学術論文における未発表の定義と論文の種類

keitabandoさんとメールのやりとりをしたときに述べた、私の考える学術論文における未発表の定義と論文の種類についてせっかくなのでエントリーにしてみる。


私の見聞きした範囲で考える学術論文の未発表の定義は大きく分けて以下の3つ。

  • A.一番厳しい意味の未発表
    • 「ある成果(実験結果、新しい概念、新しいアルゴリズムなど)をいかなる媒体、いかなる形式でも公表していない」
  • B. 学術雑誌や国際・国内会議に投稿する際の未発表(一般的な未発表)
    • 「ある成果(実験結果、新しい概念、新しいアルゴリズムなど)を特定の発表媒体(雑誌、会議録、Webにおける公開)で特定の形式の論文(Full, Short, Abstract, Letterなど)で公表していない」
  • C. 伝統的な科学の世界における未発表(学術的な業績の観点から)
    • 「ある成果(実験結果、新しい概念、新しいアルゴリズムなど)を学術雑誌におけるFull paper(原著論文)として公表してない」

Web上で自分の論文を公表する(Open Archiveや機関リポジトリに登録した)ときに悩ましいのは、それらで公表した各種論文がBの観点から未発表扱いにならない可能性があるということ。計算機科学系では、国際会議も重要な発表の場だと考えられているので、Cの観点では未発表を定義しないと思う(少なくとも私の周囲では未発表はBの定義)。

また、前のエントリ論文の種類の違いでの多重投稿の話はBの定義に基づいている(ちなみに、前のエントリーでは英語とその他の言語では別に考えるというように私は書いたが、情報処理学会論文誌の投稿規程にある未発表論文の定義では言語の違いは考慮しないとあった)

この未発表の考え方と著作権(配布権)の有無は、これまた違うので注意が必要。Springerを含む大手出版社や多くの学術雑誌(e-journalも含む)は、いかなる種類の論文であれ、出版する会議録や雑誌に載せる場合に著作権譲渡契約書の提出を求める。

このため、Cの定義からすると未発表の論文でも、著作権法的には発表済み(他誌掲載)であるため、基本的にはOpen Archiveや機関リポジトリに登録することはできない。一部の出版社は許しているがケースバイケース(なので、最終投稿版の前の原稿 manuscriptを公開するという技を使う人もいる)。

税金を投入した研究成果の公開という観点からアメリカやヨーロッパの一部の国では、日本で言う科学研究費補助金に当たる税金ベースの研究資金で行った研究の研究成果論文は、すべて機関リポジトリに登録することが求められているが、日本はまだこれからの流れ。