はじめに
2016年5月28(土)-29日(日)にかけて新宿の工学院大学で行われる日本科学史学会大会のシンポジウム「ラウンドテーブル:ウィキペディアと科学史――知識とコミュニケーションを考える」にて、授業でWikipedia編集を行わせるときに気を付けるべきことがまとまっていると良いねという話がでました。これを受けてWikipedia:教育プログラムでウィキペディアを執筆するが用意されましたが、私なりに補足したいと思います。
なお、このエントリーはja.wikipediaの管理者の方々、記事執筆者(wikipedian)の方々、授業でWikipedia編集を行わせた方に伺った話をnext49が解釈したものになっております。不適当な部分の責はnext49にあります。また、本エントリーの著作権はnext49が保持し、クリエイティブ・コモンズ 表示(CC-BY)ライセンスの下に提供します。
お願い
私はネット上ではnext49として活動しておりますので、私が誰だかわかってもネット上ではnext49として接していただければと思います。よろしくお願いいたします。
ja.wikipediaの大前提
日本語版Wikipedia(以下、ja.wikipedia)の管理者は完全なボランティア業務です。営利企業のように常時対応できる担当者というものがおりません。このため、何かトラブルが生じたとき、何か要望をしたときに、それに対する対応を誰かが必ずしてくれるとは限りません。本業の合間を縫って、数多くあるトラブルや要望に優先順位をつけつつ、ボランティアの精神の下で管理業務をしている人が複数人いるだけであると認識しておきましょう。
また、「ラウンドテーブル:ウィキペディアと科学史――知識とコミュニケーションを考える」でも話題がでましたが、wikipediansという組織化されて、ある程度の統一的意思決定機構を持つ謎集団は存在しません。Wikipediaを編集するという趣味を持った人が点在し、たまにネットで言葉を交わしているだけです。wikipedianにja.wikipedia改革とか、ja.wikipediaの普及などの役割を勝手に担わせるのはやめましょう。
必ず授業ページを準備すること
授業でWikipedia編集を行わせるときには必ずトラブルが発生し、何時かのタイミングでja.wikipedia管理者と連絡をとるときが必ず来ます。一方で、上述のとおりja.wikipediaの管理者はボランティア業務であり、トラブルに常時対応できる人はおりません。結果として、管理者がトラブルに気づいたときに、当該トラブルの責任をとれそうな人の連絡先を探し出し、連絡することになります。ですので、ja.wikipediaの管理者ができるかぎり簡単に、あなたの連絡先を探し出せるようにあなたの連絡先、今回の授業で扱っている範囲(ページ)、参加している学生(編集者)などを探し出せるようにしておきましょう。
その最初の一歩として、教師は必ずja.wikipediaにアカウントを作成しましょう。
アカウント作成後の具体的なTipsはWikipedia:教育プログラムでウィキペディアを執筆するの以下の部分に該当します。
- 講師側はウィキメールを設定しましょう
- 実施する内容を実施者(教員)の利用者ページのサブページとして作成しましょう
- 受講者一覧を作成しておくと何かあった時に管理者の作業が楽です
ウィキメールというのはja.wikipediaのアカウントを持っている人へのメッセージを、事前に登録したメールアドレスに転送する機能です。管理者が教師に連絡を取りたい場合は、ウィキメールで連絡をとることができます。
また、2番目と3番目はトラブルを起こした生徒/学生から、責任者である教師を見つけやすくするための措置です。受講者一覧を作成するためには生徒/学生にもja.wikipediaのアカウントを作成させる必要があります。
参考として利用者:さえぼー/英日翻訳ウィキペディアン養成セミナーをご覧ください。
生徒/学生のアカウント名と実名を関連付けさせないこと
Wkipediaでは記事を編集した際に「誰が」編集したのかが編集履歴に残ります。このため、授業で生徒/学生がどの記事をいつ、どのくらい編集したのかを評価する際には生徒/学生にja.wikipediaのアカウントを作成させる必要があります。その際に注意すべきことは生徒/学生のアカウント名と実名を関連付けさせないことです。本人がネット上での実名の公表についての利点・欠点について十分に理解し、また、十分な覚悟を持っていない限り生徒/学生にネット上で実名を明らかにさせるべきではありません。また、TwitterやAmazonなどのユーザ名とも重複させないように注意を促しましょう。
