個人の謝罪状はパソコンで作成しても良いのでしょ?

武雄市市長の樋渡さんが個人的な住所録をネットで公開していたことの話に関するFacebookでの本人の謝罪エントリーFacebook:樋渡 啓祐:深く反省しています。…についていたコメントが気になった。

これは失敗だとは思いますが、100人に経緯を説明しつつお詫びする手紙を書けば、あまり炎上しなさそう。
さすがに自筆100枚は大変だから署名くらい自筆にするのでしょうか?

選挙で選ばれる公人および公人を目指す候補者になったら、特定多数へ配る文書をパソコンで作れなくなるの?というのが疑問。選挙ナビ - 選挙に役立つ情報サイト:年賀状・寒中見舞・暑中・残暑見舞などのあいさつ状についてを読む限り、あいさつ状をばらまく行為がダメであり、その例外事項として「答礼のための自筆」が挙げられている様子。なので、今回のような多くの人に迷惑をかける行為をした際の謝罪状の作成は認められるでしょう。もし、認められないとしたら公職選挙法の方に問題があると思う。

あと、コメントに

誰でもしてしまうことですから。

というような励ましコメントがあったけれども、100人の住所、名前を無許可でネットで公開するということが「誰でもしてしまうこと」であるのは社会通念上まずいので(そんな社会は嫌だ)、そんなへんてこな励ましコメントはやめた方が良いと思う「失敗はだれにもでもある」ぐらいで止めておいた方が良い。

一方、武雄市が公式に謝罪云々というのはちょっと言い過ぎ。公職選挙法違反も言い過ぎだと思う(こんな方法で市長を止めさせても、良いことはたぶんない)。今回の話が示すのは高々以下のことぐらいだと思う。

  • 個人として情報管理が杜撰であること
  • IT技術に対する理解が足りていないこと(そもそも住所録みたいなものをネットにあげてはいけないということがわかっていない)
  • プライバシー侵害に関する意識が足りていないこと(不特定多数が映りこんでいる写真を誰でも見れる状態で公開してはいけない)

ざっくりまとめると、樋渡さんは情報セキュリティおよびプライバシー保護に関して専門家と同等にやりとりするほどのスキルはないということが分かったということだと思う。別に市長というのは情報セキュリティおよびプライバシー保護に関する専門家として市民に選ばれた存在でないので、これは市長という職務において何の問題もない。一般的にはこうだから、最高情報責任者(Chief Information Officer、CIO)を各種組織に置きましょうという話になっているわけだし。市長としての樋渡さんに期待している人が、今回の件をそれほどの問題ととらえずに、樋渡さんを応援したり励ましたりするのは当然のこと。全然おかしくない。

ただし、樋渡さんは情報セキュリティおよびプライバシー保護に関して専門家と同等にやりとりするほどのスキルはないということが分かったのだから、この分野の話に関しては、樋渡さんの発言について眉につばつけて聞くのが、適切な振る舞いだと思う。そして、IT技術関連のアドバイザーがいるのならば、もう、樋渡さん自身に情報セキュリティおよびプライバシー保護に関する話をさせてはいけないと思う。今後も、樋渡さん自身に情報セキュリティおよびプライバシー保護に関する話をさせ続けるのだとしたら、IT技術関連のアドバイザーはアドバイザーとしての役割を果たしていないと理解して良いと思う。

高木浩光@自宅の日記:やはり欠陥だった武雄市の個人情報保護条例で指摘されていることは、何がプライバシー情報かについてちゃんとわかっていますよと言っていたのに、武雄市職員にそれを徹底できていなかった、および、本人もちょいちょいわかっていない発言を繰り返していることが問題なのに、それへの返答の高木浩光先生、やっぱり間違っています。もっと勉強してください。では、条文解釈の話について答えている。市長がわかっていても、現場や発注担当職員がわかっていなければ、本来はプライバシー情報だから慎重に扱われるものについて「個人情報でないから問題ないです」と扱ってしまうから問題なのに。

さらには、委託予定のCCCはTポイントツールバーの例(参考:高木浩光@自宅の日記:Tポイント曰く「あらかじめご了承ください」)でわかるように、黒に近い灰色のラインでもプライバシー情報を集めようとしている会社なのだから(と考えられてもしょうがない振る舞いをしてしまった会社なのだから)、武雄市側がきっちりとプライバシー情報を守るという姿勢をみせなくては、誰も安心できなくなってしまう。

一人の人間がなんでもできる必要がないんだから、不得意なことに関しては信頼できる専門家に委託して助け合いながら理想の実現を目指すのが良いと思う。まさにIT技術関連のアドバイザーの正念場。

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