AKB48の経済学

Economics Lovers Liveの韓リフ先生が書いた本。「AKB48で経済学?こじつけかな?」と思ったので読んでみた。結論から言うと、ビジネスモデルの説明として非常にうまい解説で納得した(常に成り立つ理屈かどうかは私にはわからない)。

ポイントは

  • AKB48というプロジェクトは、先行プロジェクト「おにゃんこくらぶ」の経験と反省と、現在の経済状況を把握した上で構築されたきっちりとしたビジネスプロジェクトであること
  • プロジェクトの大前提が「不況である」こと
  • 芸能界の入口があいまいであること、人気を誰が作るかがあいまいであるという点を問題視し、そこを透明化していること
  • ファン、AKB48メンバー、プロダクション、コンテンツプロバイダーの誰もがそれなりの利益を得られるようにしている、あるいは、損害に対するセーフティーネットを設けていること
    • AKB48の仕組みは大相撲の部屋制度とよく似ていること(芸能プロダクション、AKB48プロジェクトという二重構造でリスク分散している)
    • コアなファンによる消費でエコサイクルが回るように設計されている
    • 専用劇場を設けることでテレビなどのマスメディアでとりあげられなくなっても、やっていけるように設計されている
  • 問題点として入口はうまく設計できたが、出口がうまく設計できていない

途中に登場する日本型雇用システムについては以下のように説明されていた。

  1. 内部と外部では待遇の差が歴然としている
  2. 外部から内部に入るハードルは高い
  3. 一度、内部に入ると生活がつづけられる程度の仕事が供給される
  4. 年齢が高いほど仕事がこなせるので、給与が高くなる傾向にある

現在のAKB48の人気のあるメンバーが上記のような特徴を示しているとのこと。でも、労働者一人一人からしてみると雇用が確保されていないので、これを雇用システムの特徴というのはちょっと違うような気がする。日本型労働市場の特徴といったほうが適切なような気がした。

ABK48の経済学を読んで考えたことは、日本のアカデミックキャリアの話。テュニアトラックやポスドクの話は、AKB48のシステムでいうと入口改革の話。大学教員や職業研究者になる入口の部分の曖昧さ、不透明さを無くし「私でも挑戦できるかな」と思わせ、人を呼び込む。でも、アカデミックキャリアの話で重要なのは、進路変更と出口の話だと思う。

AKB48モーニング娘などは、10代前半〜20代前半までを対象として呼び寄せ、ふるい落とす。この年齢ぐらいだと大学進学があるので進路変更は比較的容易なのだと思う。一方で、アカデミックキャリアの場合、進路変更を考える段階が20代後半〜30代前半になる。ここでの進路変更がこれまでの自分のキャリアを全否定するしかないと、進路変更は容易でない。いままでのキャリアを20%ぐらい活かせる進路変更ができるようにしないといけない。

また、AKB48もうまくできていない出口の部分。すなわち、AKB48から卒業に対応する。研究者からの卒業の部分もなかなか難しい。研究能力および意欲は、分野と個人差が激しいので年齢で一律に研究者から卒業させるのはうまくない。また、研究者は研究する自分が一種のアイデンティィになっていることが多いと思うので「研究をやめなさい」といわれるのは人格否定されたような感じを与えてしまう可能性もある。

給与の問題については、教授職につけば年間800万〜1000万円の給与が10年ぐらい続くので、それほど細かいこだわりはみせないと思う。「お前は、もう研究者として役にたたない」というレッテル張りがプライドを傷つけるのだと思う。また、研究を行うために必要な場所、機材、人材へのアクセス手段を取り上げられるというのも反発の原因なのだと思う。

プライドを傷つけず、かつ、研究を続けられる優秀な人材をキープしつつ、かつ、ポストを空けるためには、60歳以上向けのシニアポスドク制度を用意したらどうだろう。シニアポスドク制度を用意した上で、日本の大学および国立系の研究機関は大学教員および研究者の定年を60歳とする。

このようにすれば、シニアポスドクに応募する気力の無い方についてはリタイアを促せるし(周りに対しても研究を継続しなかった言い訳がたつ)、気力と能力がある方々は、気力が尽きるまで研究者として活躍してもらうことができる。

また、研究を続ける気力はないけど、食い扶持を稼がなければならないという人たちにむけて、リサーチアドミニストレーター職を提供できれば、人材の有効活用が可能ではなかろうか。

止まれ。AKB48の経済学は、このようにいろいろと私に考えるネタをあたえてくれた良い本だった。