発表練習のやり方がわからない人向け簡易講座

卒業論文修士論文の発表が近いのに練習のやり方がわからない人向けの簡易講座です。

練習で何を達成すべきか?

練習で達成すべきは次の2点です。

  1. 発表時間以内に発表が終了できるようにする
  2. 原稿なしで、スライドをちらちら読みながら発表できるようにする
  3. 質疑応答時に5秒以上黙らないようにする

卒業論文修士論文の発表で特徴的な点は、学術会議や講演会での口頭発表と異なり、発表時間が非常に短いこと(長くとも20分程度。短くて5分程度)と試験であるという点です。発表時間のオーバーは、大幅な減点の原因になるので避けましょう。また、発表時間を越えてしまうと精神的にアップアップになってしまうことも多いため、質疑応答にも響きます。その点にも留意しましょう。

初心者は原稿を用意して、自分の発表を頭からお尻まで把握できるようにしたほうが無難だと思います。ただし、本番では、原稿を読み上げてはいけません。原稿読み上げは、聴衆に対して練習不足をアピールすることになります。最高レベルでは、スライドすら見ないで常に聴衆の方を向きながら発表するべきですが、初心者がそれを目指すと本番で頭が真っ白になり、何もしゃべれなくなるのがオチです。次点のスライドをちらちらみながら発表できるレベルを目指しましょう。

また、質疑応答において最悪の振る舞いは間違ったことを述べることではなく、沈黙することです。なぜ、沈黙が最も良くないかと言えば、質問者側からすると沈黙しているのは、時間稼ぎなのか、本当に分からないのか、考えているのかが分からないからです。先輩の卒業論文修士論文の発表を見たことある人はわかると思いますが、あの場での5秒の沈黙は非常に長いです。

ステップ1:自主練(録音なし)

すべての練習は必ず声を出して行います。近所迷惑になったり、研究室で他の人がいる場合は、無声音やつぶやきでよいので最低限口を動かします。また、必ず発表時間を計ります。

1回目は、発表スライドができあがった直後に行います。目的は、原稿の雛形をイメージできるようにすることと発表資料で読みあげづらい表現をピックアップすることです。10分程度の発表ならば、特にメモしておかなくて読みづらい点などを覚えておけますのでとにかく通しで練習します。

1回目の読み上げが終わった段階で、気になった点、詰まった点、ぎこちなかった点を修正します。その後、発表原稿を作ります。初心者は原稿を作ったほうがよいですが、それを作っている暇がなければ、スライドをノート形式で印刷し、それを原稿とします。

2回目以降の目的は発表原稿の完成です。注意点は、原稿を読み上げるとき「ちょっと、ゆっくりかな?」と思うぐらいのスピードで原稿を読み上げるようにするという点です。人は緊張すると早口になります。聴衆は、小さな声で早口に話すあなたを「ああ、自信がないんだな」と判断します。そう判断させないために、あらかじめゆっくりめで話すようにしてください。また、スライドを切り替えるときには、足で2拍拍子をとってから切り替えるようにしてください。

上記のことに気をつけながら、繰り返し練習を行い制限時間内に収まるように発表スライドと原稿を修正します。原稿の修正については、スライドの切り替わり時がぶつ切りにならないようにうまく接続できているかに注意してください。

制限時間内で発表を終えられるようになり、原稿も固まったら、以下の振る舞いを実行するタイミングを原稿に書き込みます。

  • 聴衆をざっと見渡すタイミング(1スライドに1回程度)
  • 差し棒 or レーザーポインターを手に持つタイミング(使用する直前)
  • 差し棒 or レーザーポインターを発表台の上に置くタイミング(不要になったらすぐ)
  • 間をとるタイミング(スライド切り替え時や図やグラフを表示した時)

スライドが映されているスクリーンやノートPCの画面をずっと眺めていると聴衆から「練習不足である」という判断が下されます。定期的に聴衆を見渡し、聴衆の反応を確かめてください。また、差し棒やレーザーポインターを常に持ったままでいると、手の震えが容易にばれてしまうので、使用する直前に手に持ち、不要になったら発表台の上にすぐにおくようにします。

