はじめに
論文や発表資料の第0稿を作り終わってから悩むことの一つに何をどこまで書いたら(説明したら)良いのかというのがある。まず、この何をどこまで書いたら良いのかという疑問を感じた自分を褒めよう。あなたは、結構まじめに研究している!この疑問を感じなかった人は、たぶん、自分が行っていることへの理解が足りない。
大原則は「自分のやったことが一番輝くように情報を適切に配置する。輝きに貢献しない情報は削る。」
後ろから考える
まず、この論文や発表の読者(聴衆)は誰なのかを具体的に想起する。
- 年齢はどれくらいか?
- 前提知識をどこまで持っているのか?
たとえば、卒業論文の場合は、以下のようになる。
- 読者は同学年の学部4年生
- 前提知識は同学年の学部4年生が平均的に知っていること(自分の学科・学部のカリキュラムで教えられている内容)
次に論文や発表で一番伝えたいことをはっきりさせる。ほとんどの論文や発表は、ある解決すべき問題に対して、解決法を提案し、解決法によってどれくらい問題が解決できたのかというのが一番伝えたいこと。伝えたいことは以下のようにまとまるはず。
- なんらかの結果
- その結果は何を意味するのかの解釈
- 結果と解釈を合わせて、それが問題解決にどのようにかつどれくらい貢献したのかの説明
- 解決すべき問題とその重要性
IMRAD(Introduction, Method, Result, Abstract, Discussion)の構成から言えば、「何らかの結果」と「その結果は何を意味するのかの解釈」はResultに配置する。「結果と解釈を合わせて、それが問題解決にどのようにかつどれくらい貢献したのかの説明」はDiscussionに配置する。そして、「解決すべき問題とその重要性」はIntroductionに配置する。
この4つのことを読者(聴衆)に完璧に理解してもらえれば、あなたの研究成果は完璧に理解してもらえる。あとは、与えられたページ数や発表時間内で、これら4つのことが完璧にわかるための情報を提示するだけ。また、上記の説明の理解の手助けになる図、表、数式、擬似コードを適切に配置する。
このように伝えたいことから逆算して、説明すべきことを考えると何を説明し、何を説明すべきでないか。どのくらいまで詳細に説明するべきかもはっきりする。
例
たとえば、以下のようなことを説明したい場合を考える。
- 結果:アルゴリズムAがアルゴリズムBよりも50%以上実行時間が短い
- 解釈:アルゴリズムAの方がアルゴリズムBよりもシステムXに適している
- 貢献の説明:システムXの実行時間をアルゴリズムAを用いることによって短くすることができる
- 問題:システムXの実行時間が長すぎて、問題Yに適用できない
読者にこの成果を完璧に理解してもらうために以下のように書くべきことを展開していく。
- 問題の重要性の理解について
- 問題Yを解くことが重要であることの説明を加える
- システムXとの説明をする
- システムXを用いて問題Yを解くことの有望さや必要性を説明する
- 問題Yを解くには今のシステムXの実行時間が長すぎることを説明する
- 今のところだれも、このアプローチをとっていないことを説明する。あるいは、未だ成功していないことを説明する。
- アルゴリズムAを理解してもらうために
- アルゴリズムAがBよりも性能が良いことを示すために
アルゴリズムの理解を増すために擬似コードやフローチャートを用意する。また、アルゴリズムAとBの実行速度の違いをはっきりさせるために速度向上率の表とグラフを用意する。
論文と発表資料の違い
二つの一番の違いは
- 読者は論文を読むとき、いつでも自由に前のページや後ろのページに移動できる
- 聴衆は発表を聞くとき、「今」話していることしか聞くことができないし、「今」表示しているスライドしか見ることができない
このため、発表資料は論文よりもよりツルツル頭に入ることが重要となる。発表では、聞いている人を途中で混乱させたならば挽回できない。