トランザクティブメモリー屋

企業だけでなく、地域社会などにおいても「トランザクテイィブメモリー屋」がいて、アクセスできるようになると良いよね。実際に情報のやりとりを行えるかどうかは人間関係や契約などに依存すると思うけど、アクセスする方法、情報のやりとりをするためのプロトコルなどについてを分散制御的に集約し、数週間〜数ヶ月程度で更新できる仕組みがあると、いろんなことにおいて素敵な社会になるような気がする。「そんなこと、知っている人に尋ねたら5分で済むのに。」とか「ちょっと聞くだけで、そんな悲しい自体は避けられたかもしれないのに」とかありえるものね。

飯田 自分自身がビジネスの現場にいるからでしょうね。事例ってエビデンスにはなりがたいですが、理論を飲み込むための導入剤やオブラートになる。現場にいる人は身をもって事例を知っているから、理論を飲み込みやすいんでしょう。

入山 まさにそうなんです。本でもふれましたが、最先端の組織学習研究で研究されている「トランザクティブメモリー」というものがあります。組織の記憶力のことです。

社内間で情報共有が必要なことは明らかですが、その時に全員が全員の情報を知っている必要はありません。組織の「誰がなんの情報をもっているのか」を知っていればいい、というのがトランザクティブメモリーの考え方です。

最近経営学のトップ学術誌である『アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル』に発表された出新しい学術論文で、組織の全員がそのようなトランザクティブメモリーをもった方がいいのか、それとも組織には「トランザクテイィブメモリー屋」のような人がいて、その人に集約させた方がいいのか、という疑問を実験したものがありました。その結果、後者の方が組織にはいいという結果になったんですね。

飯田 なるほど。ハブがいたほうがいい。

入山 3人に均等にトランザクティブメモリーを与えた場合と、一人だけに集約されて他の人は知らないというグループで共同作業をさせると、明らかに後者の方が能率がいい。

飯田 つまり、「トランザクティブメモリー屋が誰か」を知っていればいいわけですね。

入山 そうです。そこで面白かったのが、その論文が説明する理論メカニズムによると、「トランザクティブメモリーを特定の人に集約させると、その人のふるまいが心理的に変わって、他の人の情報を提供するような行動をとるようになる」という因果関係の説明だったんです。

でも、ボクのゼミ生は自分たちの仕事の経験から、「絶対に因果関係が逆です」といいはじめて。「そういうトランザクティブメモリーの情報があったからって、急にギブアンドテイクするようになるのは、ぼくたちの現場では考えられない。むしろ、そもそもそういう性質をもった人が、トランザクティブメモリー屋になるんだ」と。
〜後略〜

日本のダイバーシティって、ぶっちゃけどうなんでしょう? 『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』著者、入山章栄氏インタビュー(聞き手・飯田泰之)より)