原稿にこれらの行動を起こすタイミングを書いておくのは、これらの行動を含めて発表時間内に発表を納めるためです。

以降、2、3回動作付きで発表練習を行います。

ステップ2:人前で練習

最低2回は、指導教員あるいは先輩に自分の発表練習を見てもらいましょう。また、必ず質疑応答も行うようにしましょう。MP3レコーダーやビデオカメラがある場合は、自分の発表を録音 or 録画してもらいます。私の経験から言うと一回の発表練習に30分〜1時間かかります。

(追記)人前で練習する際には、発表スライドのノート配布形式(ハンドアウト形式)で人数分印刷し、直接修正点を直接書き込んでもらいます。ちなみに、PowerPointの場合ノート形式で印刷するよりも、スライド形式をプリンターの機能を使って1枚の紙に4枚 or 6枚配置するほうが無駄な余白がなくなり見やすくなります。

指導してくれる教員や先輩にできるかぎり厳しい質問をしてもらうようにお願いしてください。練習が厳しければ厳しいほど本番で楽をすることができます。先人曰く「練習でできないことは、本番でもできない」

以下の質問を必ずいれてもらってください。

  • 「あなたが解決しようとする問題はなんですか?」
  • 「その問題をどう解決したのですか?」
  • 「あなたの研究のウリを簡単に説明してください」
  • 「あなたの研究で一番難しかった点はどこですか?」
  • 「あなたの研究で一番時間がかかったのはどこですか?」
  • 「あなたの行ったことと先行研究の違いを教えてください?」
  • 「あなたの提案した手法を応用できる他の事例も教えてください」

ステップ3:質疑応答対策

質疑応答であなたが達成すべきことは、質問者の質問に華麗に答えるようにできることでも、質問者を逆にやりこめることでもありません。5秒以上黙らないことです。そこで、5秒以上黙らないようにするために質疑応答対策に時間を十分かけます。

まず、先輩や同級生に手伝ってもらい想定質問を列挙します。そして、その質問への回答スライドをおまけスライドとして用意します。このおまけスライドをつくる目的は安心感を得る点にあります。

5秒以上黙ってしまう原因は、質問を想定していなかったためです。想定していたならば答えを用意していますから、必ず答えられます(言葉遊びみたいですが重要なことです)。想定質問を十分列挙し、その質問への回答スライドを作っておけば、本番で想定外の質問がくる確率が減るわけですから、質疑応答をそれほど恐れることなく、本番を迎えられるようになります。

しかしながら、本番ではあなたは想定外の質問をもらうことと思います。しかし、想定質問を十分列挙し、その質問への回答スライドを作っているならば、あなたは回答スライドを作る過程で、あなたは自分自身の研究への理解を深めていますから、十分に対処できることでしょう。いわゆる、カンニングペーパーを作っていたらテスト勉強は万全だったという現象を狙うわけです。

質問と回答スライドが用意できたら、一人二役で一通り質疑応答をして見ます。必ず、質問も声を出して行うようにしてください。

次に時間稼ぎ用の返答を練習します。次の返事を声に出して、各20回ずつ練習してください。

  • 聞き取れなかったとき
    • 「申し訳ありません、ご質問が聞き取れなかったのでもう一度お願いできますでしょうか?」
  • 質問の主旨が理解できなかったとき
    • 「申し訳ありません、ご質問が聞き取れなかったのでもう一度お願いできますでしょうか?」
  • 考える時間を稼ぎたいとき
    • 「今のご質問は〜ということでよろしいでしょうか」(と、復唱しながら時間を稼ぐ)
    • 「少し考える時間をいただいてよろしいでしょうか」(20秒ぐらいが限度)
  • 回答に使うスライドを探すとき
    • 「今のご質問に関係するスライドを表示いたしますので少しお待ちください」

最後に、答えられなかったときの返事もあらかじめ練習しておきます。次の返事を声に出して、各20回ずつ練習してください。

  • さっぱりわからないとき
    • 「申し訳ありません、勉強不足のためお答えできません。」
    • 「その点に関しては全く考えておりませんでした。今後の課題にさせていただきます。」
  • 明らかな穴や足りない点を指摘されたとき
    • 「おっしゃるとおりです。卒業/修了までに〜を追加いたします。」
    • 「おっしゃるとおりです。今後の課題にさせていただきます。」