具体的なTipsはWikipedia:教育プログラムでウィキペディアを執筆するの以下の部分に該当します。
- アカウント作成の方法とログインの仕方 - Help:ログイン
- twitterなどとつながらないようにするなど、慎重にアカウント名を考えましょう。実名でのアカウント作成はすすめません。
生徒/学生にアカウントを作成させるときは同時に一斉に作成させないこと
多くの学校のネットワークの構成では、校内のパソコン教室や校内無線LANが外部から見ると1つのIPアドレスにまとめられていることが多いです。このため、校内のパソコン教室や校内無線LANから、生徒/学生がアカウントを同時に作成し始めた場合、ja.wikipediaから見ると、1つのコンピュータから連続的に大量のアカウント作成操作が始まったように見えます。この1つのコンピュータから連続的に大量のアカウント作成操作を行うというのは典型的なサイバー攻撃です。このため、ja.wikipediaはサイバー攻撃を防ぐために、そのコンピュータからのデータを遮断します(「IPブロック」あるいは「ブロック」という)。この結果、校内のパソコン教室や校内無線LANからja.wikipediaにアクセスできない or アカウント作成できない or 記事の投稿ができないという状態になります。
具体的なTipsはWikipedia:教育プログラムでウィキペディアを執筆するの以下の部分に該当します。
- アカウント作成の方法とログインの仕方 - Help:ログイン
- 同一IPで同時にアカウントを作成するとMediaWikiの仕様で新規アカウント作成が禁止されることがあります。
実際の運用としては以下のどれかが現実的だと思います。
- アカウント作成締め切り日時を伝えて、それまでに各自でアカウントを作成してもらう
- 各自が持っているスマートフォンから電話回線越しにアカウントを作成してもらう(校内無線LAN経由にしないこと)
- 事前にja.wikipediaの管理者とコンタクトをとり、大量アカウント作成権限を付与してもらった上で、教師が生徒/学生のアカウントを作ってあげる
すでにその学校からja.wikipediaに悪さしてブロック処置がされている場合があります。事前にアカウント作成できるのかも確認しましょう。以下参考ツイート
#jawphos #jawp
— 海獺 (@Racco_Wiki) May 29, 2016
今日、「大学授業でウィキペディアの編集を」の話。
事前に大学などのネットワークから編集が可能か調べるのも大事です。
ちなみに今日の会場である工学院大学はhttps://t.co/JlMrSonJu0
そもそもアカウントが作れない状態です。(続く
#jawphos #jawp
— 海獺 (@Racco_Wiki) May 29, 2016
続き)なぜこのような対処がされているかというとhttps://t.co/Sha1t0oeB8
みたいな形で記録が残ってしまうような何かがあったということです。
この辺が「大学にとって不名誉なことになってしまう」というお話につながる。
このあたりの話がさっぱりわからない場合は、コンピュータに詳しい方(大学なら技術職員、情報~センターの職員、コンピュータ詳しい学生など。高校ならコンピュータ詳しい先生)を授業チームに含めることをお勧めします。ja.wikipediaの管理者の方々、記事執筆者(wikipedian)の方々、授業でWikipedia編集を行わせた方に伺ったことからすると、このトラブルは結構な頻度で発生しています。
生徒/学生にWikipediaの使い方および記事の作成の仕方、ネット上での一般マナーを教えること
私の考えでいえば、いきなり生徒/学生にWikipediaで記事を書けと言っても、その難易度は非常に高いです。生徒/学生の前提知識をよく把握した上で、どの段階から事前学習が必要なのかを検討しましょう。具体的なTipsはWikipedia:教育プログラムでウィキペディアを執筆するの以下の部分に該当します。
事前学習をしましょう
- 以下の文書を実際に読んでおきましょう。
- 記事を作ってみましょう
- 記事名を付けることから記事づくりが始まります - Wikipedia:記事名の付け方
- 記事名を付けたら内容を作ってみましょう - Help:新規ページの作成
- 内容を書き進めていくためには脚注・出典が必要です - Wikipedia:チュートリアル 出典 & Wikipedia:出典を明記する
- ウィキペディアはフリーライセンスです - Wikipedia:ガイドブック 著作権に注意
- 言葉と言葉をリンクでつなぐことで記事をつなぎましょう - Wikipedia:記事どうしをつなぐ
- 記事の最後にはカテゴリとデフォルトソートを付けましょう - Help:カテゴリ & Wikipedia:カテゴリの方針
