法は、世論調査・社会調査・市場調査において幅広く利用されています。標本調査の調査結果が正しいものであるという根拠は、調査対象とする集団全体の傾向とその集団の一部の傾向は同じものであるという仮説です。

このため、調査対象とする集団の一部が特殊な偏りを示す集団であるとき、標本調査の結果は信用できるものとなりません。このような状況を避けるためには、調査対象とする集団の一部を適切な方法で選ばなければなりません。その選択方法として現在最も信頼されている手法は、住民基本台帳からの確率的抽出です。

社団法人日本マーケティングリサーチ協会から発行された``インターネット・マーケティング・リサーチ及び統計的抽出調査に関する調査報告書’’によれば、現在でも回答者を住民基本台帳から確率的抽出した標本調査が最も調査結果に信頼のおけるものであると述べられています。

今のところ回答者を住民基本台帳から確率的抽出するという方法と同じくらいの信頼度のある方法は見つかっていないようです。ですから、住民基本台帳の一部写し閲覧を完全に禁止してしまうと、正確な世論調査・社会調査・市場調査が実行できず、巡り巡って我々にとって不利益が生じます。

これらのことを引っくるめて考えるに、文京区のやり方が現在の段階では最も適切な処置だと思われます。早く全自治体が文京区のようなやり方を実施してくれることを期待します。