評価の基準は、「質問に的確に答える > わからないという/指摘どおりと認める > 黙る」です。とにかく黙らないように自主練します。

ステップ4:前日昼まで

十分に納得するまで練習を繰り返します。練習にうんざり感を覚えるぐらい行っておくと本番が楽です。

注意点は以下のとおりです。

  1. 大意と流れがあっていれば、発表ごとに話してる内容が変わっても良い。演劇ではないので原稿の丸暗記は不要。
  2. 語尾が消えないように注意する。「〜です。」「〜ます。」の音量が小さいと自信なさげに聞こえるので最後まで音量を同じにする。

ステップ5:前日夜

遅刻してしまうのが一番怖いので、明日もって行くものを前日に準備しておきます。ドレスコードは事前に先輩や指導教員に確認しておきましょう。確認できなかったら、フォーマルにしておくのが無難です。

また、一番注意したいのが、発表資料のバージョンです。前日夜、寝る前まで発表資料をいじっていると、修正前のバージョンで本番に臨んでしまい、それだけでパニックになるということがよくあります。必ず、最新の発表資料を用意し、念のために最低限2種類ぐらいの方法で会場にもっていけるようにします。USBメモリと電子メールあたりが無難でしょう。

前日は早めに寝ます。緊張して寝れないならば別に寝なくても良いですが風邪をひいて声がでないというアホな事態に陥らないように注意します。

ステップ6:当日

本番の3時間前ぐらいには起床していてください。貧血や低血糖による不調を防ぐため、発表前にちゃんと食事をとっておくのを推奨します。また、声帯をあっためるために家を出る前にラジオ体操の第一体操をざっとやっておくのが良いでしょう。筋肉をほぐすと緊張もある程度ほぐれます。

最低限、発表の1時間前までには会場に到着するようにしてください。

おわりに

あなたの学科や専攻の1学年の人数は何人でしょうか?頭に思い浮かべられましたか?その人数のほとんどが毎年、ちゃんと卒論発表、修論発表を終えて卒業・修了していっています。冷静に考えれば、毎年、十数人あるいは数十人ができることをあなたができないはずがありません。

十分に準備して、自信を持って本番に臨んでください。

追記

  • takehikom 練習は本番のつもりで、本番は練習のつもりで/学生からのありそうな質問「発表準備に何日かければいいのですか?」

わだいのたけひこのざっき:発表準備に何日かければいいのですか?ですでにお答えくださっていますが、私も私なりにお答えを。最低4日必要です。

  • 1日目:ステップ1を実行
  • 2日目:教員&先輩に一度見てもらう&その後、修正
  • 3日目:教員&先輩に一度見てもらう&その後、修正
  • 4日目:午前中に質疑応答対策

既に何度か発表経験があるのでしたら、他人に1度見てもらうだけで良いですが初めての発表ならば最低でも2度見てもらわなければどうにもなりません。

追記2

  • toled なんでウソつくかね。卒論修論は字数がうまってれば合格。これ定説。よもや「発表」で評価されたりしない。客観的に価値のあるものを評価しないと恥ずかしいことになるので全力でわかろうとするよ聴衆は。がんば!

こういう学科や専攻もあると思いますが、これは学科や専攻によって異なりますので昨年度の様子や中間発表の様子をよく観察してください。私の所属学科・専攻では、むしろ「発表」で合否判定を決めます。最終発表まで至った学生を卒業させないことは少ないですが(最終発表で落とされそうな学生はそもそも最終発表させない)、少なくとも再発表、ひどい場合には再発表&論文再提出を課す場合があります。

過剰に恐れる必要はありませんが、あまりなめすぎると痛い目みることもあるので十分に準備してください。

追記3

Twitter@yowskeさんと@MarriageTheoremさんに「このやり方に従うといい間違えたときや予想外の事態が起こったときに発表を立て直せないのでは?」という指摘をいただいた。確かに、発表を作り上げるのは初心者が自分の発表の型を固めるのには良い方法だけれども、一方で、予想外の事態が起こったときに弱い方法であることも確か。

ただし、私の考えとしては卒論/修論審査会がはじめての口頭発表である人は、口頭発表初心者であることが多いので、まずは型作りのために発表を作り上げておくほうが良いと思う。