- すべての編集履歴は間違えて保存しても必ず残っています。削除はできません。 - Wikipedia:荒らし対策 & Help:履歴
上記の他にも生徒/学生の前提知識に応じて、より根本的なところから説明した方が良いかもしれません。
- 共有パソコンを利用する際の注意事項(ログアウトの徹底、検索履歴、入力履歴など)
- 閉じたSNS(FacebookやLINEなどの友達しか閲覧できないWebサービス)と開いたSNS(TwitterやInstgramなど基本的に世界中の人が閲覧できるWebサービス)・Wikipediaの違い
- どのような資料がWikipediaの記事を書く際に信頼できるのか→Wikipedia:信頼できる情報源
- Web上のコミュニケーション(特に文字ベースのコミュニケーション)について→Wikipedia:児童・生徒の方々への「あなたがもし、注意されたら」
- 電子メールの使い方(最近の生徒/学生はLINEなどで連絡し、電子メールを使わないため。ウィキメールの設定や対応時に電子メールが必要)
- トラブル発生時の対応(必ず教師に相談するように伝える)
教師の許可なしには記事の投稿を許さないこと
著作権や言葉遣いの問題などで記事が削除されたり、炎上したりする可能性があります。記事を投稿させる前に教師(あるいは授業チーム)が必ず目を通しましょう。
具体的なTipsはWikipedia:教育プログラムでウィキペディアを執筆するの以下の部分に該当します。
- 事前学習の内容を守りながら、記事の素案を作ってみましょう
- 利用者:利用者名/sandboxに記事を作ってみよう
すべての記事は利用者ページの下にあるsandboxに書き留めさせます。このsandboxの記事を教師および授業チームが確認した上で、sandboxから「移動」機能で新規記事を作成させるようにしましょう。
執筆記事候補は教師が事前に用意した方が良いこと
授業で生徒/学生にWikipediaの編集を体験させるという目的からすると、作成した記事で激論や編集合戦が発生するのは避けたいところです。
- Wikipedia:荒らされやすいページ
- GIGAZINE: Wikipediaで編集合戦が行われている記事主要言語別トップ10
- ノート:関数 (数学)/過去ログ1:激論の例として関数 vs 函数論争
以上のことから、執筆記事候補は教師が事前に用意するのがベストプラクティスだと思います。具体的なTipsはWikipedia:教育プログラムでウィキペディアを執筆するの以下の部分に該当します。
- 執筆記事候補の整理もしくはレベル感の設定をしましょう
- 執筆依頼のリストから選んでみる
- 推薦記事も受け付けてみる
なお、執筆記事候補を列挙する場合には、記事を執筆する生徒/学生にとって精神的負担にならないものを選ぶように注意しましょう(利用者:さえぼー/英日翻訳ウィキペディアン養成セミナーの際にはテロや戦争など暴力とセックスが絡む記事は生徒/学生が翻訳したり、資料を読み込んだりしていくうちに、つらくなってしまいギブアップしてしまうこともあったそうです)。
生徒/学生に提示する適切な記事見本をいくつか用意した方が良いこと
記事を新規作成させる場合は見本となる記事をいくつか用意することをお勧めします。何人かのwikipedianの方からおすすめされたのはWikipedia:良質な記事から見本を選ぶことでした。その中で利用者:逃亡者さんが書いた記事などが長さやテーマ的に良い見本になるのではないかと勧められました。
いくら良い記事だとしても、注釈や参考文献が100近く並ぶような記事地方病 (日本住血吸虫症)を記事見本として提示して、生徒/学生の心を折らないようにしましょう。
具体的なTipsはWikipedia:教育プログラムでウィキペディアを執筆するの以下の部分に該当します。
授業の準備が終わったらTwitterの#jawpに授業の宣伝をすること
何人かのja.wikipediaの管理者やwikipedianが眺めているTwitterのハッシュタグが#jawpとのことです。授業の準備が終わったら#jawpに授業の宣伝をしておきましょう。そうすれば、それとなくja.wikipediaの管理者やwikipedianの方がサポートしてくれるかもしれません。
具体的なTipsはWikipedia:教育プログラムでウィキペディアを執筆するの以下の部分に該当します。
なにかあったとき
- もし質問を受けた時は、必ず返信しましょう。また相手にウィキメールを送ることも方法です
- Wikipedia:管理者伝言板やWikipedia:メーリングリストもあります
- twitterでは#jawpがハッシュタグです